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【京都からだ研究室】後期第1回ワークショップ(10月30日)参加レポート

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私たちの身体と心と魂の調和を取り戻して、自己の存在をあらしめているいのちを活かしていくための身体探究のコミュニティ、後藤サヤカさん主宰による「京都からだ研究室」

松田恵美子さん(身体感覚教育研究者)をゲスト講師としてお招きして開講される後期の第1回ワークショップに参加してきました。

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事前学習動画:東洋的身体観とは?

参加申し込みをした人たちは、簡単なボディワークを恵美子先生が動画で解説してくださる、受講者専用の「事前学習動画」を、講座当日の数週間前から観ることができます。各自がそれに取り組むことで、当日に学習・実修する内容の準備となります。

Screenshot 2021-11-01 at 15-09-17 「からだ研究室後期」事前学習動画01

恵美子先生は、目に見えている物質としての身体だけを取り扱って目に見えないものは「無いもの、存在しないもの」とする西洋的な身体観とは異なる、インドでは「プラーナ」とか、またチベットでは「風(ルン)」、中国・日本では「氣、気」といわれるようなある種のエネルギーの流れ、実体として目には見えないけれども感覚経験から垣間見ることのできるものも「あるもの」として取り扱う「東洋的な身体観」というヴィジョンに基づいて、身体を感じる感じ方をご指導してくださいます。

事前学習動画:上虚下実への準備「前腕ワーク」

その東洋的身体観において理想的とされる、上半身の気張りが抜けて澄み浄くなっていて、下半身が充実しているエネルギーバランスのことを「上虚下実」と呼びます。これに反して、「上が実」になってしまっている時にいちばん力が入っているのが、肩。

その肩の力みを上手に抜いていく、あるいは、いま私たちが「腕」と呼んでいる身体部位は実際は「どこを起点としているのか」、肩や腕に対する私たちのボディイメージの"思い込み"を少しでも外していくために、恵美子先生は前腕部、特に薬指と小指の軸を中心にしたムーブメントを提示してくださいました。

Screenshot 2021-11-01 at 14-18-23 「からだ研究室後期」事前学習動画01

手のひらから指を引き抜くようにしながら指を一本ずつ手の甲側へ反らせていく。手首を軽く固定した状態で、薬指・小指の軸を中心にして手首をゆっくり丁寧に回していく。肘を反対側の手のひらで受けて立てて、立てた肘の軸を中心に薬指・小指がリードして肘を回していく…。

Screenshot 2021-11-01 at 14-32-00 「からだ研究室後期」事前学習動画01

指先から肘まで順を追って丁寧に前腕部を目覚めさせていくと、普段の生活の中で思っていた以上に身体は縮こまっていたことを感じました。また、肘を回していく動きで敢えて親指・人差し指で軸を取って回してみた時に、どちらが自然な感じがしてどちらが不自然か、どちらが無理なく楽でどちらが力が入る動きになるのか…といった違いも観察できるように思いました。

自然の古層と身体の内なる古層の共鳴

10月30日の第1回WS当日を迎え、賀茂川と高野川が合流する通称「鴨川デルタ」に程近い会場には、かつての「藤田一照仏教塾」以来のご縁で共に学んでいる数年来の仲間たちや、この研究室の前期中期から継続してご参加してくださっている方、また、この後期から新たに合流された方など、東京から、埼玉から、福井から、香川から、岡山から…全国幅広い地域から参加者が集まりました。

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実は私はといえば、恵美子先生とは初対面になるし、久しぶりに会うことになる旧友もいたりということで、名古屋から京都まで移動している間も少なからず緊張していて、進行役の赤野公昭さん(メンタルコーチ)の場の運び次第でもし講座冒頭に少人数のグループシェアリングなどがあったとしたら、その時だけ席を外させていただきたい…とすら思っていたほどでした。

そんな気持ちを携えながら、会場近くの下鴨神社へお参りして「この後期も何事もなく無事に行なわれますようお見守りください」と祈り、

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京都という土地の"最古層"を感じさせてくれる二千年の原生林「糺の森(ただすのもり)」をゆっくりと散策して、ようやく幾分かは、それこそ"気を鎮める"ことができたように思います。

