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自己愛性パーソナリティ障害の話

今年の初め、知人からあることについて相談を受け、思うところがありました。

数日に渡ってのやり取りを、プライバシーを配慮した上でここに記録しておこうと思います。

話は、長年に渡って姉に振り回される、とある女性の叫びから始まります。

この女性をX子さん(41)としましょう。
彼女は、昔から姉のK子さん(43)に振り回されているのだとか。

以下、敬称を略します。

K子は、一秒前まで機嫌良くしていたかと思えば突然怒り出すような人で、

その怒りの内容は
極端にもほどがある捉え方や被害者意識で溢れています。
過去をほじくり返すこともしばしば。これがまた物凄い記憶力なんだそうです。

「あの時こうだった!」ってね。

自分が賞賛の対象、お姫様状態なら満足。
それが崩れたら全部誰かのせい、という。

そういう人、たまにいます。
関わりたくないですね。

自己愛性パーソナリティ障害。
そんな言葉が頭をよぎりました。

自己愛性パーソナリティ障害とは、

自己愛性パーソナリティ障害(じこあいせいパーソナリティしょうがい、英: narcissistic personality disorder、NPD)は、ありのままの自分を愛することができず、自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込むパーソナリティ障害の一類型である。

Wikipedia

ということで、歴とした病気なんですね。
だからって振り回される方はたまったもんじゃないでしょうけど。

しかし、K子がこの病気だと確定したわけではありません。
私が勝手に思っただけです。
私は医者じゃないですし、K子に会ったこともありません。

ただ。

・人より優れていると信じている
・権力、成功、自己の魅力について空想を巡らす
・業績や才能を誇張する
・絶え間ない賛美と称賛を期待する
・自分は特別であると信じており、その信念に従って行動する
・人の感情や感覚を認識しそこなう
・人が自分のアイデアや計画に従うことを期待する
・人を利用する
・劣っていると感じた人々に高慢な態度をとる
・嫉妬されていると思い込む
・他人を嫉妬する
・多くの人間関係においてトラブルが見られる
・非現実的な目標を定める
・容易に傷つき、拒否されたと感じる
・脆く崩れやすい自尊心を抱えている
・感傷的にならず、冷淡な人物であるように見える

Wikipedia

このような症状をX子に伝えたところ

「怖いほど当てはまってる」

とのことでした。
真相は分かりませんが、今日は自己愛性パーソナリティ障害のお話を。

X子の周囲で起こっていることだけでなく、K子の言動の謎や心の中、今後の対応などについても考察してみました。

X子によれば、K子は人を選んでトラブルを起こしています。

大多数の人にはとても気の利く素晴らしい女性で通っている──。
K子の場合、特に男と子供。

彼女はけっこうな美人で、持って生まれた華やかさがあるのだそう。
本人も自覚してるでしょうね。

X子曰く、K子は
器用で料理とかすごいの作るし、
さりげなく男性を立てるし、気が利いて話し上手。
子供の相手や、喜びそうな物を見繕うのも上手い。

ステキやん。

しかし、K子は「ここでトラブルを起こすのは得策ではない」と分かっているから問題が起きない、という可能性もあります。

・人を利用する

自己愛性パーソナリティ障害には上記のような特徴がありますが、K子はそんな行動を通して周囲の人々を取り込もうとしているのかも。

再婚相手(49)と彼の連れ子の男の子(中1)、そして義両親。
彼らの前では決してトラブルを起こしません。

これが問題を表面化しにくくしています。
一方で

・自分より劣っていると感じる人々に高慢な態度をとる

この対象が主にX子と妹のY美(37)。
彼女の家庭は、K子・X子・Y美の三姉妹なんです。

容姿や異性関係、仕事の成果などを自慢し、「それに比べてアンタたちは」と妹を嘲笑う。

妹たちの交際相手の前にわざと現れ、人前で言われたくない過去の失敗をバラしてしまったり、
妹の前で「どっちがキレイ?」と交際相手に迫る、「妹は浮気してる」など事実無根の話を吹き込む。
また、「あの人はアンタより私の方が好きなんだって」なんて言ってくる。

