Lilaclavender

一風変わった交通手段を使う国内旅行、およびNHKドラマについて綴っていきます。

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マガジン

  • NHK大河ドラマ『光る君へ』/『枕草子』

    2024年放送NHK大河ドラマ『光る君へ』および清少納言『枕草子』について取り上げた記事をまとめています。

最近の記事

いなかへじの笛

『枕草子』で主上(一条天皇)が登場する段、とりわけ少年時代の話には、どこかほのぼの感が漂う。 清少納言にとって直属の主人である中宮定子については「すばらしい」「素敵だ」と絶賛し、数々の機知に富んだエピソードや、身に余る心遣いや厚情を綴りながらも、大人どうしの人間関係ならではの緊張感が文章の端々からうかがえる。 一方帝に対しては、何の衒いもなく、ただ純粋に「すばらしい」と讃えている。 もちろん天皇だから、この世で最も高貴な、この国を統べるお方だから…という思いが第一だろう

    • 『暮しの手帖』75周年

      4月に、雑誌『暮しの手帖』に関する記事をいくつか書いた。 公開すると、20前後のスキをいただいた。 目に止めてくださった皆さまにお礼を申し上げる。 同時に、この雑誌の偉大さと、社会に遺した影響力に改めて気づかされる。 amazonを見たら、昨年秋に創刊75周年記念別冊を出したという。1948年創刊だから、2023年に75周年である。 久しぶりに購入してみた。 懐かしい表紙裏一見して花森安治編集長の筆によるとわかる、セピア色イラストの表紙。創刊号表紙絵を模す形で、後年描い

      • あてなる甘葛

        ある夏の日、車折神社に出かけた。 古くからの石造り玉垣のほとんどに「金壱百圓」と記されている。戦前に寄進されたものだろう。 境内には「清少納言社」という小さな祠がある。 この神社は清原頼業(きよはらのよりなり、1122-1189)を祭神とする。彼は清原広澄(934-1009)を始祖とする「広澄流清原氏」の一員で、清原元輔や清少納言を輩出した「皇別清原氏」とは異なる一族と考えられている。しかし神社では「同族」として清少納言を祀っている。 広澄は1004年に清原姓を名乗っ

        • 【光る君へ】第23回「雪の舞うころ」

          座長が映ると今回は久しぶりに、そうイライラせず見られた。制作陣が故意に貶めて描く方針のキャラクターが登場しなかったためだろう。道長の言動もようやくブラック化してきたし。やはり道長には父親以上の「ワル」になってもらわなければ。 越前の松原客館や国府における、宋人や地元の役人たちの思惑の交錯も、それなりに見ごたえがあった。昔の大河ドラマならばメインパート扱いになるところだろう。異文化との出会いや、異国との通商を巡る駆け引きを描くストーリーが長く好まれてきたのは、幕末の「黒船来

        いなかへじの笛

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        • NHK大河ドラマ『光る君へ』/『枕草子』
          23本

        記事

          短いほうの時間

          春はあけぼの。 夏は夜。 秋は夕暮。 冬はつとめて。 『枕草子』冒頭の、あまりにも有名な言葉である。 有名になりすぎて、『枕草子』はそれだけかと思っている人は、数ヶ月前までの私自身も含めて、少なくないだろう。 改めてこれらの言葉を見ると、各々の季節において「より短いほうの時間帯」に風趣を感じる心が伝わる。長いのは好きでないのだ、いろいろな意味で。 あけぼの、すなわち夜明けの薄明は忍び足のように始まり、ほんの少しの時間あかね色の空と紫色の雲を見せ、赤玉のような太陽が顔を出

          短いほうの時間

          【光る君へ】第21回「旅立ち」

          感涙にむせびたかったけれどウイカさんが「現時点での一生のお願いです。」と勧めていた「光る君へ」第21回。 『枕草子』起筆が描かれた。 本来ならば「感慨無量」と涙するところだが、なんでまひろ発のアイデアにするのかな~。まずそこでしらけてしまう。 作劇上やむを得ず、為時宅で油を売っている場面から発展させたいのならば、せめて清少納言が自ら思いつく筋書きにしてほしかった。 たとえば… 中宮が懐妊したこと、しかし食欲がなくこのままでは母子ともに心配なことを清少納言がまひろに話

          【光る君へ】第21回「旅立ち」

          失速する光~「光る君へ」第20回までの総評(2)

          『枕草子』の読者は多い「光る君へ」制作陣の大きな誤算は、『源氏物語』のみを特別視して、『枕草子』を一段下げて位置づける姿勢を取ったことにも認められる。 NHK出版で発行された「大河ドラマガイド 光る君へ 前編」で大石静先生は次のように述べている。 大石先生自身はそのような感触を抱いても、いざ脚本を執筆する段となったら大切な仕事だから、大人の対応をなさるだろう、あだやおろそかには扱わないだろう…と思ったら、見通しが甘かった。 『枕草子』は、長らく『源氏物語』と並び称され

          失速する光~「光る君へ」第20回までの総評(2)

          失速する光~「光る君へ」第20回までの総評(1)

          はじめに&おことわりNHK大河ドラマ「光る君へ」は、2024年5月19日に第20回が放送された。次回の終盤からしばらく、舞台を越前に移す。物語は大きな区切りを迎えた。 そこで、本稿では第20回までを「第一次平安京編」と位置づけて、総評的な意見を書いてみたい。 …と意気込みつつ、大枠を設定した下書きを作っていたが、「こんなはずではなかった」と、正直ぐったり疲れている。ドラマ放送を機に『枕草子』を軸として平安時代に興味関心を持ってしまったのは自分の目利き違いで、不覚を取った

