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春のような温かさがいつもある学校に… 1メートルに込めた真心 〜心の宝物200

🌷朝の笑顔


山に囲まれた小さな学校
「おはようございます」
5年生の彼女が、少しはにかみながら、優しい笑顔と共に届けてくれる挨拶は、すっかり冬の冷え込みに包まれた玄関をほんわかと温めてくれます。

着任したばかりの4月の昼休み、昼遊びに誘ってくれたのが彼女でした。
のどかな山の学校とはいえ、思春期にさしかかった5年生の女子が、自分たちの遊びに誘ってくれる。それまでの勤務がほぼ中学校であった私には、実に新鮮で、深い安らぎと感動を覚えたものでした。もちろん、全力でジャングル鬼ごっこを共に楽しみました。
彼女は人や自然に向ける視線が優しく、観察力に優れ、イラストが得意で、漫画家になる夢をそっと温めていました。

🌷1メートルに込めた真心


交代の時期が来て、玄関掃除に彼女がやってきました。下足箱から靴を取り出し、一つ一つのスペースを丁寧に清めていきます。後に砂粒一つ残らない掃除ぶりには、彼女の細やかさが表れています。
掃除の終わりの音楽が流れ始めました。彼女も下級生に声をかけながら、片付けを始めました。バケツの水で雑巾を洗い終えると、靴を履き替え、タイルの土間に置いてある掃除道具入れのロッカーに丁寧にしまいます。

その所作に感動しました。

下足箱が置いてあるリノリウム張りの校舎の床面から、一段下がってタイルの土間。際に置かれたすのこから掃除用具入れまでは、わずか1メートルです。タイルの土間も、水拭きで磨きあげてあることから、これまで、多くの子は、上履きのまま道具を片づけに行っていました。叱られるかもしれませんが、私もそれを咎めることをしませんでした。

「これだけの距離なのに、ちゃんと靴を履き替えるのだね。あなたはすごいね」
思わず、そんな、聞きようによっては失礼な声をかけてしまいました。
「ありがとうございます」
感性の柔らかな彼女に真意は伝わったようで、はにかみながら謝意を返してくれました。

たった1メートル。1年生の足でも一跨ぎ。
多くの子は靴を履き替えることなく移動する。決して、悪意や横着ではないと思う。土間の具合を見て、これなら大丈夫だろうと判断し、つま先立ちで素早く移動し、戻るときにはすのこでトントンと靴底を払って、教室に戻っていく。
しかし君は自分にそういう選択を許さなかった。その距離の短さは君の理由にはならない。自分に恥じない行動を選択する。
たった1メートルに、しかし、大きな大きな1メートルに宇宙のような真心を込めることができる。
そんな君をとても素敵に思う。
心から君を尊敬し、誇りに思う。

かけがえのないあなたへ
素敵なきらめきをありがとう
出会ってくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとう
どうか、ありのままで
どうか、幸せで

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