小説:わたし、クリーム中心

高校2年生。
一般的な学生、月曜日、学校に行けなかった。体調が悪いとか、家の用事だとか、休む理由にするには疑われてしまいそうな、そんな理由すら付けられなくて、  
 
今日はむりです。すみません。  

とだけ電話越しに振り絞った。今思えば一瞬だったあの沈黙も、受話器を持っている間は、そう、テストを開始する1分前と同じような長さで。沈黙を破って担任は

ああ。わかった。じゃあまた後で連絡する。

とだけ言って、受話器の奥からは朝の職員室の一日を表すようなザワザワしてる感じも聞こえたが、それはすぐ切られた。


高校2年生になって、行かなかったのは今日が初めてだった。学校は大好きだと両親に伝えていたので何度も理由を聞かれた。正直うんざりだった。散歩でもしようと思うのに着替えるのが憂鬱で。わざとらしく息を吐く。

土曜日は体育祭だった。私の大好きな行事で、惨敗したのに、人生でいちばん楽しかった。
いつもこうだ。楽しいこと、大好きなこと、私の気分が左右されること、そんな非日常の体験をしたあと、現実に戻るのがすごく怖くなる。怖気付いてしまう。
なんでみんな溶け込めるの。私には出来なかった。


今日は休んだ人は私だけらしく、

  月曜クラスTとデコメガホンでインスタ用の写真撮ろ            って言ってたじゃん。

とメッセージ。

  体育祭はもう終わったのに。そんなことしたらもう固まって固体となってしまったアイスみたいにソーダに溶け込めなくなるよ。もう溶けられないよ。

もちろんそんなことは言えるはずなく、

 疲れ溜まってたのかな。ごめん熱出ちゃって。

言い訳を考えるのだけは早くて、むしろ言い訳として演じた自分が本当なのでは。と思う。


わたしはアイスとソーダを別々に楽しみたいし、混ぜるのなんて絶対したくない。なのに。
いつも間にか私の意志とは反して溶け込んで、ソーダはソーダらしくなく甘さに包まれて。
慣れたら元のソーダの味なんて分からなくなるのかな。
いつだって、クリームソーダはアイスとソーダは別々だし、混ざりあうことのないほうがって。
そんなことクラスのみんなは思わないんだろうな。
わたしはアイスだけすくってソーダを飲みほす。

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