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また、これまでの研究室WSでは最後の時間に瞑想で身心を調えて講座を終わるのが通例なのでした。しかし今回は期の初めということもあり、幅広い地域から、遠いところからもメンバーが集まってきているなどということもあってか、この日は講座のいちばん初めに瞑想をしました。
いつも瞑想ガイドをしてくださっている日野唯香さん(浄土真宗僧侶、臨床心理士)のガイダンスも、いつもとはどこか違う、とても柔軟な誘導でした。そのことが、緊張が幾分なりともほぐれて、リラックスしてWSに入っていける要因になったと思います。


ヴィジョンが大切

講座が始まると、恵美子先生は「では、さっそく身体を動かしてみましょう」…ではなく、事前学習動画でも簡単なレクチャーがあった「東洋的身体観、上虚下実」についてさらに念入りにご講義くださいました。
いくら「身体感覚に着目したボディワークを実修する」といっても、それがどういう歴史的背景を持っていて、どういう狙いをもって稽古されるべきなのかを、言葉を通じて示して理解していくことを、恵美子先生はとても重視しているからです。
感覚を感覚として、言葉で概念化せずして感覚のままに受け取ることの大切さは、この研究室の前期・中期WSでもとてもよく理解できましたが、その感覚を先生や仲間たちと共有したり、また、特にこの後期では、

「身体の自然を"技化"する」

というテーマを恵美子先生は掲げていて、感覚を身につけるための自覚化・技法化・体系化という点でも、感じたことを言葉にしてみることもやはり重要だということです。

見の目、観の目

講座冒頭の講義では、また、様々に生起する身体感覚を観察する「見方」についてもお話がありました。
顔についている目玉で見る、直視・凝視するような見方で見ると、却って身体は緊張してしまう。「さりげなく、ほどほどに」心の眼で観る、全体性の中でぼんやりと眺める、何となく"気に掛ける"という見方。これは、坐禅や瞑想を日常的な習慣にされている方、あるいは各種の武術のお稽古に取り組んでいらっしゃる方なら、「ここが稽古の勘所」と感じることもあるかと思います。


ワーク①「時計回りの股関節」

実際に身体を動かしていくワークに入ると、恵美子先生は「お伝えしたいことがほんとうにたくさんあるんです!」というような勢いで、実に多彩で情報量の多い、熱意に満ちたご指導をしてくださいました。
ここではそのすべてを詳細にノートしていくのはなかなか難しいので、私にとって特に印象と体感に残っている2つのワークをできるだけ詳しく記録していこうと思います。

そのひとつが、「時計回りの股関節」のワーク。

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サヤカさんはじめ研究室の運営メンバーさんが講座の間に即席で作ってくれた、時計の文字盤のような図柄が描かれた2つの小さな丸い紙片。これが、この後期のテーマ「"技化"、技法化」の鍵になります。

まずは立位で、骨盤の左右両サイドから手で触れて骨がゴツッと出ているのが感じられる大転子の感覚を確かめます。

大転子に触れながら、文字盤に書かれた矢印と同じ方向、通常の時計回りに股関節だけ(股関節から)を右回りに回転させます。この「股関節だけを回す」というのが、少しばかり"コツが要る"ことではあると思います。ここで、大転子に手で触れている感覚が手がかりになります。これが「コツ(骨)をつかむ」ということなのですよ、と恵美子先生は仰います。

次に、2枚の文字盤を床に置いて、手の指で文字盤を指しながら指を時計回りに回します。それにつられるようにして股関節も右回りにまわります。

最後には、指を時計回りに回したまま股関節の動きは止めて、物理的な運動は止まっても感覚的な動き・経験としては股関節は右回りにまわり続けていて、その感覚にさりげなく注目しながら歩いてみます。

「風が吹いてきてその風に身体が乗るような感じがしてきたら、風に乗って歩いていっていいんですよ」という恵美子先生のインストラクションがあって、ワークをする前にはひざから下しか使えていなくて足裏も引きずるように歩いていたのが、股関節が右回りにまわる感覚が身についてくると、皆の歩きが身体全体を大きく使って、歩幅も広く、歩くスピードも速くなっていきました。
私の感覚としては、大転子に触れている感覚をガイドにして、股関節の内部の様子も、目で見るような見え方ではない感じで、おぼろげながらも"観えた"気がしました。

