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【エンタメ小説】東海道五拾三次OLスキー珍道中 第七話 藤沢

藤沢

 戸塚宿を出て、しばらくなだらかな坂を登っていく。
 それがJR藤沢駅近くからは、下り坂。
 道場坂《どうじょうざか》と呼ばれるところだ。
 気持ちよく滑り降りていく。

 藤沢の本陣を過ぎると、源義経首洗い井戸。
「何で昔の人って、すぐに首を洗いたがるのよーっ」
 と、霊感の強いタマコは早くこの場を離れたい。
 スキーのエンジンを吹かして先に行く。

 お化け屋敷のときのようなことは、二度とごめんである。
 もっとも、ここにはアトラクションは用意されていない。
 ただの史跡である。

 小田急線の線路を越えて、引地川《ひきじがわ》を渡る。
 これからJR大磯駅の手前で線路の南に出るまで、JR東海道線のすぐ北側を、線路と並走するように滑っていく。

 藤沢と言えば、景勝地で知られる江ノ島もある。
 この辺り、カラッとした気持ちのいい空気感だ。
「でも、夏に来たかった〜」とミケコ。
「あら、冬も素敵よ〜」とタマコ。
 夏はサーフィン、冬はスキーが、近未来の湘南スタイルだ。

 しばらく緩やかな道のりが続くが、逸る気持ちを抑えて、途中休憩しないと、先が思いやられる。
 茶店に入って、一休みである。

「えーっと、お馴染み東海道饅頭の他にも、東海道最中に東海道三色団子もあるのね」と、メニューを見てどれにしようか悩むミケコである。
 これらの東海道とつくお菓子は、全て弥次喜多グループのオリジナル商品。
 近未来の旅人たちに親しまれている。

「これは?東海道カチカチアイス」とタマコ。
 昔、東海道新幹線の車内販売に、よく似たものがあったそうだが、それとは別物である。
「ふーっ、一服、一服」
「一服は旅の醍醐味よね」
 と、海の方を眺めながら、身も心も充電。
 英気を養う。

「さて、行きましょうかね」
「そうそう、私たちがまだ若いうちに」
 一度、腰を下ろすと、そのまま根が生えてしまいそうだが、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 特に歴史マニアのミケコは、気持ちが昂っていた。
 それというのも、今宵の宿の予定は小田原宿。
 小田原では、なんとあの小田原城に宿泊することができるのだ!

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