          失速する光~「光る君へ」第20回までの総評(1)

          温泉とほうとう

          早くも真夏日が到来している昨今、いささか季節はずれのタイトルをつけてしまったが。 『枕草子』のお話である。 『枕草子』お勧めの名湯?『枕草子』の一部の本には、以下の記述が掲載されている。 現在一般の書店に流通している『枕草子』の本に、この段はない。『枕草子』には”三巻本”と”能因本”という、異なる系統の写本があるがゆえの現象である。 平安時代にはもちろん印刷やコピーの技術はない。書かれた作品は人力で筆写して広めていくより他なかった。誤写や脱落などの”うっかりミス”は当然

          温泉とほうとう

          【光る君へ】第19回「放たれた矢」

          はじめにお礼ですSNSを見ていたら、「光る君へ」第17回・第18回についての本noteレビュー記事を紹介している方がいらっしゃった。過分にも、好意的なご感想をいただけていた。 no nameさん、この場を借りてお礼申し上げます。お目に留めてくださりありがとうございました。 平安時代や文学作品についてのわが知識は、はるか遠い昔の受験生時代のままで止まっています。今回大河ドラマで平安時代中期を取り上げると聞いて『枕草子』および関連作品に目を通してみたら存外面白くて深掘りしは

          【光る君へ】第19回「放たれた矢」

          50週

          この記事を公開したら 「50週連続投稿!」 というメッセージがパソコン画面に表示されるはずである。 50週、すなわち1年近く毎週何かしら書き、noteに載せ続けたことになる。最初はフェリー旅行記や下手の横好き写真、うどん店レポートなどを載せていたが、そろそろネタ切れかというところで大河ドラマ「光る君へ」が始まり、その感想で延命できた。最初は展開に夢中、やがてちょっとした違和感を持ち、それが次第に広がっていく過程まで記録してしまった。 テレビ番組や読書で得られた発見や思

          【光る君へ】第18回「岐路」

          今回も簡単に済ませたい。 大石先生や制作統括さんは、道隆一家(中関白家)に何か個人的な恨みでもあるのだろうか?道長を少しでも良く描くために負のバイアスをかけなければならないという固定観念にとらわれすぎていないだろうか?道隆も道長も、当時の貴族の常識に則って政を進めていたはずである。 今回描くべきだったできごと伊周の「皇子を産め」暴言ハラスメントは正視に耐えなかった。前回の道隆は病身で余命いくばくもなく、錯乱状態ということにしていたからまだしも、今回はシャレにさえならない。

          【光る君へ】第18回「岐路」

          高齢者と呼ばれたい

          東京から東名高速を西へ行くバスに乗車するとき。 都心を離れて40分ぐらい過ぎたところで 「70歳代を高齢者と呼ばない都市 ××市」 と大書してある横断幕が張られた陸橋が前方に見えてくる。 旅心が一瞬曇る。 …余計なお世話。 バスが陸橋をくぐると、次の風景が苦い思いをすぐ洗い流してくれるから、まだ救いがある。 この市の住民でなくてよかった。 いつのころからだろう。 70歳、80歳… 年老いても労働を続ける人がことさらにもてはやされ、唯一正しい行いであるかのように喧

          高齢者と呼ばれたい

          【枕草子】再び、香炉峰の雪

          ドラマで作ってくれないのならば「光る君へ」では、『枕草子』のエピソードをあまり取り上げてくれないみたい。宣孝御嶽詣での時は期待したが、あれはまひろにも関わる話だから採用したということなのか。そもそも藤原道隆一家の描き方が雑過ぎ、下げ過ぎと感じる。貴族の傲岸ぶりは道長政権になってからもそう変わらないと思うが…。 嘆いていても詮なきこと。ドラマで作ってくれないのならばnoteで書こう。スキの数など気にせずに。 これまでもいくつか取り上げてきたが、不定期にでも『枕草子』にある

          【枕草子】再び、香炉峰の雪

          【光る君へ】第17回「うつろい」

          長文を書いて、消した。 思うところはいろいろとあるのだが。 かなふみをひとつ作った。 まずは楽しもう。 「ステラnet」のサイトで定子さまが、「もし(井浦)新さんがあんなふうに責めてきたら、自分の記憶を改ざんしそうですね。」と仰せになられていた。 せっかく素敵な役者さんを呼んでいるのに、演じていてそのような思いを強いる脚本って…どうなのよ。 井浦さんにプライベートで「ヴィラン(悪役)の関白でいなければならないゆえ」と断りを入れさせる脚本ってどうなのよ。 定子さまを、

          【光る君へ】第17回「うつろい」

          「暮しの手帖」を読む~戦争を語り継ぐ心理

          「いつものほうがいい」1968年夏。 仕事を終えて帰宅した父が勤務先の購買部から持ち帰った「暮しの手帖」を、母に渡した。 当時36歳だった母は雑誌を一瞥して 「おもしろくない。いつものほうがいい。」 と言い、嫌そうに顔をしかめた。 ☆☆☆ 「暮しの手帖」第96号(第1世紀)は、一冊丸ごと「戦争中の暮しの記録」だった。料理レシピも商品テストも、ルポルタージュも随筆も、暮らしのヒントも連載記事も投稿欄も、全てが「1回休み」とされた。 今思い返せば、この時の私はまだ小

          「暮しの手帖」を読む~戦争を語り継ぐ心理