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海岸通り 注文の少ない料理店

 どの賑やかな町にでも、どんな商売を始めても繁盛しない地所というものがある。

 私の住む地区にもそれが一か所ある。


 海岸通りの美しいこの地区に引っ越して来てから三年が経った。

 何かしらのお祝いをしようと、友人を誘って韓国焼肉、飲茶食べ放題レストラン(添付写真)にて、飲茶ならず無茶食いをすることに決めた。

 最近ではレストランにて食事をする頻度は多くはないが、節目節目ごとに何かしらの記憶に残る行事を催していないと、月日だけが無為に過ぎてゆく。


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 体調を改善させる試みとして、最近数か月は毎日鳥のエサのようなものを食していた。こってりしたタレにどっぷりと付けて頂く、ジュージューと焦げ目の付いた焼いた韓国焼肉の食べ放題は、すなわち、この数か月間の鳥のエサ食の反動である。このメニューには、さらに寿司、飲茶、中華料理、タイ料理、デザート、ビーガン料理の食べ放題も含まれている(3500円相当)。


 このレストランに向かう途中に通り過ぎるカフェレストランがある。街に出掛ける時は毎回通らなければいけないレストランである。オーナーとはまったく面識もないが、ここを通り過ぎる度、悲愴感および罪悪感が沸き上がることは否めない。

 何故か?


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 このレストランは数か月後に畳まれると確信しているからである。

 オーナーは毎日、客待ち顔にてカフェレストランの外に立っている、そしてその客はいつまで待っても現れない。一度ぐらいそこで食事をさせて頂こうか、と考えがよぎることもあるが、今のところは実現していない。果たして、私一人が食事をしたところで何が変わるのであろう。


 何をやっても上手く行かない地所は、いわくつきの地所とも噂される。

 実家近くの商店街、一番端の一店舗がそのような地所であった。どの商売も流行らず、重病に罹患するテナントも数回あった。

 私は縁起をかなり担ぐ方ではある。その地所は風水的に入り口が鬼門の方角を向いている、などと説明されたら、なるほどと納得する場合もある。

 しかし大抵の場合は、科学的あるいは消費者心理的に説明出来る理由がある。その地所にある建造物に住んだ人は皆病気になる、などという都市伝説も多い。しかし、その建物に使用されている建築材にはアスベストの含有量が多かった、等の理由もあるであろう。

 4テナントのうち偶然に2テナントがなんらかの病気に罹患した場合、他の2テナントに関しても不幸を探して、この地所と関わったら、誰しも不幸になる、等の噂を立てることは容易であろう。大小にこだわらなければ、大抵の人に関しては、不幸の1つや2つぐらいは見つけられる。


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 この地所にある店舗は、私がこの地区に引っ越してからの三年間という短期間に、三回テナントが替わっている。すなわち、このカフェレストランは四回目のテナントというわけである。

 レストランに関しては、大抵の場合、立地条件も決定的な要素になるはずである。しかし、この流行らないカフェレストランに関しては、隣接するレストランと比較して立地条件に大差があるようには感じられない。


 それでは、私が毎日通り過ぎるこの地所の不利な点は、果たしてどのようなものであろうか。


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 現在の時勢においては、血を流しながら営業をしているレストランも数多いが、繁盛しているところも多い。従って、パンデミックに依る影響を考慮に入れずに考察をしてみるとする。

 レストランが流行らない理由は多く存在する。ここが流行らない理由は、一般的に鑑みて、カフェレストランとして魅力的ではないからであろう。

 それでは、ここには欠けているものは何であろうか。


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 まず店内が狭い。テーブル席はせいぜい2卓、窓側のカウンター席は5席ほどであろうか。しかし狭いことも理由にはならない。狭くとも流行っているレストランは街中には多くある。流行り過ぎて整理券を発行しているラーメン屋などは、ここよりもさらに狭い。

 さらに、難解なのは、この界隈には同国(中近東)の料理を提供するレストランが、既に4軒あるにも拘わらず、何故、敢えて同国料理で勝負をしようとしているのか、という点である。近所のレストランは比較的流行っている。また、店内も広く、インテリアに関しても正しいものが正しく配置されている。バスルームの天井から吊るされている照明さえもが美しい。

 このカフェレストランは既に面積で負けている。同じ土俵で勝負が出来ないのであれば、せめてこの界隈にはないタイプの料理で勝負したらどうなのか、と疑問したくなる。


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 気になった点はまだ続く。店内も非常に暗いため、外からは何も見えない。カフェレストランなので、レジの下のガラスケースにカフェフードが並べてある筈ではあるが、ガラスケースの中には、カフェフードのようなものは何も見えない。焼きたてのパンの香りも漂わない、すなわち、食欲を刺激するものがないのである。

