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羅小黒戦記(罗小黑战记)

※一部3ヶ月前の下書きを残しています。

羅小黒戦記、字幕版は都合がつかず観れなかったのだが吹替版の制作と全国上映に大歓喜した作品だ。特典も可愛くて気づけば毎週観に行っている。

公開から3週目になるが、すでに1日1回〜2回の上映になっている映画館もあり、悲しい。それも仕方ない。今週の映画館はヴァイオレットエヴァーガーデン、鬼滅の刃、羅小黒戦記、魔女見習いをさがして、プリキュア、ドラえもんとアニメ映画が大渋滞しているからだ。そうはいっても羅小黒戦記より先に公開された某鬼を滅する映画はまだ10回以上やっているのにな〜と半ば恨めしくも思う。

アニメ映画は、個人によって絵柄やストーリーの合う合わないがあるので人に勧めるのは意外と難しいかもしれない。だが、羅小黒戦記は絵柄とストーリー共にあまり好き嫌いの分かれない作品ではないかと思う。

webアニメもほのぼのした話が多いし、絵柄も可愛いのでほんわかした平和なストーリーかと思いきや、人間と妖精の共存だったり環境破壊だったりとなかなか重いテーマではある。羅小黒戦記の公開後、中国でフーシーを思うファンの中には植樹活動を始める人たちもいたという情報もあり、その影響力は凄まじい。

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ここまで書いておきながら下書きを熟成させてしまった。もう公開から3ヶ月目。吹替版も上映館が追加されたり、字幕版再上映もされたりと気づけば1年以上も日本のどこかで上映されている。さすがに数はかなり減ってきたが、まだまだ上映されている。間違いなく超ロングランヒットだ。

webアニメからのファン、約1年前に初めて上映されたときからのファン、吹替版からのファン、多くの人を虜にしてはリピーターを生んでいる。中には関連作品に手を伸ばしたり、グッズの個人輸入を試みる人までいる。かくいう私もその1人だ。

関連作品にはHMCH制作のアニメ『万圣街(万聖街)』、MTJJ監督による羅小黒戦記の番外編の漫画『蓝溪镇(藍渓鎮)』がある。私は藍渓鎮の方はbilibili漫画のアプリをインストールして無料更新分まで読んだ。そして紙媒体欲しさに代行会社に買付を依頼しているところである。

なぜ羅小黒戦記とその関連作品がここまで一部の日本人に熱狂的な人気を集めているのか。映画を8回鑑賞し、webアニメと藍渓鎮を追った私なりに、その人気の要因を考えてみた。

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1. 魅力的なキャラクターたち

主人公のシャオヘイがとにかく可愛い。冒頭の森のシーンをはじめ猫の姿のシャオヘイの愛らしさは格別で、猫好きの心をくすぐること間違いなし。年齢設定は6歳とされているが、公式資料によれば身長は70センチと一般的な6歳児よりかなり小さい。ぷにぷにのほっぺやむちむちの腕は赤ちゃんのようで、吹替を担当した花澤香菜さんも「食べ物を食べているときのふよふよ動くほっぺが可愛い!」とインタビューで絶賛していた。幼いけれど少し生意気そうな一面もあり、食べ物に目を輝かせる様子には子どもらしさがあふれている。

シャオヘイを助けるフーシーは映画本編で初めて言葉を発するキャラクターだが、その一声で一気に世界観に引き込まれる。今後webアニメや計画されている続編には登場しないこの映画のために考えられたキャラクターだが、その作りこみ方は緻密で、この1作だけにはもったいないくらいだ。

最強の執行人ムゲンは、まず初登場シーンがずるい。月をバックに登場、あえて顔はまだ見せず片手のみで応戦するという演出は、なんかめちゃくちゃ強そうなヤツが出てきた!と気持ちを引き締める。初めは冷酷な悪役さながらの印象を与えるが、徐々に優しさや少し抜けたところが見え始めてくる。

他にもフーシーの仲間のシューファイやロジュ、テンフー、そしてムゲンと同じ執行人のキュウ爺やシュイなど、見た目からも個性にあふれた様々な能力をもつ妖精たちが後半にかけて続々と登場する。登場時間の短いキャラクターもいるので、次回作やwebアニメでの活躍に期待している。

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2. ストーリーの進みかた

映画を観ていると、時折どのキャラクターにも感情移入できない作品があったりする。客観的に観れるのはいいが、少々観るのに疲れることもある。羅小黒戦記はその点でいうと感情移入しやすい。観客を置いてきぼりにすることがなく、共感を強要してくることもない。

