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子どもと大人が共に育ち合う場をつくりたい|想いをカタチにしていく新園立ち上げのプロセスを共に

未来の担い手である子ども達の育ちの場の1つとしてある保育園。現場では、命を預かり人生の基礎となる乳幼児期を育む責任感、子ども達の言葉やしぐさに心が動き感動や成長の楽しさと真摯に向き合っている保育者が居ます。今回はそんな保育現場から「子ども主体の保育がしたい」子どもの興味関心から始まる保育がしたい」「子どもと大人が共に育ち合う場をつくりたい」と心に軸を据えたメンバーが集まった新園立ち上げのプロジェクトをお伝えします。

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ワクワクしていると主体的な行動が起きる

「子ども主体の保育実践として、レッジョエミリアアプローチを取り入れることにしたのですが、本からでは、具体的な保育の部分が分かりづらく、不安なんです…。」との声がありました。そこで、コロナ禍で現地等の実践園へ行き現場を見て・感じて・体験的に学ぶことが難しい今だからこそ、現場から感じるワクワクを疑似体験できるような研修をつくることにしました。素材は私達LiCが企画実施したイタリア、レッジョエミリアへの視察時、レッジョエミリアアプローチの実践園の事例を国内外から集めたもの等です。

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【プロジェクトに参加した保育者の声】
「ドキュメンテーションって、もっと型が決まっていると思っていたけれど、『こういう展開もアリなんだ!』と、発想が広がりました。色んな形を試してみようと思います。」

「ドキュメンテーションが保育記録としてだけでなく、園に関わる人のコミュニケーションを楽しくするような、会話のきっかけづくりも担っていることが一番の発見でした。つくる過程で子ども理解も深まっていくだろうし、みんなで大切にしていきたい1つです。」

「大切にしたいことが実際の保育現場でどのように表現されているのか、様々な具体例をたくさん見れたことで、理解が深まりワクワクしました。今はやってみたいことがあれこれ思い浮かぶ楽しい気分です。」

「何よりまずは美しい、居心地がいいなと感じて。現地のドキュメンテーションや保育環境、実践を見て、『こんな保育をつくりたい!』と憧れとモチベーションが上がりました。」

「大人も子どもも、一人ひとりの個性が大切にされていることが園の至るところで感じられて感動しました。こんな場づくりを私達の園でもやっていきたいと思います。」

大切にしたいことがどのように保育現場と繋がっているのか。現地の写真を見ながら語り合っていく中で、前提となる共通の知識が生まれたり、具体的なイメージが湧いたりと、新園の立ち上げに対する主体的な行動のきっかけが見えてきたメンバーです。

今回は保育所保育指針にある3つの資質能力の1つ「学びに向かう力、人間性等」のベース=何かに「いいなぁ」と心が動く心情/「~したいなぁ」と思う意欲/「~しよう、し続けよう」とする態度、この3つを保育者の皆さんに体験して頂き、実体験を通して保育理論に関する理解を深めて頂くこともねらいとし、学びの環境をつくりました。「やってみたい」「楽しそう」「おもしろそう」と内から湧き出る意欲や興味関心、知的欲求こそがワクワクであり、保育者の主体的な行動を促すことに繋がっていくのですね。子どもの主体性を育みたいと願うとき、まずはそんな環境をつくる私達大人がワクワクに着目し、取り組んでみることも1つの方法としておすすめです。

視点を変えると関係も変わる

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保育というサービスを利用するお客様、利用者、消費者ではなく、保護者と子育てのパートナーとしてよりよい関係を築き、ともに保育をつくる担い手としてありたい。そんな想いを形にすべく、取り組んだ保護者会づくり。準備の構成は大きく分けて2つ。知識や視点を仕込む経験(導入→知る:実践園の事例紹介)と新たな意味をつくる経験(創る:テーマに沿ったブレスト→まとめ)です。一人ひとりのアイディアを共有する中で、ひらめきスイッチON!「○○さんのアイディア素敵ですね。それなら、こんなこともいいかも!?」と新たなアイディアがうまれることも。

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【保護者会実施後の保育者の声
「今の世の中の状況や私達の大切にしたいことを踏まて、園側が一方的に情報を伝える形式的な保護者会ではなく、お互いに話し合えて心が通い合う場にしたいと思い、保護者会と呼ばずに『cafe de ○○(○○は園名)』という新たな呼び名をみんなでつくりました。ネーミング1つで、その場が意味する関係が変化することを実感できたことが今回の大きな発見です。