「人を見る目」は何を観ているのか

受講生を2組に分けて、それぞれ壁際に立ってもらって、股関節の右回転の感覚を保持して歩くのをしてもらった後の立ち姿を互いに観察し合いました。
この「右回り」という方向が、特にこれから冬に向かっていくという季節には骨盤が内側へ閉じていく、締まっていくように変化していく、その内側への動きに逆らわない形で身体をまとめて、体軸を立てていく働きをするのだそうです。

すると、ワークをした側のグループの立ち姿は、していない側と比べると、身体の輪郭がクッキリとしていて、壁を背景に身体が立体的に浮き出ているように、しっかりとした存在感を伴って見えました。
「この見え方、この感じを観ることが、ある人物の人となりとか力量を見定める、"人を見る"ということなのですよ」と、恵美子先生は仰いました。

このことに関して、私にとってはとても驚くべき出来事が講座の終了後にありました。それはもう少し後になったら書きます。

ワーク②「体側の軸から中心軸をまとめる」

この講座のもうひとつの狙いは「深い呼吸を取り戻すこと」。
呼吸を主に担っている肺を守っている肋骨の動きを目覚めさせるワークを実修しました。

ここでポイントになるのが「感覚を感じながら」行うということでした。
このワークの動きは、外見上はラジオ体操やストレッチの体側伸ばしとよく似ているのですが、ただ物理的に体側部を伸ばしていくだけではなく、肋骨の一本一本それ自体を細やかに感じることを試みながら行なうことで、ムーブメントの内的なクオリティが全然変わってきます。

「薬師三尊の身体観」とは?

この体側の軸を目覚めさせるワークをしていた時に、恵美子先生が非常に興味深いお話をしてくださいました。

「京都の東寺にいらっしゃるものが代表的な「薬師三尊像」。あれは、左右のサイドの軸が調うことで、中心軸がまとまってくる身体観を象徴したものだと思いますよ。中尊の薬師如来と、左右の脇侍が日光菩薩と月光菩薩という配置も、インドのハタ・ヨーガの流れを汲むものです。ハタの「ハ」は太陽を表し、「タ」は月を表します。陽と陰を統合していくのがハタ・ヨーガですから」。

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このお話を聴いて、私には何となく思い当たるところがありました。

研究室中期が終わった8月末から今回までの約2カ月間は、気候も移り変わりの差が激しく、それに伴って気分の浮き沈みがあったり、身体も疲れやすかったりしたものでした。

身体が疲れやすい時、何となく両腕をバンザイに上げたくなって、体側をのびのびさせて脇の空間を左右に大きく開けてあげると、疲れが束の間やわらぐような感じがしたものでした。
このWSを通じて知識として知る前から、身体が無意識的に、自発的にサイドの軸を調えて中心軸をまとめようとしてくれていたのかもしれませんね。

シャバーサナが楽になった

その他のワークでは、これもストレッチ運動によくある「体幹をひねり込んでいく」動きの中に、呼吸を手がかりに肝臓や脾臓を自覚する感覚を観ていくものも印象的でした。
一連のワークがすべて終わって、最後に床に仰向けで寝る、ヨーガで言うところの「シャバーサナ(屍のポーズ)」で、今回行ったワークで感じた感覚が身に定着するようにしました。

実は私はこの仰臥位の姿勢が少し苦手で、まっすぐ仰向けで寝ると腰椎が詰まったような、反りが入りすぎるような感じがしていたものでした。普段は仰向けになる時は膝を立てて背骨の反りが緩まるような姿勢をとっていました。
ところが今回、すべてのワークの後に仰向けで寝てみると、実に楽に背中を床に預けていることができたのでした。これは今までにない感覚で、とても驚きました!
このシャバーサナで、手のひらを天井に向けるか床に伏せるかでも、肩の感じが変わってきます。薬指・小指の軸ラインが体幹と直結しているためだと思われます。


恵美子先生はほんとうにすごい!