X子もY美も、K子に掻き回されて交際がダメになった経験が一度はあるといいます。相手がK子に惑わされたり、自分たちが疑心暗鬼になってしまったり、理由は様々。
新たにお付き合いする人ができ、それを秘密にしておいても、K子は必ず嗅ぎつけてくるのだそうです。

トラブルは異性関係だけに留まりません。

両親が旅行中、K子だけが家事に参加せず、食事の時間が遅れると激怒。

バイト代を貯めて買った服やバッグを、「アンタには似合わないから」などとケチをつけて取り上げてしまう。

見かねた母親が咎め、必要な時だけ貸すという形に一旦は落ち着きます。

ところが、X子が中学の同窓会にどうしても着たかった服を当日に貸してと言い出し、さすがに断るもK子は引きません。別の服を貸すと提案しても聞き入れられず。

K子は、妹の予定や着そうな服を分かっていてわざと掻き回しているのではないか? X子はそう思えてならなかったといいます。

だって、K子もたくさん服やバッグを持っているのに。

その時は母親が間に入って難を逃れましたが、
思い通りにならなかったK子は、妹たちが使っている基礎化粧品の瓶を全部叩き割ってしまったそうです。

反論するとK子はさらに怒り狂います。
そして、「こうなったのはアンタらのせいだ」と、X子たちを責めるのです。

とにかく、自分より劣ると認識する者が自分に従わないのが許せない。
自分より抜きん出ることも許せない。
その者に勝つためなら、自身の結婚披露宴を一ヶ月以上前倒しにするくらい平気でしたそうですよ(この時は同職場の女の子がターゲットだったようです)。

披露宴ともなれば、式場ならびに周囲への影響は少なくありません。
ターゲットの女の子より早く結婚するためだけに。
普通ではちょっと考えられない行動です。

しかし、これで説得しようものなら「拒否されたと感じる」「脆く崩れやすい自尊心」といった症状が出現。

「何なのよ!」

X子は、過去を振り返りつつ拳を震わせます。
現在は姉妹それぞれ遠方に嫁いでいるので、会うのは年に数回。
それでもその度に諍いは起こってしまうのだとか。

★「私に出されたお菓子だけ小さかった!」
★「あの時、アンタだけ目立ってた!」

X子 「いや、知らんがな」

その場じゃなくて、絶対に後からイチャモンつけるんだそうです。

X子 「市販の菓子にサイズにの違いなんかあるかい!
多少あったとて、それがどうした!?」

もう変えようがないことをネチネチと。
想像するだけで頭が痛いですね。

★「Y美とは旅行に行ったのに私の誘いは断るの!?」

X子 「何十年前の旅行……?」

年月が経ち、姉妹はそれぞれ子育てに奔走中。
独身の頃のように簡単に都合はつけられません。
K子は相手の事情よりも、自分が蔑ろにされたことが許せないのです(蔑ろにされてるワケじゃないと思いますが)。

X子 「あれだけトラブル起こしといて仲良く旅行?
どんだけめでたい脳味噌しとんねん!」

・人が自分のアイデアや計画に従うことを期待する
・容易に傷つき、拒否されたと感じる
・脆く崩れやすい自尊心を抱えている

「病気なの。傷つきやすいの。って、知るか!」

憤るX子。

「私やY美が受けた傷はどうなるのよ!?」

お察ししますとしか言いようがない。

X子たちは今、K子と会うどころかLINEでやり取りすることすら億劫なのだとか。理由は、後日必ずトラブルになるから。

それは、X子たちの行動やLINE上の文章一つ一つの揚げ足をとって責めたり嘲ったりするもので、延々と続くのだそうです。

突っ込まれないように細心の注意を払ってもダメ。
SNS等でとんでもない方向から批判コメントを書く人がいますが、あの感じを思い浮かべてもらうと分かりやすいと思います。
初めからネガティブな言葉をぶつけることが目的なんです。