「保護者会をつくる過程を通して、それらがきっかけとなり、子どもの姿について深く語り合う機会が増えました。その結果、お互いに学び合うことができたり、日々の保育を改めて振り返り、今の保育を再確認すると共に、今後の保育について考える視点がメンバー全員で豊かになりました。」

「新園ということもあり、4月5月は手探り状態。コミュニケーション不足が気になっていたため、今回の取り組みの中でよく話し合えたことが何よりよかったと思います。園で大切にしていることを日々の子どもの姿を通して感じてもらうスライドの他にも、体験型のコーナーを設けたり、子育てに関する悩みを打ち明け合う座談会などコロナ禍の開催でしたが、保護者の方がとても喜んでくださり、素直に嬉しかったです。今は達成感に満ちていて、『また次もやりたい』とやる気満々です!

先輩方とじっくりと子どもの姿や保育の意図について話し合う中で、保育についての視点が深まり、子どもへの声かけや写真の取り方が少しずつ変化してきました。子どもの力を信じ、その子らしさに出会い、保育のおもしろさをこれからも味わっていきたいです。」

「場を共にしたことで、保護者の方との心の距離が近くなったように感じます。実施後は以前よりも家庭の様子を保護者の方から積極的に話してくださるようになり、子どもの姿についての会話が増えました。これからも、日々の会話を大切にしながら子ども達の成長を共に喜び合い、園への信頼や安心感が高まるといいなと思います。」

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視点が変わると保護者との関係・子どもとの関係、同僚との関係、大きな意味での自分と仕事の関係も変化していくことが分かりました。自分から変化をつくりだす、そんな姿勢を楽しむ保育者が増えることを願っています。また、会話量が多いことはよい関係性づくりや喜びを感じることに繋がり、その後に続く思考、行動、結果というようなgoodcycleを生み出すことでしょう。

心の安全基地と柔らかさがベースにあると保育者同士の学び合う風土がつくれる

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全てのプロジェクトの中で大切にしたことが「会話のきっかけづくり」「素直さ」です。よりよい園づくりには、心が通い合う関係になることが大切であり、お互いの人柄を理解し合う場が欠かせません。そこで、下記のような工夫を取り入れてみました。

【例】
①クイズ形式(レッジョエミリアアプローチや日本の保育について)
②感じたこと、大切にしたいこと等を少人数で話し合うグループワーク
③それぞれの実践知を還元できるような話し合いの場
④各回の終わりには必ず個人の振り返りと学びの共有をおこない、自分の中での学びを深め、他者へ共有し、共有知をつくる|自分にとって今日1番発見的だったこと、面白かったこと、印象的だったこと振り返る→伝え合う→みんなの学びへ
※④のねらい…まとめとして一人ひとりが研修の総論を述べるのではなく、自分にとって1番○○という視点で振り返りを行うことで、一人ひとりの視点から学び合うことができます。これが集団で学ぶよさの1つだと考えています。また、同じ研修を受け、場を共にしていても感じることが異なるのだということが相手を知ることへ繋がり、人となりを分かり合うきっかけに。

結果、約半年間のプロジェクト期間を経て、息を吸ったら吐くような自然な営みとして、日ごろ保育現場で感じたり、思ったりしたことを自分の言葉で素直に共有することが園の風土として育まれていきました。そして、そんなよい雰囲気をベースに「子ども観」「育ちへの視点」「私たちはどうあるべきか」というような保育の質の向上に向けた話し合い(学び合い)も活発になっていきました。

元気になると身体の底からエネルギーが湧いてくる

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子ども達のエネルギーって凄いですよね!そして、保育の仕事は現場で子ども達と向き合っている時間の他にも、ノン・コタクトタイムといわれる子どもと接触しない業務もあり、それらすべてが保育を支える重要な役割を担っています。(ノン・コタクトタイム|例:書類作成、個別記録等)私自身、約10年間保育者として現場に立っていたからこそ分るのですが、保育って本当に気力がいる仕事だと感じています。そのため、心が疲れてしまうこともありました。それらは悪いことではなく、適度に喜怒哀楽がある方が人らしく、ごくごく自然な流れなのではと思います。そんな中でも、保育者の皆さんには元気になって、本来一人ひとりが持っているやりたいことへ向かえるようないい状態を一緒につくりたいと考え、毎月末に個人面談を実施しました。

