レーエンデ国物語~月と太陽~を読んで
前作に続く、読書感想文の続きになります。
今回は、一巻目に続く次の時代が舞台です。
時代は、前作の主人公、ユリアが亡くなった年から52年後のレーエンデです。
この時代は、研究の進歩により銀呪病に苦しむ人の数が劇的に少なくなります。
ですが、イジョルニ帝国により支配され、誰もが自由を知るよしがありませんでした。
主人公が、ルーチェと、ヒロインがテッサです。
この本は、ルーチェとテッサをメインとしたキャラクター達の心理描写を深く表現されていました。
ルーチェは、イジョルニ人の血を引く男の子、テッサは、天真爛漫で怪力な女の子。村の力自慢の男達より腕力があります。
この時代の、レーエンデは、イジョルニ帝国からの支配と侵略に怯えて暮らしていました。完全に自由を失ってしまい、その自由だった頃の時代は、誰も知ることはありません。
ルーチェは、イジョルニ人とお世話になったテッサ達との板挟みにより苦しみます。
テッサは、持ち前のポジティブさと強い正義感から兵に志願します。天恵の怪力を武器に、次々と敵兵を斬り倒していきます。
ですが、戦況は、日に日に苛烈さが増していきます。
敵兵は、村にまで侵入し民間人を全て虐殺していきます。姉のように慕っていた、大切な人を失ってしまいます。
時折、ルーチェはこの絶望的な世の中に嫌気が差す描写が、印象的です。
これが、彼が残虐王に成り果ててしまう要因でもあるのだと思います。折角、村の仲間達と打ち解け心を開いたのにと、とても切なく感じました。
テッサは、持ち前のタフさで最後まで諦めませんでした。勇猛果敢に戦い、権力にも屈することがありませんでした。
彼女が敬愛してやまない上官と対峙し、葛藤しながらも手に掛けた時の強い苦悩に、私は運命の残酷さを感じました。
テッサは、最後に法皇に捕らえられ処刑され命を落としてします。ボコボコになぐられても、飢餓と喉の乾きに苦しんでも、1ヶ月以上、吊るされたままでも、最後まで国の為に自分の誇りを棄てることはありませんでした。
そして、彼女が亡くなった後の、世界観の描写が美しくありました。
最後に、仲違いし殺してしまった上官と仲間たちと再会し、海へと旅立ったシーンは、悲しくも美しい情景でありました。
レーエンデには海がありませんが、その分、海に対する特別な想い入れを感じさせられました。
テッサが亡くなった後、ルーチェは全てに絶望し悪政を繰り返すようになります。
全てがなげやりであり、人から忌み嫌われて後世にまで恐れられる存在になってしまうのです。
愛する者が、実の兄によって処刑され、葛藤し愛する者の死からの深い絶望を上手く表現されていました。
この本も、前作と同様に愛する者との限られた時間の中で、運命に翻弄されながらも懸命に生き国を動かした者達の奮闘ぶりが、繊細に描かれています。
読んでいて、本の世界観にどっぷりハマりました。村人それぞれの、逞しい生き様と、ルーチェやテッサ、仲間たちの活躍ぶりや葛藤ぶりにそれぞれの熱い想いを感じさせられました。
私は、残酷だけど美しい物語の世界に引き寄せられました。
テッサというヒロインが、今後のレーエンデの歴史に大きな影響を与えることになります。
岩に切り込まれたテッサの斧についても、今後の展開に大きく関係しそうです。
ハッピーエンドではありませんでしたが、この巻は今後の話を大きく動かすきっかけとなります。
続きの巻、『喝采か沈黙か』は、以下の記事で取り上げてます↓
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