断れば「傷ついた」と言われ、応じれば応じたで非難される。
どうしろっていうんでしょう。

X子は言います。
「何度縁を切ろうと思ったか分からないわ」と。

ところが距離を置こうとすると、K子は巧みに被害者になります。
自分がしたことを棚に上げて「私だけ仲間外れにする、私は一人ぼっちだ」と泣いてみたり、過去のことをネチネチと訴えてくるのだとか。
とっても巧みに、X子たちが悪いように話を持っていくんですんって。

これで離れて行ってくれるならまだ良いですが、ずっと訴えてくるのだから始末に負えません。

再婚相手の前でも「一生懸命やっているのに仲間外れにされる可哀想な私」を演じているに違いない、向こうの家から自分はどんな極悪人として認識されているのか。
そう思うと、X子ははらわたが煮えくり返って夜も眠れないのだと言います。

「死んでも会わん」と啖呵を切った翌日に猫撫で声ですり寄って来たり、
鬼の形相で怒鳴り散らしたと思えば泣きわめいて許しを請うたり。

「もううんざりなのよ……」

X子は疲れ切った表情で頭を抱えました。

おっとりしていて頭の回転がゆっくり。咄嗟に言葉が出ない、お人好しで強く言い返せない。そんなX子は、K子の格好の餌食です。実際、Y美と比べても彼女への当たりの方が強い様子。相当のストレスがかかっているようです。

しかし、Y美は一味違った!

Y美、動く!!

またトラブルが起きそうになった時、Y美はキッパリと伝えました。

「あんたがおかしい! いっつもウチのせいにすんなや!」

当然、否定されるのが大嫌いなK子は激怒。
収拾のつかない大騒動に発展します。しかし、それは想定の範囲内だったのです。

Y美は狼狽えることなく、今度はK子の再婚相手に直接連絡。
そして、これまでのことを洗いざらいぶちまけました。

しかし、再婚相手は「そんなことあるわけない」と否定したそうです。
これも想定内。K子は、こういう時のために味方になりそうな人々を取り込んでいたのでしょうから。

Y美、畳みかけます。

「本当に? 本当に心当たりはないんですか?
長く一緒に暮らしていれば地が出ることだってあるでしょう」

「あまりにも病的だ。
本人のためにも、いちばん信用されているご主人が病院へ連れて行ってあげて」

しかし。

再婚相手 「K子が精神的な病気? 何て酷いことを言うんだ!」

そう。これが自己愛性パーソナリティ障害という病の難しいところです。
本人と、本人に近しい人々が問題をまったく認識していない。

K子は自分を「超デキる完璧で素敵な女」だと思っているし、再婚相手はそこに惹かれたんだし。

あ、駄目だわコレ。

そう悟ったY美は、これを機にスパッと縁を切りました。
LINEはブロック。家電の方に電話があっても応じないという徹底ぶりでした。

「悪者でけっこう!
どうせ二度と会わないんだから」

以来、Y美はストレスフリーの生活を楽しんでいます。
一方で、X子はY美ほどハッキリとした行動を取れません。忘れた頃にK子から連絡が入り、その度にストレスを溜めているようです。

K子の頭の中はどうなっている?

X子のことは一旦置いて、K子をクローズアップしてみましょう。

K子は「元々見下している妹が、苦労もせず多くの恩恵を受けている」と思い込んでいる。X子はそう語ります。

恩恵とは
K子のすぐ後に生まれたX子が両親の愛情を奪っていったことだったり、
X子だけ大学へ進んだことだったり、
X子が幸せな家庭を築いていること
かもしれないと。

想像するに、K子の頭の中は
「トロくて気遣いも何もできないくせに、X子はヘラヘラ笑ってるだけでみんなが寄ってくる。簡単に幸せを手に入れている。狡い!」
といった感じでしょうか。

X子を見る限り、彼女らの両親が愛情に薄かったとは思えません。
幼いうちに弟か妹ができ、そちらに手がかかるために兄または姉が寂しい思いをすることはどこの家庭でも多少はあるでしょう。
学歴についても、ご両親は三姉妹それぞれに、希望する進路を可能な限り尊重したことと思います。