サヤカさんはじめ運営メンバーと、塾以来の友人たちと共に恵美子先生を駅までお送りした時に、駅前の道端で先生が「最後に10分くらいだけでもいいから、何か意見や感想があったらぜひ聴かせてほしい」と、私たちの話を聴いてくださったり、また、恵美子先生がこの講座に込めた狙いや意図を実に熱っぽく明かしてくださったりしました。
そのお話を聴いてみると、恵美子先生が実に計画的に、緻密な計算のもとに今回のプログラムを体系立てて練り上げてくださったのがわかって、先生がほんとうの本気でこのWSに取り組んでくださっている姿勢にとても感動しました。

また、先生は「今回は参加してくださった皆さんの存在にほんとうに"助けられた"」と仰ってくださいました。WSの事前には、サヤカさんとの打ち合わせで「どんな人たちが集まるのか、その人たちはそれぞれどんなバックグラウンドをもっているのか」を先生は知りたがっていた…とサヤカさんから聴きました。

こういう学びの場は、集まるメンバーの顔ぶれによって雰囲気がガラッと変わってくるということは、一照さんの塾などでも経験していたことでした。
場に集う人たちについての情報をできるだけ集めて、どんな場になるのかをできる限り予測して内容を組み立てようとしていらっしゃったのかもしれませんね。

佇まいを磨いていこう

第1回WSのすべての日程が終わって、場が解散していこうかという時に、はじめてお目にかかる人でこの研究室にも後期から新たに加わった女性が歩み寄ってきて、

「きょうこの会場に入った時から、居ずまいというか佇まいがスッとしていたのが気になっていました」

と、私に声をかけてきてくださいました。

私もこれまで様々な身体探究的なワークショップに参加してきましたつもりですけれど、「佇まいがシュッとしている」などということを、初対面の人からまさかその場で言われるというような出来事は初めてで、ほんとうに驚いてしまったのでした。
その方にはきちんと名乗ってご挨拶できなかったのがあまりに恐縮でしたので、後ほどfacebookでご挨拶させていただきました。ありがとうございました。

私は「韓氏意拳」という中国発祥の武術を学習しているのですが、そのお稽古会にも、それからこの研究室のようなワークショップの場にも、様々なバックグラウンドを持つ人が集まってきています。
鍼灸などの施術をしている人、セラピスト、バレエやダンスをしている人、心理カウンセラーなど福祉関係のお仕事をされている方、僧侶…といった人たちが、武術の稽古やワークショップでの経験を現場に生かそうと学びにやってきます。

一方、私はというとそういう具体的な"現場"にはいなくて、そういう身心の探究それ自体がおもしろくて愉しいから参加していて、その場での体験を拙いながらもこうしてnoteに記録してアップしていくことで、結果として幾らかなりとも役に立つこともあるだろうか…というつもりなだけです。

とはいえ、学びの場での経験を活かしていける「現場」がある人のことが、時おり胸苦しくなってしまうほどに羨ましく思うことがあります。「学びの場での経験を活かして世の中に提供していけるものが僕には何もないし…」と過度に卑屈になってしまうこともあります。
この現世というか俗世というか娑婆世界では「何かをして」世に問うたり役に立ったりすることが価値あること…という強い思い込みがあります。

何もしないで「ただ居る」ことが人の心を動かすことがある。身体感覚を手がかりに自分の内面を深く掘り下げていくことでそれが起こることがあるのだな...。

禅では「無所得無所悟」とは言いますけれど、一照さんの塾以来、様々な貴重なご縁をたどって自分なりに続けてきた探究の、ある意味での"成果"が、まったく思わぬところから思わぬかたちで降ってきたような、ほんとうに驚くべき、しかしこうして後から振り返ってみるとしみじみと有り難い出来事でした。

佇まいということでいえば、下の写真はサヤカさんが講座時間中に撮ったものですが、受講生それぞれの坐り姿に、それぞれの"らしさ"が出ていてとても良いと思います。

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身体の感覚をまっすぐに受け取って、それを手がかりに自分を深堀っていくことが好きで、その素養もそれぞれなりにあって…というようなことも見えてくる写真。短い期間ではあるけれども、よいコミュニティに育っていく予感があります。
次回第2回は12月の初めです。とても、さらに愉しみになってきました!

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