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目立ちたいんじゃないの?

進学した地元の中学には吹奏楽部が無かった。そこに俄かに湧いた「今年から吹奏楽部ができる」という情報。音楽好きの私が飛びつかないわけがなかった。
まがりなりにも、ピアノ歴6年、音楽の成績だけは優秀だったし、実は「新世界」のトランペット🎺に憧れていた。最後列で、ビシッと立ち上がって、天にも届くかのようなあのフレーズが、とても好きだった。だって、私には無い華やかなものだったから。

もちろん、説明会初日から飛び込んで行った。それまで、他の部の体験入部に行っていたけれど、そんなものは全く眼に入らなくなっていた。

最初の説明会では、いろんな楽器のマウスピースを出されて、『音が出たら入部可能』と言う説明だった。

マウスピースなんて初めてだった。銀色に光るトランペットのマウスピースに思いっきり息を吹き込んだ

ぶー

なんとも間抜けな音が出た。でもこれで第一関門突破。合格のサインだった。他にもクラリネットとフルートを吹いてみたけれど、フルートは不合格だった。
そんなことはどうでも良いのだ。私はトランペット希望者として、真っ先に手を挙げ、入部を許されたのである。

先輩も経験者もいない、にわかづくりの吹奏楽部である。音楽室も使わせてもらえず、最初は日の当たらない金工室が部室だった。
楽器を珍しがった人が何人も覗きにきたり、友達を訪ねてきては、音を鳴らしたがった。

ピアノもそうだけれど、私は基本練習が苦手だった。けれどやらねばならないことはわかっていた。そこに集中したいのに、毎日のように、訪ねてきては、楽器を珍しそうに見ては、きゃあきゃあ言う輩は、私の心を乱す、いわば"敵"だった。そんな子たちに、私はあまりにも無力だった。

ADHDやASDの特性として、好きなことには過剰に集中できるが、苦手なことには集中しづらいという特性がある。まさに私はそうだったんだろう。

雑音を掻き消すように、だんだんと大きな音で基本練習をするようになった。毎日毎日、少しずつ大きな音を出すようになった。

ある日。とうとうその叫びをトランペット🎺から吐き出してしまった。

ぷわぉ〜

甲高くゾウの雄叫びのように響き渡った音に、周りは水を打ったように、シン…となった。そしてざわざわと小声で囁きが聞こえてきた。

「なに?あれ」
「知らなーい」
そんな声の中に

「目立ちたいんじゃないの❓」

と言う声があった。

そんなんじゃない。そう否定したかったけど、でも。100%そう言い切れない私がいた。だって、私が憧れたトランペットは、誰よりも目立って堂々としていたから。

恥ずかしさと悔しさと情けなさと。

でも、何もできずに、知らん顔して、練習を続けるしかなかった私。
図星だったあの言葉は、小さな胸にしっかり突き刺さったまま。
今も私を苦笑いさせる。

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