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真冬のサムギョプサル

栄養不足だな、と感じるのは忙しい時だ。
仕事に追われ、朝はパン一枚、昼をすっとばして、夜はコンビニに駆け込む。
数日続くと、ささくれができ、肌の表面がざらっとする。そして疲れが取れない。
家で作ったご飯が食べたい。野菜が、肉が食べたい。

そんな時、颯爽と現れるのがサムギョプサルだ。

豚肉、サンチュ、キムチを買ってきたら、ホットプレートと一緒に食卓に出すだけ。
あとは各々で肉を焼き、サンチュに包んで食べる。
余裕があれば、適当にハサミで切ったほうれん草ともやしをチンして、塩と胡麻油で和え、即席ナムルを作る。
それも肉と一緒に包んで食べる。

山盛りの野菜、豚肉、発酵食品が一気に摂れる。
大口開けて頬張ると、
「あぁ、久しぶりの栄養…」
としみじみ感動してしまう。

しかし、そんな救世主だが、いつでも頼れる切り札というわけではない。
なぜなら、チンチラ氏は肉を焼く匂いが大嫌いなのだ。

初めてサムギョプサルを焼いた時のことを鮮明に覚えている。
チンチラ氏は嫌そうに目を細め、ホットプレートから1番遠い場所に移動し、背中を向けていた。
そして、その後もしばらくよそよそしかった。

冷静に考えれば、彼ら草食動物にとって、肉が焼ける臭いは、単純に死の臭いだ。
好ましい臭いでは無い。
私達の気が狂ったと思ったかもしれない。

そのため、焼肉を控え、どうしてもという時は、家中の窓を全開にし、換気扇をぶん回す。
そして、肉を焼きながら、出た油をこまめに吸い取り、臭いを最小限に抑えているのだ。


先日、同じ様に仕事に忙殺され、我が家のサムギョプサル需要はピークに達していた。
しかし、真冬のサムギョプサルは、厳しいイベントだ。
忙しくて免疫力が底をついているにも関わらず、窓全開で寒風吹き荒ぶ中肉を焼かなくてはいけないからだ。

意を決して窓を開けると、信じられない寒さだ。
(栄養を摂りながら、風邪をひくのでは...?)と思った。

震えながら肉を焼き、野菜と頬張る。
そのプリミティブな美味しさに感動し、気密性の低い住居でマンモスの肉を頬張る、原始の祖先の姿が浮かんだ。

食後、冷えた身体を湯船に沈めながら、来年の冬の繁忙期に向けて、サムギョプサル以外の切り札を持とうと誓った。







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