誰かと比べることでしか自分の価値を見出せない。
形あるものでしか愛情の大きさを測れない。

そのために、K子はご両親が注いでくれた愛情に気づけなかったのかもしれません。
ご両親も、「愛情があるのは当然のことで、それは言葉でなくても伝わるもの」と思っていたかもしれません。
結果的に、K子には届きませんでした。

以下は、すべて私の想像です。

「妹たちより下位である」と感じていたK子はそれに耐えられず、自分を大きく見せようとします。
自分がいちばん賞賛に値する、偉大な存在だったらいいのにと。
その願いはいつしか、彼女の中で「事実」になりました。

それがいつ頃のことだったのか。恐らく本人も分かっていないでしょう。

ともかく、その瞬間からK子は妹たちや両親、その他全ての者を見下すようになったのです。

自分には妹が二人いる。たまにはケンカもする。

自分が偉大であるのは事実なのに、妹たちは自分に見向きもしないどころか反抗する。

同僚の結婚が決まった。

自分の方が魅力的なのに、醜い同僚が自分を差し置いて結婚しようとしている。

「勝ち」と「負け」しか存在しないK子の世界は、日常のありふれた事実を歪めて映し出します。

同僚に勝つためだけに結婚を決め、同僚の式の日取りが分かるや否や、自分の結婚式をそれより前に設定し直す。

こんな暴挙も、K子にとっては自分を守るためのごく当たり前の手段だったのです。

「常識」と照らし合わせて説得したところで、彼女に響くわけがありません。

周囲に対して「拒否された。自分が偉大であることを認めてくれない。自分を陥れようとしている」という感情を抱くだけです。

ちなみに、この結婚は短期間で終わっています。

時を経てX子とY美も家庭を持ち、子育てに追われるようになりました。
K子は現在の再婚相手と落ち着き、戸籍上の息子(中1)はいるものの自分で産んだ子はいません。

のらりくらりと生きている下等な妹たちが簡単に手に入れたものを、自分は持てない。

K子にとって、これ以上の屈辱はないでしょう。
だから、思い出したように妹たちへの攻撃を繰り返します。
攻撃は最大の防御。攻撃することで、K子は「偉大な自分」を辛うじて保っています。

だけど、X子たちだって楽に生きてるわけではありません。
生きていれば誰しも苦しいと感じることはあって、簡単に手に入れたように見えるものにも紆余曲折があります。

しかし残念ながら、「幸せそうに見える人にもいろいろあるんだよ」的な論はK子に通じません。憎しみをさらに深めるだけ。理由は後述します。

「偉大な自分」であるために、全ての者に勝つために。
様々なスキルを身につけて周囲に気を配り、利用できるかどうかで人を判断。

上位に出てきそうな者の一挙手一投足を目を皿のようにして監視し、いよいよ自分の立場が危ういとなれば、いつどこへでも攻撃しに行く。

何かあればその度に憎しみと劣等感を募らせ、息をつく間もありません。

愛情、親愛、労い。
たくさんの人が彼女に“形を持たない熱”を寄せていたのに、K子はその温かみを感じられない。
周囲の人々は、そんなK子を理解できない。

なんて孤独で辛い人生でしょう。

前の方で引用した通り、自己愛性パーソナリティ障害の人は“ありのままの自分”を愛せません。

称賛されることを好む特徴は、一見「自分好き」のようで全く違うんですね。

偉大でありたい、そうでなければならないという焦燥に支配されています。

誰かを旅行に誘ったら断られた。
普通なら「都合が悪いなら仕方ない」「相手も申し訳なさそうにしていたな」「また次の機会もあるよね」と考えるところを、K子のような人は「自分が蔑ろにされた」と捉えます。
ほんのちょっとのことで自尊心を深く傷つけられてしまうのです。

