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いつか来る死がビジネスマンに教えてくれること

現代芸術作家の佐藤雅晴さんによる個展「死神先生」に行ってきた。「東京尾行」などが有名で、2016年には原美術館(東京・品川)で個展も開催している。その佐藤雅晴さんは8年に渡る闘病生活の末、個展「死神先生」開催期間中の2019年3月9日に亡くなった。

昨年9月に余命宣告を受けてから制作に取り掛かった作品群である。「45歳にしてこんな新鮮な思いで、絵を描くことができたのは癌のおかげかも知れません。」と語る佐藤さんの作品は、病床から見える空の小さな飛行機であったり、お風呂場のタイルであったり、日常の小さな小さなモチーフから来るものである。ただ、それは佐藤さんの現実と重なることで、「生きる渇望」と「死への諦め」の狭間に鑑賞者を追い込む。作品それ自体、そして作品と向き合っている時間はとても静謐であるが、心の中に力強い映像として残る。

僕はnoteにおいて「VUCA時代、予測不可能な時代をどう生きるか」を主なテーマとして思いを巡らし、記事を書いている。最近は、そこで生き抜く術の一つとして、「アート思考」(※)に注目してきた。僕の仮説として、アート思考を実践するということは、芸術家の集中や没入過程から学び、まずは圧倒的な集中力を物理的な時間と環境の確保を含めて取り戻すこと、として自分自身の中に取り込もうとして来た。

佐藤さんの作品を眼前にして、死が迫ったときの集中力の凄まじさを実感した。その集中力の中で生み出される作品は、例え見慣れたものであっても唯一無二のものとなる。

ビジネスの中にアート思考を取り込むということは、これほどの覚悟を求められるものなのではないか。「明日死ぬ」「この仕事のためなら死ねる」と言った圧倒的な思いなくしては、結局今までと何ら変わらないのではないか。何も仕事のために死ぬ必要はないが、アートもビジネスも圧倒的な集中力と覚悟があって初めて、自分自身の望むアウトプットに近づけるのではないかと思う。

改めて思う、今の時代は中途半端では競争に勝てない。圧倒的な唯一無二だけが求められていく。

しかし、それは集中と緊張の末に生み出されたピリピリしたものであっては、人には響かないし、届かないかもしれない。佐藤さんの作品のように、最後の最後までユーモアも忘れてはいけない。

「人生を賭けて取り組んでいることはあるか。」
自分に問う。僕は問い続ける。

佐藤さんの生の輝きから大きな力をいただいた。

佐藤雅晴さん、並びにご家族の皆様に心より哀悼の意を表します。

「死神先生」は3月16日をもって会期を終えたが、佐藤雅晴さんの作品は「六本木クロッシング2019展:つないでみる」(2019年2月9日~5月26日)などでも触れることができる。
(※)アート思考とは


いつも読んでいただいて大変ありがとうございます。