ショートショート　口裂け女

口裂け女の後を継ぐことになった私は、
現役の口裂け女さんから、
こういう時はこうした方が良いというような
レクチャーを受けていて、特に、
「私きれい？」
のとこなんかは厳しく指導された。

厳しすぎてちょっと不貞腐れたのだけど、
そういうところを
口裂け女さんは見逃さないので、
「オラッ！」
という声と共に、
私の腹を一発殴り、
「殺すぞ！」
と言ってくる。

そこで私は、とりあえずの、
「すいません」
をするのだけど、
心の内では、
「泣かしたいわこいつ」
って感じで、
「バーカ！」
って感じでもあった。

そうした中、
口裂け女さんは、
「半端な気持ちでやられても困るのよ」
と厳しく言ってきて、
「もっと熱意を持ってくれないと」
とも厳しく言ってくると、
「ちょっとうんこ行ってくる」
なんて急に催し、
腹部を抑えながら公衆便所へと駆け込んでいった。

けっ何よ、戻って来たら、
「うんこ女」
とでも煽ってやろうか。
私は子供の頃から、
うんこをしに行った奴には、
「うんこマン」
だの、
「うんこちゃん」
だの言って煽ってきたし、
そのメンタリティーは今でも変わることはない。不変だ。

と、そんなことを思っていたら
公衆便所がいきなり、
ドッカーンと大爆発した。
爆炎、
爆散、
爆音だ。

何事ですか一体？
これはもう口裂け女さん、死んじゃったかな？
跡形なく吹き飛んじゃったでしょう、流石に。
いやー、想定外の終わり方だろうなぁ。
可哀想。
えー！　ウソー！　って感じ。

口裂け女さんには、まだまだ教わらなきゃいけないこといっぱいあったと思うんだけど、もうそれは叶わないのかなぁ。
最後に、
「うんこ女」
くらいは言いたかったなぁ。
「やーい！　やーい！」
って煽って、
「うんこ女が来たー！」
くらいのことはやりたかったよ。
それがもう叶わないなんて、本当に無念。
歯を食い縛って涙するほどの無念。

えー、てか、どうしよう。
私思うんだけど、
「私きれい？」
とか言う必要あるのかなぁ。
最初からマスク外した状態じゃダメ？
正直、話題になりたいんだよね。
トップニュースで扱われたい。
都市伝説的な笑い話で終わりたくないんだよね、私は。

これもういっそのこと一回、
捕まってみようかな。
口裂け女は実在した！
みたいなさ。
なんか、先代の口裂け女がやってないことをやりたいんだよね。
思い切って海外進出とかしてみようかなぁ。
スワヒリ語で、
「私きれい？」
って、どう言うんだろ？
勉強しなきゃだなぁ。

てか、そうだ。
ハロウィンって、どうしたらいいの？
お休みかな？
ハロウィンの日に活動しても、凄い特殊メイクって思われてツーショット写真せがまれそうな気がするし、お休みでいいよね？
あー、そういうところ聞いとけばよかった。

いや、でもしかし、本当に死んじゃったんだ。
なんだかんだ、
「勝手に殺すな！」
とか言って口裂け女さんが出てきて、
私が、
「うわぁ！　生きてたんですか！」
みたいに驚く展開があるのかと思ってたんだけど、いつまで経っても出てこないもんね。
もう恐らく、この感じはないよね、その展開。なんならもう消防車来ちゃったし、
絶望的かな。
出てくるんだったら、消防車が来る前に出てきてると思うし、もうないよねこれは。

てか、野次馬増えてきたなぁ。
今ここで口裂け女です、
ってやっても面白いとは思うけど、
下手したら目の前の炎上に注目度で勝てない可能性あるし止めとこう。

所詮、口が裂けてるだけだしね。
ちょっとグロいだけだしね。
もしかしたら
同情されちゃうかも知れないしね。
もしかしたら
良い病院を紹介されちゃうかも知れないしね。
だから、止めとこう。
だから、ちょっともう今日は帰って、
今後のことを色々考えよう。

それじゃ、うんこ女、
じゃなくて口裂け女さん！
短い付き合いでしたが、
色々教えてくれてありがとうございました！
あの世で楽しい時を過ごしてください！
さよなら！