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F#2 旅を続けた理由

2025年5月2日。

それにしても、ゴールデンウイークってすごいネーミングだ。口にしただけでウキウキな気分になる。魔法をかけられてしまうかのようだ。

金色に光り輝くという言葉を『時間』という概念につけたその人は天才だ。

マグカップいっぱいのジャスミンティーが部屋中を幸せな香りにしてくれる。ボサノバがこれまた心地よく響き渡る。中国なんだかブラジルなんだかよくわからない。言いたいことは、私はこの家が大好きだということだ。

我が家の庭には『不思議の木』がある。

大家さんが植えた木なので、実のところ、なんの木なのかわからない。いや、もしかしたらそもそも植えたのではなく、勝手に生えたのか、いやそんなことはないだろうと、木を見ていると矢継ぎ早に質問が浮かんでくる。だから私はその木を『不思議の木』と名付けよう。

今日から君は『不思議の木』だ。

窓から降り注ぐ光と、その不思議の木のコラボ―レーションと言ったら。まるで、アラブの国のミステリアスな美女が木陰から出てきそうだ。どこまで不思議なんだろう、この木は。

私はこの家と木に呼ばれたんだ。木を見るたびにそう思う。

なぜか急に鎌倉が気になり始めたのは今から6年前。気になり始めたというか、私は完全に「呼び戻された」と思っている。一度は離れた鎌倉に。

鎌倉は吹き抜ける風の味が違うんだ。

風の味って変な表現だけど、他に言い表す言葉がない。まるごと包んでくれて体の奥まで入ってくるその風は柔らかくて、優しくて、甘くて、本当においしいのだ。体中がおいしいおいしいってごくごくと、風を飲み込んでいく。

今まで26か国旅してきた私だけど、私の心が求めていたのはこんな近くにあったなんて、神様がつけるオチはいつだって面白い。

それ以来、申し込んだ講座の会場が後から知ったら「鎌倉」だったり、そこにいるはずのない人が鎌倉に引っ越していたり目の前が鎌倉であふれ出した。鎌倉フィーバーなわけだ。

そんな風に当時のことを思い出しながら、ふと庭の方に目をやる。

不思議の木の手前には真っ白なシーツが気持ちよさそうに風に身をゆだねている。今日も天気がいい。あぁ、あのシーツになりたい。

あぁ、ダメだ。

私、ダメになりそうだ。

幸せでダメになりそうだ。

こういう時に必ず思い出すのはやっぱり5年前。コロナイヤーだ。しかもその年の5月1日。記念日だから絶対に忘れない。

その日、瞑想して心にスペースができたところに、今まで隅へ隅へと追いやられていた本当の自分が、「どもども。失礼します。」って入ってきた。

今までずっと入ってくるチャンスをうかがってたんだろう。隅にいたのは私の思考もよーく知っていたんだ。知ってたっていうより、見張っていたんだな。

でも、本当の自分が入ってきたことに気づいたのは、瞑想の最中ではなかった。これが不思議と、その日の夕方、犬の散歩をしていた時だったんだな。

毎日通っていた道がまるで別世界だったんだ。

お花が咲き乱れていて、今まで気づかなかったものにたくさん気づいた。幸せで満たされたのを覚えている。あぁこれかって。今まで見ていたのは自分が制限してた、この世のごくごく一部。それが少しずつ広がっていくのがわかった日だった。

今までもずっと変わらずそこにあったものが、あたかもその日急に現れたかのように目の前に広がる光景。あとは心に従うだけだ、そう力強く確信できた一日だった。

「Baby, would you help me?」

夫の一言で現実に戻る。シーツを取り込むから手伝えと言っているが、おいしいお茶をいれるからとそっちはやって!と言い放った。

私が作るお茶もおいしいのだ。

今日は2025年5月2日。お天気も最高、私のお茶はなお最高。








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