これくらいで被害者意識を持たれたり責められたりしたら、周りは堪りませんよね。

でも、彼女の中では「これくらい」なんかじゃない。

「偉大である自分の計画には誰もが何を置いても従う」という「自分の中の事実」に反するんです。

「自分は偉大だ。偉大でなければならない」が常識で、それが100%脳内を占めている彼女は、「他者の事情を慮る」「自身を顧みる」といったことができません。

それは人間的に未熟だとかいう以前に、そういう機能がまるっきり抜け落ちてしまっている。
X子の話を聞くにつけ、私にはそのように感じられてなりません。

一方で、「これは」と思う人物には上手く取り入って必ず気に入られます。そういう相手が何を望んでいるのか察知する嗅覚が鋭く、とても賢く立ち回ることができるのです。

他でトラブルを起こしたとしても、必ず誰かが庇ってくれる。
そのために問題が表面化しにくく、X子のような人たちは延々と振り回されて疲弊していきます。

じゃあ、X子はこれからどうすればいい?

何故こんなことになってしまったの?


離れる。
Y美がとった行動は、一つの賢明な方法であったと思います。

しかし、X子は言います。
「私が縁を切ったら本当に終わりになってしまう」
「同じ親から生まれた姉妹なのに」

うーん。
多分X子は気づいていない、外から見ているからこそ分かることをお話ししましょうか。

X子を見ていると、「皆まで言わなくとも察することが美しい」みたいな意識をすごく感じるんです。

お母様の影響と思われますが、彼女がこの特徴をいちばん引き継いでいるように見えます。

優しいところがあって強い言葉を使わない。濁すんです。

言い換えると「悪くなりたくない」。

そして、彼女は「察すること」を他者にも求めている節がある。

母親やX子に問題があると言っているのではありません。
キツい言葉を使わずに、相手を傷つけずにそれとなく伝える。丸く収めるために。とても大切なことです。

ただ。K子にとっては理解し難い、気持ち悪い空気だったのではないでしょうか。

ハッキリしてくれなければ、愛情があるのかないのか分からない。
ふと気づけば自分だけが家族に馴染めていない。

そういう中で、K子は形あるもので自分の価値や愛情を測るようになったのかもしれません。指標は人、とりわけ妹たちより勝っているかどうか。
人生の大半をキリキリ、ヒリヒリした状態で過ごしています。

また、X子の話の中には父親があまり登場しません。
時代的なこともあり、父親は大きな決断にだけ関わっていたと思われます。

ここからは、X子たちが被った辛さやご両親への思いを理解した上で、敢えて指摘します。

お父さんは、何も知らないくせに私を断罪する。
お母さんは、普段は濁すくせに私を否定する時は断定的な言葉を使う。
K子から見た両親は、もしかしたらこんな感じなのでは?

無論、K子に対して強く出ざるを得なかったのは彼女の言動にに問題あったからです。親としては妹たちのことも守らなければいけなかったでしょう。
ご両親は相当悩まれたはずです。しかし、ご両親はこれをSOSだと気づけなかった、受け止められなかった。
というより、K子の言動が激しくなってきた時点で既に手遅れだったのです。

X子は
「立派な両親に育ててもらったのに、K子は何故あんな風になったのか。両親を悲しませて、K子は恩知らずだ」
「大事な娘に愛情がないわけないじゃない。K子は何故それが分からないの」
と涙を流しました。

私は決してK子に同情はしません。
しかし、ここまで考察を重ねた上だとX子にも違和感を覚えます。

両親を誇りに思えるのは素晴らしく、幸せなことです。
ただ。

現にK子のような人格が形成されたということは、丸く収まっていたのは表面だけだったのかもしれないのです。

そこに疑問を持たずに乗っかっていけたのがX子とY美であり、両親を無条件に尊敬するあまり、K子を異物として敵視する構図が出来上がってしまった……。

そもそも。
「同じ親から生まれて云々」っていうのは、愛情を一心に受けたと実感できている幸せ者の余裕なんですよ。
そういう殊勝な態度が、愛情に飢えているK子の神経を逆撫でします。

