アサガオの咲く朝に
・朝の顔、夜の顔
私と柊の学校はすぐ隣同士だからいつも一緒に学校に行っている。
私たちはいわゆる仲良し姉弟なのだろう。
今朝は少し冷える。10月だから冬が近づいているのだと感じてた。
今日も学校に行くまでに、先生の悪口とか、仲良しな友達との面白い出来事とか他愛のない話をしているうちに、学校についてしまった。
どうやら、私は学校よりも、学校に着くまでに柊と話して学校に通っている時間の方が好きなようだ。
これは最近気が付いたけど、柊には言わない。
シスコンだとは認めたくないからだ。
学校には特に面白いことは転がっていない。いつも通りの平凡な学校だった。
少し変わったことと言えば、2人のクラスメイトが体調不良で休んでいたことだ。原因は、一時期世界的に流行していたウイルス性の風邪らしい。
私たちの親世代では、多くの会社が倒産するなどとても大変だったと、両親からよく聞いている。歴史の授業でも最近習ったばかりで記憶に新しい。
肝心のウイルスの名前は忘れてしまったけど、そんなことはどうでもいい。
クラスメイトが休んでいること以外いつも通りの学校は、流れるように過ぎていった。
別に学校がつまらないとは思っていない。ただ、特段想い出に残る瞬間がそんなにないだけだ。むしろ、学校は楽しい。
学校から帰るのは、クラスの仲のいい子と帰る。柊は小学生だから中学生の私とは帰る時間が違うから、一緒には帰れない。
この下校時間も特に変化はなかった。いつも通り楽しく話したからすぐに家にたどり着いてくれた。
マンションの3階までエレベーターで上がっていくときも、すでに気持ちは家に帰ってきた、リラックスした気分になっていた。
そして、ドアを開けると同時に「ねーちゃーん!おかえりー!」って、朝よりも元気な甲高い声が迎えに来る。
この”いつも”だけは毎回が新鮮で、幸せな気持ちになれる。
それから、居間のお母さんが「おかえりぃ」と穏やかに迎え入れてくれる。
それからは、自室に戻って学校の友達と電話しながら、宿題を済ませる。そしたら、今度は柊の宿題のチェックをしてあげる。
私よりも出来のいい柊は、小学生程度の問題ではめったに間違わないけど、私にチェックを求めてくる辺りが、また愛くるしい。
宿題を終えると柊はいつも通り「ねーちゃーん、できたぁー!」とだらしないような、達成感にあふれているような声で私を呼ぶ。
同じ部屋にいるのに、居間にまで響きそうな甲高い声は耳に残るから、もう聞き慣れてしまったけど、友達からは電話口でいつも驚かれる。
そうして、宿題が終わるころには夕飯の時間だ。
同時に柊は勢いよく、机から立ち上がり、玄関へと走っていく。
お父さんが帰ってきた。柊は玄関前にたどり着くまでの足音でお父さんに気が付くらしい。
「とーさーん!おかえりぃー!」相変わらず元気で甲高い声だ。この声は私たちの家をパッと明るくしてくれる。物理的ではなく雰囲気の話だけど。
さあ、”いつも”通りのご飯の時間だ。
でも、今日はいつもじゃなかった。柊の声では明るくならないことだった。
お父さんが会社をクビになったらしい。今日のご飯の味だけは忘れられなかった。
いつも通りだったのは、テーブルの上に咲いていたアサガオだけだった。
この日の夜は、何もかもが違って見えた。
こんな夜にも、家の中では相変わらずアサガオだけは朝の顔をしていた。
今回はここまでです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
一週間くらいかけて、短めの小説を書いていこうと思います!
次回もお楽しみに!
ではまた!
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