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そして今日も

私には、ずっと続けている朝のルーティンがある。
それはムスメが学校に行く時、必ず玄関までいっしょに行き、ドアから手を振ってお見送りすることだ。


思えば新婚時代、オットが会社に行く時もお見送りしていたっけ。
「早くお帰り」の気持ちを込めて、主の居なくなったスリッパの向きをクルリと揃え直したりして。
その習慣は早々に廃れてしまった(笑)が、ムスメの見送りは欠かさず今も続いている。


元々は、幼稚園の園バスに乗せるためにいっしょに家を出て、「行ってらっしゃい」と手を振って見送っていたのが習慣化されたのだろう。
小学生になって、初めてひとりで学校に向かうようになると、心配でなるべく最後まで見届けたいという気持ちがあったからかもしれない。


もちろん毎日のことなので、いつも笑顔で…というわけにもいかない。
不機嫌でボヤきながらの日もあるし、出かける前から「あ〜、帰りたい」と言ってる日もある。
(いや、まだ家を出てもいませんよ 笑)
出がけにトラブルが起きて、メソメソ泣きながら出ていく日もあった。

それでも、毎日手を振って「行ってらっしゃい」と言う。
頑張って。
楽しんでおいで。
そして、必ず帰っておいで。
そんな気持ちを込めて。


人間、何があるかわからない。
行ってらっしゃいと送りだした後に、不慮の事故に巻き込まれるかもしれない。
誘拐される可能性もないわけじゃない。
自分に何か起きる場合だってある。
当たり前の日常が、突然パタリと閉じられてしまうこともあるのだ。

その時に、後悔したくない。
最後に見るムスメの姿が、よく思い出せないなんてことは絶対に嫌だ。
手を振って、「行ってきまーす」と新しい一日に向かって歩いていく。
そんな姿であって欲しい。


お見送りで、今でも忘れられない朝がある。
それは、初めてムスメが一人で園バスに乗った日。
母親たちはみな心配で、窓越しに我が子の姿を探し、様子を見守った。
私も、窓の向こうのムスメを目で追った。

以前から園バスに乗ってみたいと、楽しみにこの日を待っていたムスメの顔は、キラキラとした目で、まるで「ワクワク」をそのまま絵に描いたかのような表情をしていた。
母のことなど眼中になく、真っすぐ前を向いていた。

その期待に満ちた輝く顔を見た時、思ったのだ。
きっと、このムスメの顔を私はずっと忘れないだろうと。
何年も経って大きく成長しても、この瞬間を思い出し、いつまでも懐かしく目に浮かべるだろうと。

それはその通りとなり、今でもまざまざと蘇る。忘れられない一瞬となっている。


現在、ムスメは高校3年生。
日に日に短くなっていく気がするスカートを履き、命をかけてバッチリ揃えた前髪を見ていると、女子高生だなぁ…と思う。

小学生の時はさっぱり洒落っ気がなく、とんでもない組み合わせの私服で出かけていた。
服も靴もランドセルも全身ピンクとか。
上も下も水玉模様の、ピエロもどきとか。
母の趣味と勘違いされませんように…と、祈りながら送りだしたものだ。

本人いわく、ただ引き出しを開けて、機械的にいちばん端の服を取って着ていたらしい。
今となっては、黒歴史だろう。


来年の今頃は、もう大学生の予定だ。
法律的には成人となっている。
その時、私はまだ見送っているだろうか。
身長もとうに私を超えている。
これから、ますます大人の女性となっていくだろう。
そんな彼女を、いつまで見送るだろうか。
いつか社会人となって、出勤する時は…?


きっと、私はいつまででも玄関に立ち、見送ってしまうんだろう。
何歳になっても、親は親。子は子。
80歳を過ぎても、いつまでも私を心配する母を見ているとそう思う。


いつの日か、ムスメが独立して家を出た時。
玄関のドアをバタンと閉めて、ガランとした静かな部屋に戻ってきた時。
私は、ちょっぴり泣くかもしれない。
寂しくて。
でも、ちょっと誇らしくて。

そして、きっとまた思い出すのだ。
園バスに乗って、未来にワクワクと胸弾ませていたあの時の顔を…。





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