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読書感想文『 ライオンのおやつ』を読んで

この小説は、末期癌に侵された30代の主人公、雫が、人生最後の砦として自然豊かなレモン島で余生を過ごすヒューマンストーリーです。

この本を読むまでは、ホスピスが舞台だと言うことで悲しく暗いイメージがありましたが、人と人の繋がりを感じ、何処か温かみを感じる小説となっております。

そこのホスピスでは、個性豊かななゲストが多いです。ひょうきんな人、頑固で怒りっぽい人、喫茶店のマスターだった人など、様々居ます。

ホスピスの経営者であるマドンナは、そんなゲスト達を受け入れ、一人一人の心情に寄り添います。

毎回日曜日に、ゲスト達の希望するお菓子を発表しもてなす回があります。 

それらのお菓子には、ゲスト達のそれぞれのお菓子に込められた思い出が詰まっています。
マドンナは、そのゲスト達の心情を汲み取り真心込めてお菓子をもてなします。彼女の情の厚さを感じましたし、同じ境遇の仲間同士の深い繋がりも感じました。

雫が死を間近に感じるようになると、
彼女の目の前に、次々と亡くなった人達が現れ、熱い胸の内を伝えにやって来ます。

若くして亡くなった母親や、先に旅立った入居者達が、主人公との思い出や自分が亡くなった時の事や、感謝の気持ちを伝えてきます。
その気持ちと気持ちの繊細で奥深いやり取りに、心がじんわり来ました。

若くして己の死に直面するということは、まだまだやりたいことが多いでしょうし、心の準備も出来ていない状態だと思います。

ですが、そんな雫の気持ちに最後まで寄り添い、雫が心地良く天国へと旅立つお手伝いをしたマドンナや、仲間たちの優しい気遣いにより、雫は死の恐怖が和らいでいったのだと思います。

この本は、雫の、悔しい気持ち、死ぬ恐怖と強い怒り、身体の自由が効かない辛さなどの複雑な心の葛藤を抱えながらも、人との交流を通じて変化していく感動の一冊です。

死をテーマにして取り上げた話は、暗いイメージが付きまといます。

ですが、この小説は暗いというより人の温かみと切なさを感じることが出来ます。
人と人との深い繋がりと、人はそれぞれお互いに支えあって、何か影響し合って生きているのだということを感じました。

また、生死感についても考えさせられ、自分が死に直面した時、如何にして己の命と残される人達に対して向き合えば良いのか考えさせられました。

死に行く者達の残される人達に対しての、それぞれの思い出や複雑な心境が表現されています。

繊細な心理描写や、主人公や周りの人の心の葛藤が巧みなヒューマンストーリーです。


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