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筑波大学|「身体知の可視化」から迫る伝統文化の間合い。個性や感性が画一化されないカラフルな社会を目指す

Life is Tech ! には、中高生を教える役割を持った「大学生メンター」が多数在籍しています。彼らは中高生にITやプログラミングを教えるだけではなく、情報・データサイエンス系の大学・学部へ通い、自らも学びを深めています。
メンターたちは、大学ではどのように、何を学んでいるのでしょうか。

今回は筑波大学 情報学群 知識情報・図書館学類 知識科学主専攻4年の黒瀧かれんさんに、大学における授業やデータサイエンスの面白さ、これから挑戦したいことについて聞きました。


「より人に寄り添える研究を」他大学から筑波大学への編入を決意

黒瀧さんは、3年次から筑波大学に編入したと聞きました。他大学から筑波大学情報学群へ編入した経緯を教えていただけますか?

最初に入学した大学では情報学を専攻していて、プログラミングを中心に学んでいました。編入を考え始めたのは大学1年の頃です。当時の大学に研究奨励費の制度があり、それを利用して大学のポータル情報をまとめたアプリ開発に取り組みました。そこで、改めてただプログラミングを学ぶだけでなく、もっと人に寄り添えるような研究・開発がしたいと思ったのがきっかけです。

当時通っていた大学の学部ではそのような卒業研究の前例が少なく、編入試験を受けることを決めました。なかでも筑波大学を選んだのは、情報学群知識情報・図書館学類の身体知と芸術表現研究室に入りたかったからです。情報系のなかでも身体知の側面から人々の支援をする研究ができることに魅力を感じました。

編入試験に向けて取り組んだ対策について教えてください。

編入試験は大学院入試と同じように研究ベースでのプレゼンテーションが求められるので、その対策を徹底しました。以前の大学での学びをどうつなげていくか、知識情報・図書館学類を志望した理由、今後取り組みたい研究テーマについてしっかりと受け答えができるようにしました。

話は遡りますが、私は祖母が茶道と華道の師範免許を持っていたこともあり、子どもの頃から日本文化に興味を持っていました。日本文化に限らず、音楽やアートといった表現活動にも関心があったので、表現とデータサイエンスを掛け合わせ、捉え直す研究がしたいという思いを伝えました。

茶道のお点前を身体で覚える「身体知」の研究に取り組む

筑波大学に編入して、どんな授業を受講しましたか?印象に残っている授業があれば教えてください。

編入時から興味があった「身体知」という授業が面白かったです。頭の中で手順を追いながら動きを覚えていく「頭脳知」に対して、「身体知」は身体で動きを覚えていくことを指します。例えば、能や雅楽といった伝統芸能は身体知といえます。これらはまず先生や師匠が弟子にお手本を見せ、弟子たちが練習を繰り返し身体に覚えさせることで伝承されてきた文化ですよね。
特に伝統文化における間合いのようなものは書物などでマニュアル化できないからこそ、頭脳知ではなく身体知で獲得されてきたものだと感じます。普段はあまり意識することがありませんが、日常生活における話し方や動き方など、間合いは人それぞれの個性が宿るものでもありますよね。その観点でも重要な意味を持つと考え、最近は間合いの研究に力を入れています。

黒瀧さんが取り組んでいる間合いの研究について教えてください。

1年次から専門的な研究活動ができる筑波大学の「先導的研究者体験プログラム(ARE)」を利用して、茶道のお点前における間合いの体得を研究しています。抹茶を点てる一連の作法手順について、先生の動きを真似て覚えるお点前は、まさに身体知の事例のひとつ。そんな一連の動作の視覚情報を制限することで間合いの体得は可能なのかという「視覚情報制限装置」の実験を行いました。

お点前の動きを真上から撮影
撮影したお点前の動作を金魚の動きで再現

これは、事前に真上に設置したカメラでお点前の動きを撮影し、それをゆらゆらと泳ぐ金魚に置き換えるというものです。人が視覚によって多くの情報を得ていることは言わずもがなですよね。それをあえて金魚というもので制限することで、茶道の間合い、つまり時間の一連の流れがより感じやすくなるのではないかという仮説のもとで取り組んでいます。可視化できない“間合い”の表現をある種の作品のように体験してもらう展覧会も開催しました。

研究を深めるなかで、データサイエンスの面白さはどんなところにあると感じますか?

情報学群のなかでも知識情報・図書館学類は、文理融合型なのが特徴です。表現としてのメディアアートを追求するだけでなく、身体知のように「知とは何か?」というところから模索していけるのが面白いですね。

また私は社会や人につながる研究をしたいと思っているからこそ、単純なプログラミング学習で終わらずに、データサイエンスをいかに活用して身近な問題や社会課題を解決していくかを考えていけるのが楽しいです。

個性を平均化しないカラフルな世界の実現を目指して

これから挑戦していきたいことがあれば教えてください。

最近私が感じている危機意識として、ChatGPTのようなAIの登場によって人の個性や感性が画一化されてしまうのではないか、という思いがあります。AIに頼りきることは、一律の答えに触れることであり、同時にその答えや表現をあたかも自分が生み出したかのように錯覚してしまう危険があると感じています。本来はさまざまな情報に触れて自分の中で咀嚼して表現してきたはずなのに、ある意味で人がロボット化した社会になってしまうのではと思うのです。

でも、みんなが同じことを感じて、同じことを考える社会なんて、きっとつまらないですよね。もっとカラフルな社会であるために、AIの活用を考えていく必要があると考えています。だからこそ「視覚情報制限装置」のような体験を通して、それぞれの個性みたいなものを感じ取ってもらいたいんです。今後は、そんな思いを絡めて研究に取り組んでいきたいです。

——最後に、データサイエンス系に興味がある受験生にメッセージをお願いします!

私は幼少期からいろいろなことに興味があるタイプで、ひとつのことに絞らずに習い事や勉強に取り組んできました。その点、幅広く学べる筑波大学は自分のようなタイプに合っていると感じます。

国公立の筑波大学は私立大学と比べて受験科目も増えますが、高校生の皆さんには受験科目を限定せずに、いろいろなことに興味を持ってもらえたらと思います。何かに興味を持つことは、自分の個性に気づき、感性を育むことにもつながっていくはずです。平均化されることのない、自分自身の個性や感性を大事にしてくださいね。

記事提供
データサイエンス百景:https://ds100.jp/future/s-016/


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