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横顔

精神的に幼かった私でも、中学生ともなるとなんとなく、自分の容姿が気になったりする。
うちの母はまだ農家が多い土地柄の中で、外に働きに行って小綺麗にしていたし、父もソコソコの男前だと思っていたので、両親共に中の上くらいだろうと思っていた。
でも、私は。全く容姿に自信が無かった。なんせ母には可愛くない、何を着せても似合わないと言われて育っているのである。

それでも、ちょっとくらいは…と一縷の望みを抱いてこっそりと母の三面鏡を覗くことも、ときどきあった。

辛辣だったのは溝口さんだ。
「目とか鼻とかひとつひとつはいいんだけど、全部合わせると変なんだよねー」
こう言われた時は、流石に絶句した。

そんななかで、
「さとは横顔がすっごく綺麗なんだよ」と公言して憚らなかったのが、さっちゃんだった。
褒められ慣れてない私は、居心地悪かった。都度否定するけれど、自信を持って彼女は男女問わず、クラスメイトに話していた。心中、穏やかでない私。なんと言うのか、嬉しいんだけど、さっちゃんは信じていいお友達だけど、「本当?」という疑問は常について回った。

そんな時、男女構わず人気のある大井くんがそれを聞きつけ、その「横顔を見せて」と言って来たのだ。彼とは、新聞のクイズの話をきっかけに、よく話をするようになった数少ない私の男友達だった。

ギクリ

この申し出に、こんな言葉が似合うように、私は大井くんを男子として意識してしまった。

さっちゃんは社交的な子だから、もちろん、男子にも話していたけど、そんな事を聞いたからと言って、せいぜい、ジロジロ見られる程度だろうと思っていた。

なのに、彼はまっすぐ申し出てきたのだ。
正直、パニクった。もちろん、断った。何度も何度も。でも、拝むように頼み込まれて、戸惑いながら引き受けた。

何のことはない、横顔をさっちゃんの指定の角度から見てもらうだけの事なんだけど。
それで大井くんがどう思ったかは、その時にはきけないまま。

私の中にはちょっと意識する気持ちが湧いてしまったけれど、とてもモテる子だったので、とても私の事なんか眼中には入らないんだろうな…と想う事さえ、早々に諦めてしまった。

私の知らない横顔。横顔には人となりが出ると言うけど、さっちゃんや大井くんは私の横顔に何を見てどう感じたのか、今でもわからないままである。

でも、こんなに褒められたと言う経験は、私の中に、自信という小さな芽を植え付けてくれた。

「わたしだって」

何かあった時に、そう思ってがんばろうとか、悔しいとか、自分を肯定するきっかけになる言葉の種になったのは、間違いない。

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