というより、初めて観る人はいつの間にかシャオヘイに感情移入してしまうのではないだろうか。助けてくれたからフーシーはいい人、ムゲンは自分の居場所を奪ったから悪い人という第一印象をもってストーリーを進めていく。だが途中で「なんだかこのムゲンって人いいやつじゃない?」とシャオヘイと同じ気持ちになっていく。ごく自然に映画の世界に引き込んでくる。

そして過度に感動を煽ったり、共感を訴える演出もない。感動するポイントも、涙を流すタイミングも、人それぞれでいい。わかりやすくここは泣くシーンだとか、これに共感しないのはおかしいとか、観客にそう思わせるところがない。過剰に心を揺さぶられることなく、自分なりに作品を楽しむことができる。

3. アクションとギャグの小気味よさ

映画の宣伝でよく謳われていたのがアクションシーンの迫力だ。ファンの間では回数を重ねるごとに動体視力が鍛えられるとも言われている。そのくらいよく動くし、独特のカメラワークだ。

とはいえアクション映画というわけではなく、ちょっとシュールなギャグシーンもある。海外の映画となると文化の違いでギャグがわからないこともあるが、この映画ではバリバリの中華ギャグは少ない。中国語がわかると面白い小ネタは背景の要所要所に仕込まれてはいるが、わからなくても問題はない。日本人と中国人が同じシアターに居合わせたとしても、笑いが起こるタイミングはさほど変わらないだろう。中国語や中国文化がわからない人でも十分に楽しめる。

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4. ストレスなく観られる

主人公のシャオヘイはまだ6歳の子どもだ。でも自分の意思はもっている。子どもの意思を無視して大人のいいように働かされるような作品もあるが、羅小黒戦記はそうではない。序盤のムゲンには少々強引さはあるが、基本的にシャオヘイに選択肢を与える。「人間にどう復讐するんだ?」「館に一度来てみなさい。嫌なら出ていけばいい」など、シャオヘイの考えに耳を傾けようとする姿勢はよく見られる。

また、男らしさや女らしさといったジェンダー的な押し付けや、過度な性的演出がない。女性のキャラクターが異様に胸が強調されていたり、男性のキャラクターが異様に筋肉質だったり、そういったキャラクターデザインがない。日本の漫画やアニメでよくある”ラッキースケベ”的な演出もない。目の前にいるのは男か女かで記号化されることのない、キャラクターそのものである。

ナタと初めてあったシャオヘイの言葉も重要だ。私は予告編を観たときナタはてっきり女の子だと思っていた。しかし、終盤にシャオヘイと同じタイミングで「男の子なんだ」と知る。このあとのシャオヘイの「髪型可愛いね」の一言が出ることにすごさを感じる。私も髪型や服装でナタは女の子だと勘違いしたが、男の子だとわかったシャオヘイから出た言葉は「なんで男の子なのにそんな髪型なの?」ではなく「髪型可愛いね」なのだ。男の子が可愛いと言われて嬉しいかは賛否が分かれるかもしれないが、「男の子なのに/女の子なのにそれはおかしい」と外見に性別を押し付けず素直に褒めることにハッとさせられるものがある。

性別で言えば、恋愛的描写もない。シュイや花の妖精がムゲンの気配を感じて会いに来るシーンはあるが、そこにあるのは恋愛的感情というよりも憧れや尊敬の念だ。そしてムゲンも2人に性的な視線や恋愛感情を向けていない。楽しそうに生活しているのを見守るような、2人にとってこの人なら頼れると安心感を与えるような、そんな存在のように感じた。

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魅力的なキャラクターたちに、起承転結のわかりやすいストーリー展開、過度に感情に訴える演出や固定観念の押し付けのなさ。子どもにも安心して観せられるし、大人も楽しめる映画だ。加えて中国という同じ東アジアということもあり、街並みなどの風景に馴染みやすいというのも少なからずあるかもしれない。

中国というとマイナスなイメージをもったり、政治的な面で毛嫌いしていたりする人もいる。しかし、そういうこととは切り離して、一作品としてぜひ多くの人に楽しんでほしい。英語版やタイ語版の吹替や、ドイツでのDVD発売も決まっているらしい。私はいつか、金曜ロードショーやNHKの地上波のシネマ枠あたりで放送されたらいいなと密かに願っている。今一番勢いのある、とってもアツい作品だ。

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