空を旅する
東京ステーションギャラリーにて行われている「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展へ行ってきました。
フォロンについては、全く知らなかった私。
でも、予告案内の絵をひと目見ただけで、一気に惹きつけられ、これは絶対見に行こうと心に決めたのでした。
柔らかな色彩に、何処か不可思議な世界観。
日常と空想の間を、行ったり来たりしているような。
どちらが本物でどちらが真実か、わからなくなるような。
フォロンの絵は、一見キラキラと粉砂糖のかかったスイーツみたい。
だけど、ひと口かじると、案外スパイスが効いていてピリッとした大人の味です。
空には虹がかかり、美しい海の中にはカラフルな魚たち…と思ったら、よく見れば魚雷だったり。
手のひらから餌をついばもうとしているのは、可愛い小鳥…ではなくて、ミサイルだったり。
自然破壊、戦争、社会問題…など、様々な思いや訴えをユーモアにくるんで。
時には激しく毒々しいほどの色使いで。
フォロンは、私たちに語りかけてきます。
あなたは、どう思う?
何を感じる?
考えを聞かせて…と。
この絵に限らず、フォロンはどこか異質なもの、違和感のあるものを、よく作品に紛れこませています。
印象に残っているのは、背中にゼンマイがついてる男たちの絵。
そして、ただ1人、ゼンマイのついてない男。
男たちは彼を見て、指を差したり噂をしている様子が描かれています。
私たちの世界では、ごく普通の人。
なのに、このゼンマイ男たちの世界では、彼は異質なもので指を差される対象になってしまう。
似たようなことは、現実の世界でもよくあることで。
海外に行ったら日本の常識が通じなかったり。
学校や職場など、狭い枠組みの中で当然とされていたことが、一歩外に出てみれば、全くおかしな話であったり。
それは本当に違っているの?
あなたの方が、違っているんじゃない?
あなたの目に見えているのは、真実?
そんな風に、フォロンに問われている気がします。
フォロンが工業デザイン科の学生だった時、ルネ・マグリットの壁画を見て衝撃を受けた、という話を聞いて、なるほど…マグリットの影響を受けていたのか…と、なんだか納得でした。
空に浮かぶ大岩の城。
巨大なグラスに乗っかった雲。
空から降ってくる紳士…。
マグリットの描く世界と、フォロンの描く世界。
表現方法や訴えかけているものは違えども、空想の世界へいざなうという点では、どこか通ずるところがあります。
空や浮遊感に魅せられているように、感じられるところも。
フランスの文豪マルセル・プルーストが、考えや価値観などを知るために考案した「質問帖」。
フォロンも回答しているのですが、ここでも、空や飛ぶことへの憧れのようなものを感じました。
自由自在に泳ぐことは、私には飛ぶことと近いように思います。
ペンギンが、まるで空を飛ぶように水の中を泳いでいるイメージがあるせいかもしれません。
フォロンのいちばん好きな鳥は、「アホウドリ」だそうですけど。
作品中にも空や宇宙、鳥、飛ぶ人がよく描かれている気がします。
彼の求めてやまない夢、のようなものでしょうか。
「AGENCE DE VOYAGE IMAGINAIRES(空想旅行エージェンシー)」と名刺に記していたフォロン。
彼の空想旅行には、欠かせないアイテムだったのかもしれません。
フォロンの絵の大きな魅力のひとつは、あの美しくハッとさせる色使いだと思いますが、私は初期の頃の、白黒で描かれた作品にも強く惹かれました。
ほとんどは無題。
さらさらっとシンプルに、まるでイタズラ書きのように描いているようで、全てがあるべき所にピタッとはまっているような。
今回は、初期の作品約50点を収めている、こちらの本を買って帰りました。
この本には、前述したマルセル・プルーストの「質問帖」への回答も載せられていて、他にも興味深い回答がいろいろありました。
こうして見ていくと、フォロンという人が少し分かってくるような気がします。
けっこうお茶目な方なんだな、ということも。
お茶目といえば、フォロンは来日したこともあるのですが、その時にどうやらハンコがお気に召したよう。
日本から絵手紙を送る際にも、ハンコを多用していました。
自分の名前「フォロン」のハンコをペタリ。
山の絵には、上から「山」のハンコをペタペタ。
太陽の上にも、「太陽」のハンコをペタペタ。
いくつも、いくつも(笑)
まるで、新しいおもちゃを手に入れた子どものようで、笑ってしまいました。
今回、ギャラリーにはジュニアガイドも置かれていたのですが、これが非常によくできていて感心しました。
実際に、このメガネで覗いている子どもは、残念ながら見かけませんでしたけど。
私は、ちょっとやってみたい衝動に駆られましたが、ガマンしました(笑)
フォロンによる空想旅行への旅。
空を飛び、矢印に翻弄され、美しくも不思議な世界にたどり着く。
きっとギャラリーを出る頃には、すっかりフォロンの絵に魅了されているはず。
そして、ちょっぴり「いつもとちがう」自分に変わっているかもしれません。
フォロン展は、9/23までとなっていますので、どうぞお早めに!
〈オマケの話〉
マルセル・プルーストの「質問帖」について検索していたら、偶然、スティーブン・キングのこんな回答も見つけました。
なんか、わかる(笑)と思ってしまいました。
犬好きさんだから、『ペット・セメタリー』のアイデアを思いついたんでしょうか…。
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