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【落語小説】あやかし妖喜利物語 第5席 七度狐

七度狐

「な〜んか、狐に化かされたみたいだなぁ」
 エンチョ師匠の家を出て、一路エードを目指す与太郎である。この辺は田舎らしく、田園風景が広がっていた。

「爺さんは妖怪がウヨウヨしてるって言ったけど、のどかなもんだねえ」

 50過ぎのおっさんから若者に変わって、体が軽い。エンチョに少し路銀を貰っているので、途中の茶店で串団子を10本買った。それを頬張りながら、軽快な足取りで歩いて行く。

「注意してよね。もういつでも妖喜利バトルを仕掛けられてもおかしくない状況なんだから」

 隣を行くのは花魁キセガワだ。女性と歩いたことのない与太郎は間が持たなくて、つい団子を食べ過ぎてしまう。

 10串あった団子はたちまちなくなって、空の串を何気なくポイッと道端の草むらに放り投げた。

「ダメよ、そんなことしちゃ。草むらに狐でもいたら仕返しされるわ」
 ビビりの与太郎はちょっと構えていたが、草むらから狐が怒って飛び出すなんてこともなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。

「なんでえ、脅かすなよ」
「さっきお稲荷さんの鳥居があったの見たでしょ?使いの狐がいたっておかしくないわよ」

 そういやそんなのあったかなと、ぼんやり考える与太郎である。そのうち急にお腹が痛くなり始めた。

「あ、いてて、いてて。ちょっとすまねえキセガワさん。向こう向いててくれないか」

 生来のデリカシーのなさを誇る与太郎である。呆れるキセガワを放っといて、適当な草むらに駆け込んだ。

「あ〜、スッキリした」
「信じらんない。水色の着物の人だってそんなことしないわよ」
 そのときである。

「やい、やい、やい!待ちやがれコンチクショウ!人の頭にこんなもの据えていくたあ、何事だ!この俺様が七度狐様だと知っての所業か!!」

 草むらから血相変えて飛び出してきたのは、一匹の狐。それが人の言葉を操り二本足で立っているところを見ると、妖怪なのであろう。可哀想に、頭に今し方与太郎から出たばかりの野ヨタローを乗せていた。

「な、何だ、てめえは」
「そいつはこちらの台詞だ!この野郎、ただじゃ済まさねえぞ!座布団丸ごと引っぺがしてやる!」

「妖喜利バトルよ!準備はいい!?」
 緊迫した声でキセガワが叫んだ。

【妖喜利バトル開始】
 ハイハ〜イ、キセガワよ。今物語では与太郎と妖怪が妖喜利バトルの真っ最中だけど、読者のみんなも、良かったらコメント欄を使って楽しんでみてね。それではお題行ってみよ〜。

(お題)
 狐と言えば、昔話なんかでは人を騙すイメージがあるわよね。そこで皆さん「あ〜、騙された〜」って言ってくれる?私が「どうしました?」って言うから、更に一言続けてもらえるかしら?

(与太郎の回答)
「あ〜、騙された〜」
「どうしました?」
「生まれる前、神様から人生は努力すれば報われるって聞かされてたんです」

 …いかにも与太郎っぽいわね。

※七度狐…東の旅の中にある噺。ゴミを捨てた旅人が狐にきつい仕返しをされる。
※水色の着物の人…笑点で下ネタはお馴染み三遊亭小遊三師匠。

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