まず、みなさんの言葉に心と耳を傾け、一人ひとりの根底にある思いを大切にすることを心掛けていきます。そして、今月の保育を振り返り、来月の目標を一緒に考えていきます。面談の内容は後日LiC側で見える化し、みなさんの目標や自分の変化をより感じやすくなるようにしています。これらを経て、今の自分の現在地と次への一歩、つまり足場と見通しができ、再び自走し始める保育者の皆さんでした。

「元気」とは健康、活動の源となる気力の他に「元(もと)」の「気(き)」に戻ることを意味しています。元の自分に戻れば活力は湧いてくるため、人は本来誰しもがクリエイティブで、エネルギーが湧きでているような存在なのではと私は考えています。からだの底から湧いてくるやりたいことに敏感になり、それに素直になれるか。自分を動かしてくれる感情は何か。モチベーションがどんな時に上がるのかを把握し、自分の感性にのっとって一人ひとりが動いていける状態を一緒につくることを目指していきます。

自分達で考えたことを自分達でカタチにしていくって楽しい

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開園と同時に毎月LiCが保育参加を行い、実際の保育現場を見ながら園として大切にしたいことと現場の保育を繋げるために一緒に考える機会を設けました。保育参加の振り返りでは、その日の子どもへの思いを語り合っていくと共に「違和感」と「いい予感」2つの感覚を大切にしながら進めていきます。どちらもいつも保育をしているみなさんからすると当たり前の日常で気づきにくいものです。客観的な視点で保育を見て、感じて、それらについて語り合っていくことは子どもも大人も一緒に成長する園づくりへと繋がっていきます。

【違和感から学びへ】
Aさん(主任保育士)「私もはじめは『何か違うかも?』『これでいいのかな?』と感じていたけれど、開園当初つい気負って相手へ言えなかったり、タイミングを逃してしまったりしていました。今日、客観的に保育を見てもらい、問いかけてもらったことでハッとしました。これからは違和感を学びに転じていけるよう働きかけていきたいです。」

【いい予感はこれからも大切に】

「いい予感」は現場で既に起きている様々な素敵なことを指しています。これらは園の強みとして伝え、みなさんの保育者としてのモチベーションや心のエネルギー源となるものです。

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このような想いをカタチにしていくプロセスでは、共に考えて意見を出し合い、たくさんの主観(一人ひとりの声)で現場を改めて見つめてみることが大切です。良い/悪いで決めるのではなく、同僚や子ども、保護者、地域の方といった園に関わる全ての人の声に耳を傾け、相手にとって何が必要なのか積極的に理解しようとすることです。このとき、大切なことへ向かい変えられるものへ取り組むために、範囲を定めることがポイントとなってきます。(やることとやらなくてもいいことをはっきり言語化、具体化する/最高を決めるよりも「○○はしない」という最低を定める等)自分達のモノサシができてくると、一人ひとりが自律的に行動しやすくなり、想いをカタチにしていく手ごたえ感や喜びを感じ、次への意欲も自然と湧いてきた保育者のみなさんでした。

思い描く理想の保育をつくっていく過程では、苦しいこともあるけれど『やりたいからやる』というように、自分が楽しんでこそ周囲の人も楽しくなるという姿勢を感じた現場づくりのプロジェクト。現場へのリスペクトを胸に、実際の保育現場を見て、感じて、共につくること、一緒に成長することをLiCでは大切にしていきます。

最後に|子どもの世界をおもしろがる大人が増えることでしあわせな未来をつくる

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園のなかで置かれている立場や役割によって見ているものや考えるべきことが異なるため、どうしても話がかみ合わないということが生じがちです。LiCでは、経営者、園長、主任、保育者等それぞれの間に立ち、視点の違いを可視化し、言おうとしていることを分かりやすく伝えるようにしています。園の長期的な見通しと現場の保育実践の繋がりを実感できると、立場を超えた一体感を持つことができるようになってくるのだと今回のプロジェクトから学びました。そうした一体感がいきいきとした場の力を生み出し、子どもと大人が育ち合っていくことに繋がっているのではと思います。

保育は答えが決まっていないからこそ、子どもと共に創るものであり、人としての根幹を育む素晴らしい営みですね。私自身もっと専門性を深め、より良い縁づくり(園づくり)を皆さんと共に担っていけたらと思います。保育と結びつきが深い「福祉」という言葉。「福」と「祉」、このどちらも「しあわせ」を意味しています。学びの選択肢を増やし、子どもの世界をおもしろがる「楽しい大人」が増えることで、その先に居るたくさんの子ども達の人生も豊かになると信じて。

このようなプロジェクトに興味を持ってくださった方は是非ご連絡ください。
メール:info@learning-in-context.com
担当者:宮田(みやた)

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