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深海、呼吸は浅瀬。

𓇼𓆡𓆉 ⋆

  海に行ったら必ず呼吸が荒くなる。
何が原因でこうなったか、何が怖いのか。
そもそも呼吸が荒く苦しいのは海が怖いから?

  小学五年生の時、水族館へ遠足で行った。
海中トンネル。その水族館のメイン。もちろん人も多くて人気だと聞いたし、入ろうと思っていた。
でも私だけ入れなかった。魚が悠々と泳いでいてその横を人が歩く。たったそれだけなのに、雰囲気を出そうと真っ暗のなか水が光っている。私は入れなかった。
すぐに息が上手く吸えなくなって、吸えても浅く。「海中トンネル」実際に海中なのでは無い。海の中に模した水槽。トンネルに入ろうとすると体は反して呼吸を浅くする。いつの間にか入口でしゃがみこんで、目の前が真っ暗になって、深海にのみ込まれてしまった。

  私にとって海って。海の中が苦手だった。溺れる、のみ込まれるっていう感情に私が、のみ込まれている。
これをわかってくれる人は周りにはいなかった。
浅瀬はいい。綺麗だし、神秘的で浄化されている気分になる。深海は?暗いし出て来れないという思いでいっぱいになってくるしい。

  一人で海に行ったこともあった。暑い夏の日。
浅瀬は大丈夫だった。晴れていた。
しかし、天気予報とは裏腹に雲が波のように流れてきて
私の頭上を覆った。小雨が降り始め辺りは薄暗く。
意識的に思ってしまった。海中トンネル。
すぐに耐えられなくなってしゃがみこんだ。またか。くるしい。

  海はとんでもなく広い。広大すぎて視界にも収まらない。その大きさが、大きすぎた海は私をいつものみ込んでいく。

𓇼𓆡𓆉 ⋆

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