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おもしろくない男

「今まで、一緒にいておもしろいと思う男に出会ったことがない。」という発言を通りすがりのすれ違いざまに聞いた。

だいぶパンチがあった。

「歴代の男に失礼じゃん!」と彼女の友だちが隣で言っていた。

「えぇ、こっちが損してんじゃん!おもしろくない男しか出会ってないんだから。」と更に返している。

清々しい季節の、大きなお濠がある公園。光は程よくまぶしく、水面はキラキラと輝いていた。本気でトレーニングをしている人や自転車の練習をする親子、赤ちゃんがやっと眠りについてほっとしてベンチに座っているお母さんもいる。

わたしは歩きながらほぼ瞑想状態だった。何も考えない状態にすることだけを考えて、ギリギリの意識でただ手足を前に動かして歩いていた。

そしてこの彼女達の大声の会話に、一気に引き戻された。声の大きさと言葉遣いからJKかと思いきや、すれ違いざまにだいぶ大人だったことに驚いた。

そういえば、最近そんな人たちとの付き合いはないけれど、「最近面白いことあった?」「なんか面白いこと言って」「なんか面白い話して」「どっか面白い場所連れてって」っていう人って存在する。「ねぇねぇ、なんか面白いことない?」と常に面白いことを探しているように見せかけて、私を楽しませてくれる人であれ、という圧を与えるのだ。これがまぁまぁ一定数存在するもので、私の経験上は女性に多い気がする。

飲み会で、話題の切り出しとしてテンプレートに使っている人を何度も見てきた。そして男性がチャレンジする最近面白かったことの話に「んー、おもしろくない、イマイチ!えーウケる!!」などと、ジャッジしていく。女王気取りである。すべらない話をしなくてはいけない展開。かなりの確率で相手へのストレスをバキバキに与えていることに気づかない。

「好きなタイプは?」と聞かれて、面白い人!と答えるのは小学生くらいだと思っていた。足が速くて面白ければモテる時代には、男子がみんな、とりあえず面白くなろうと努力していた授業中や昼休みの光景を思い出した。おそらくこの時期に、自分は面白さを発揮できるかどうかのポテンシャルを確かめている。面白い男子ランキングをノートに書く女子。面白い男子グループに入れればそこにいるだけで面白い男子=モテとなっていた。

しかし、その男子達はある一定の期間を経てあることに気づく。

「何で俺がわざわざお前のことを楽しませないといけないんだよ。」と。

そして彼らは好みのタイプを聞かれてこう答えるようになる。

「一緒にいて楽しい子。」と。

面白いと思われるポイントを理解し、ノウハウを持った男子達は、その面白さに価値を感じるタイミングで面白さを発揮できる。目立ちたい場面や、先輩にかわいがられたい、後輩に憧れられたい時。リーダーになりたい場所や、先生や店長に気に入られたい時。社会人になれば、合コン受けはお手のものだし、営業のエースまで最速で駆け上がる。

そう、面白いポテンシャルは使うべき時に使う。誰にでもいつでも面白くするなんてサービスはしなくなるのだ。そしていつか、この人の笑顔を見たい思う人の前では存分に発揮する。一緒にいたら楽しくて、もっと一緒にいたくて、長く一緒にいたいから、たのしくて面白いと思われるべく、面白さを発揮してくれるのである。

だからつまり、歴代の相手は、あなたといておもしろくなかったのだよ。面白さの無駄遣いをしなかったんだろうよ。相手の興味の話をたくさん聞いてみたら、誰だって必ず面白いんだから。人間はみんな、全員びっくりするくらい面白いよ。

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