 
 この国では、起業のためのセミナーおよびコース等が、随所で、無償で提供されている。そこには夢を描く人達が集まって情報を収集している。

 そのような団体が企画した一起業コンテストにて優勝した若い女性は、バジルの室内栽培というプロジェクトにてビジネスを立ち上げた。この計画によりバジル輸入を減らし、輸送プロセスによる環境汚染も軽減させることが可能である、というサステイナビリティ重視の動機が審査官たちに良好な印象を与えたようである。


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 むろん、起業コースに参加した全ての人が成功するわけではなく、私のように何の行動も起こしていない人間が、人様の起業に対して偉そうに意見を挟むのも甚だおこがましい。しかし、この地所でレストラン等を展開しようとしていたテナント達は、せめてそのようなコースを受けて来たのであろうかと疑問に感じる。

 

 この地所の歴史を三年間も目の当たりにし続けていると、栄枯盛衰どこか、枯枯衰衰を感じてしまう。いずれのオーナーも開店前は、希望に溢れた表情で家具を運び入れたりしていた。しかし三か月経っても客が入らないと徐々に暗澹とした表情に変わってゆく。

 店内が暗いカフェおよびレストランは多い。しかし、単純に暗いわけではなく、照明効果によって落ち着いたムードを演出しているところが多い。


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 海岸通りには数軒の寿司屋がある。そのうちの一件は一等地に所在している。夕方に窓際のカウンターに座り寿司をつまんでいると、非常に美しい日没が臨める。そして、そのあとには、幻想的な夜景が臨める、はずである。

 しかし、


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 日没後に臨めるものは、幻想的な夜景の代替として蒼白に照らされた自分の顔である。窓際の天井から吊るされているペンデル照明の白い光が窓に反射してしまっているため、夜景の代わりに店内と客の顔が映ってしまっているのである。この現象も非常に残念な照明効果である。


 誰もが、初日から商売に成功するわけではない。しかし、それほど大きな投資はしなくとも、例えば照明一つにて店の雰囲気はかなり改善させられる筈である。

 スウェーデンにおいて照明は、かなり手の込んだものでも、有名ブランドでなければ手頃に入手できる。仮に、電気工事士に取り付けてもらっても、工賃は一時間5千円ぐらいであり、これらを取付けるのには数時間あれば十分である筈である。親友の一人は寿司屋を営んでいるが、彼女は、クリスマス照明をどこかで購入して、自分で梯子に乗って店舗に取付けていた。それだけでも雰囲気が劇的に変わった。


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 内情を知らない他人が傍から口を挟むのは簡単である。

 しかし、この日常の風景は私の精神衛生にも悪影響を及ぼしているので、まるきりの部外者というわけでもないであろう。

 悲愴な表情を浮かべているオーナーが、毎日客待ち顔で立っている。その目前を毎日通り過ぎていく通行人(私)の心情は穏やかなものではない。

 些細なことでも良いので、改善出来るところから改善していってくれないであろうか。その時は喜んで食事をさせて頂こう。


長文に最後までお付き合いいただき有難うございました。

ビュッフェの写真は実際に食事をさせて頂いたところです。こちらのほうは、逆に、流行っているほうのレストランです。こちらはフレンチャイズであるため不況には対しては打たれ強いところです。

最近は週末に投稿をさせて頂いて、その次の投稿までの間に、皆様の玉稿を出来るだけ多く拝読させて頂くというパターンになって来ました。残念ですが、拝読させて頂くことが数日間遅れてしまう事もあります。


今回も、弊記事を紹介して下さった方の紹介をさせて頂きたいと思います(順不同)。

YMeさん

弊記事、「亜依子さんを探しています」を読んで下さり、私の人探しに協力して下さるために、そのためだけの記事をわざわざ一本を投稿して下さいます。時々、言葉を交わすことがありますが、とても謙虚な方です。そして、実生活においても人助けを頻繁にされていらっしゃる方だなと感じます。YMeさんは美しい写真の記事を多く投稿されていらっしゃります。


かなつんさん

喜劇の劇作家で、おそらくNote世界ではかなり有名な方であると思いますが、毎日400字ぴったりのほのぼの家族ドラマを綴っていらっしゃいます。そのドラマに添えられる写真達も状況にぴったりと適合しています。この方はまたその俳句力でも有名な方です。おそらくかなつんさんは、実際にお会いしてもユーモアに富んだ方だと思います。私の紹介させて頂いた曲が激しすぎて、かなつんさんのイヤフォンを壊してしまったようです、Sorry。


世界の普通さん

最初、偶然、この方のシビアな記事を拝読させて頂いた時は、この方の記事は時々恐々と覗いてみる程度でいよう、と思って居りましたが、ある日、この方は弊記事のコメント欄に突如として現われました。長い間海外で働いていらっしゃるため、日本人の働き方一般を客観的に評価出来る立場にいらっしゃいます。この方の記事もとても興味深いものです。


記事を紹介して下さった方々以外にも心が触れ合った方々を時々ご紹介させて頂こうと考えて居ります。


光がとても美しい動画を見つけました。