同情はしないのだけれど、彼女の悲しみや憎しみを、何となく理解できてしまう自分もいる……。

K子はこれからも攻撃してくるでしょう。
憎いから。寂しいから。

そして、「私は悪くない」「私の方が上」「私はアンタと違って親に愛された幸せ者」という、妹の意識が透けて見えているからです。

もし現状を打破したいのであれば、否定をしてはいけません。

X子は、否定なんかしてないわと言いました。
本当にそうでしょうか。

「親の愛情を全部アンタに持っていかれた。狡い」
こんなことを言うK子対してX子がかけた言葉は、

「そんなことないよ。
あんなことも、こんなこともしてもらったでしょう。
みんな同じだよ」

これは、慰めでも気休めでも説明でもない。
K子にとっては否定です。

もしかしたら、子供の頃からずっとそうだったのかもしれませんね。
何か訴えても「そんなことないでしょ」と。

「アンタらのせいだ」と言うのは支離滅裂なことでも何でもなく、K子の心からの叫びだったのです。

彼女だって、ご両親のこと大好きなんですよ。
だから愛情を求めてます。

大好きなんだけど、ご両親が注いだ愛情は姉妹間で明らかな差があった。K子はそう感じていた。
それを必死で訴えているわけです。

元々は、「こういうことがあったんだよ」「悲しいんだよ」ということを、ただ分かってもらいたかっただけなんじゃないでしょうか。

でも、妹たちは「それは違う」と。満たされている側の尺度でしか物を語らない。
「親を悪く言うなんてとんでもない」という“良い子”の域から出てこない。

X子たちは一生懸命対応しているようで、K子と正面からぶつかっていないんです。
一度も本音でぶつかっていないのでは?

「悪く言わない」「濁す」という、この家庭の特徴がすごく出ていると思います。

だから「あっ、そう! そうやって私を仲間外れにするんだね!」ということになる。
いつまでも本音を言わないからネチネチが続く。
お菓子の大きさがどうとか、一緒に旅行に行く行かないとか、どうでもいいことに訴えが派生する──。

そういう中で
「幸せそうに見えてもいろいろあるんだよ。私だっていろいろあるんだよ」?
ムカつくに決まってます。
私はK子の味方でも何でもないですが、相当怒りを溜めてると思う。

今後もK子と関わり続けるのであれば、決して否定しないことです。

ただし、この方法はあまり現実的ではありません。
今まで以上の忍耐が必要になります。
なにしろ、何十年分かの澱を濾過していく作業ですから。
これを、自分の精神状態がどうであるかに関わらず続けなければいけない。
普通の生活ができません。

残るはただ一つ。
Y美のように、キッパリ縁を切る。

今のK子は、妹たちの何気ない言動にも「自分が愛されていない証拠」を見出してしまうようなセンシティブな状態です。
今となっては、血の繋がった家族がK子の心を安定させることは難しいでしょう。
それは別のところへ求めるしかないのかも。

幸いなことに、彼女には帰る場所があります。
自分を思ってくれる再婚相手と息子さんがいます。

もしかしたら、家族の預かり知らぬところでまたトラブルを起こすかもしれない。
人が離れていくかもしれない。

でも、帰れる場所はある。
もしかしたら、ここでなら今までの苦しみを吐露できるかもしれません。

X子は「そうね」と言いました。
多分、心から納得してないです。

「そうね」と濁しながら、これからも同じような関わり方をして「辛い、辛い」って愚痴るんだろうなぁ。

プライドが高そうなX子。
指摘されたことが気に入らないのでしょう。

指摘されるのも自分が悪者になるのもイヤ。
他者の反応をものすごく気にしてる。
誰にも憎まれない人生なんかあり得ないのに。

X子はご両親の気質を受け継ぎながら、K子にも似ています。すごく。
何だかんだいって姉妹なんですよ。なのに。

本当に、どうしてこんなことになっちゃったんでしょう。
よそ様の家庭のことながら、なんか泣きそうになりました。

K子という人格が形成されたことについて、何が問題だったか論じるのは難しいことです。

ただ、とても悲しいすれ違いがあった、ボタンの掛け違いがあった、としか──。

これから、X子たちがどんな対応を取っていくかは分かりません。

関係者の方々が今後少しでも心穏やかに過ごしていけることを、ただただ願うばかりです。


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