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データ解析はネガティブな離職を防ぐことができるのか ~Slackから見る離職の傾向~

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【記事の前に】

※ 離れる事になったメンバーとは、現在も定期的に連絡を取れる仲であり、Liboraの目指す世界観から本記事の執筆・公開に関する理解・許可をもらっています
※ Slackのデータ解析は、プラン等によってはプライベートチャンネル, DMを含めてエクスポート可能ですが、誰でもアクセス可能なオープンチャンネルのみに絞り解析しています。(AnalyticsでアクセスできるDMの統計等は使います。)
※ 事実に基づく内容で執筆しますが、個人が特定されるような情報は出ないように加工します。
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株式会社Libora代表の山下です。
弊社は各々が自分たちの力で理想のチームを構築していく事を支援するサービスの開発を行っている会社です。

現在、メンバー1人1人が所属するチームの成長に参加しやすくするためのツール「capdog」を開発しているのですが、
capdogの企画以前から参加してくれ、Liboraが企業として活動していく土台を作ってくれたメンバー(以下、Aさん)が会社から離れる事になりました。

今回Liboraを離れる事になったのは、新しい挑戦等のポジティブな理由ではなく、私を含めたメンバーとの関係性が上手くいかなくなってしまったというネガティブなものであり、
Aさんから離れる旨をもらったものの、Aさんにしても残ったメンバーにしても不本意なものだったと思っています。

ポジティブな理由でメンバーが離脱していくことは、もちろん寂しい事ではあるものの、良いことであると思っています。
しかし、今回のような不本意な離脱は、チームメンバーが楽しく活動できる世界を目指すLiboraとしては繰り返してはいけない事態であり、今後のために何かしらの対応をする必要があります。

「私が感じていた違和感(後述)を早く気づく事のできる環境を作り、ネガティブな離脱を防ぎやすくできるのではないか?」
と考え、容易に取得できるSlackのデータを活用した解決策の模索をしてみました。

このようなネガティブな内容は、センシティブな内容を含む事や採用活動にも影響する可能性から、オープンにしない事が通常かと思いますが、
組織やチームの運営に関する知識が増えることで、同じような問題を回避できるチームや企業が増えるのではないかという思いから、公開することとなりました。


解析の目的

今回の解析は
離職前に感じていた違和感をデータの面で事実であったか確認し、弊社において同じようなケースで早く気づける環境を作る。
事に目的を絞ります。

タイトルで「データ解析で防げるか?」と投げかけておいてですが、
どんな理由であれ、人と人の関係が大きく寄与し、感情が重要な要素となるこの課題をデータ解析の力だけで問題が解決する事は無理だと思っています。

また、機械学習を使った小難しい事も今回はやりません。
「データ解析で離職を防ぐ」というのをブームにのる事を意識して提案するのであれば、
「それぞれの社員の離職率をSlackの発言から予測する」であったり「最適な解決策をレコメンドする」みたいな思考になるかと思います。

これらの方法が有用なケースもある事を否定しませんが、今回はN=1ですし、機械学習を使うと度々言及されるような解釈性・説明可能性の面で手間に対するリターンが少なくなります。

以上から、今回は上記のように目的を設定しました。


前提条件

解析に進む前に、前提となっている条件をまとめておきます。

【対象期間】
2020年4月〜2020年12月の9ヶ月間

【対象データ】
Aさんが参加していた全てのパブリックチャンネル
削除・編集履歴等は含みません
 DMは含みません

【解析方法】
Jupyter Notebookで基本的なライブラリ(pandas等)でできる範囲


また、ざっくりと私が感じた違和感の原因になってそうな、主観的な出来事は以下となります。
(実際にその事象が起こっていたのかはわかりません。)

・ レスポンスに時間がかかるようになった
・ 謝る回数が増えた
・ 敬語が増えた
・ 作業時間が遅くなっていった
・ チケットの消化スピードが落ちてる
・ etc...


データの準備

Slackは権限さえあれば、簡単に会話データをダウンロードする事ができます。
ダウンロードされるデータは、各チャンネル毎にフォルダで別れており、その配下に日毎に分割されたjson形式のファイルが格納されています。

参考:Slackのデータエクスポート方法Slackのデータ内容

今回は以下のデータを使用しました。

【使用データ】
・user:ユーザーID, ユーザー名は変更してる可能性があるため
・real_name:名前, ユーザーIDだけでは人が判別できないため
・ts:タイムスタンプ, 発言時間を取得するため(UNIXタイムスタンプ)
・type:データ種別, 発言だけにデータを絞るため
・text:発言内容, 発言内容を解析するため

※ real_nameはuser_profile配下にあります。


上記のデータをpythonを使って整形し、扱いやすいようにpandasのDataFrameに格納して準備完了です。
また、後で変更するのが面倒だったので、格納時にタイムスタンプをDateTimeに変換しています。
(需要あれば、この辺のコードも公開しようと思います。)

スクリーンショット 2021-01-07 23.09.22


実際に確認してみる

今回の記事では、発言量の観点から確認してみます。
当たり前ですが「ネガティブな離職の時はその前に能動性がなくなる」みたいな話があるので、能動性の一つとしてコミュニティーへの参加(発言)として見てみる事にしました。

コメント数

4~6月中旬:全体を通して少ない
7~10月中旬:全体トレンドとしては減少傾向
11~12月:一度ピークを迎えた後に急降下

というのがざっくり読み取れるかと思います。

気になる点を出してみると

コメント数のコピー

・1以前の少なさ
・1の減少
・2の減少
・2~3の減少傾向
・3の底止まり
・3以降の急上昇

でしょうか。


解釈を加えてみる

明らかに急降下している時期があったり、下降トレンドを描いている時期がありますが、これだけで有用な情報と扱うことはできません。
それぞれの時期の状況と照らし合わせて考えてみます。

・1以前の少なさ  → フルタイムでなかった
・1の減少     → プライベートなイベントがあった
・2の減少     → 常に会話できる環境だった(言い合いが発生した)
・2~3の減少傾向 → 気にはしていたが大きな問題意識はなかった
・3の底止まり   → このままではやばいかも?と思い出していた
・3以降の急上昇  → 問題が表面化してリカバリーしようとした

あくまで主観的なラベル付けではありますが、こうやってグラフと一緒に見てみると意味づけはできそうです。
その中で特に問題なのは2~3に当たる9月頃かと思われます。

当時の記憶では、上記のように、9月頃は大きな問題意識はありませんでしたし、離れるという結末を迎えるイメージを正直持っていませんでした。
結果を見るに、表面上は問題なく一緒にやっていましたが、2の時点でのいざこざを完全に修復できておらず、心理的安全性が低い状態で進んで行ってしまったことが一つの原因であったのかもしれません。


Aから見た景色

簡易的な意味付けではありますが、今回の解釈はあくまで雇用側・チームに残る側の景色であり、
チームを離れるという決断をした側が同じ解釈となるとは限りません。

より意味のある振り返りにするため、同じデータを見てもらいました。
以下が大きな要点です。

・ 2の時のいざこざは今思い返しても、それが直接的な原因でしんどくなったイメージはあまりない。

・発言量が10月ごろから減少している事が確認できるが、10月は毎日が必死という状態で、モチベーションは低くなかった。

・一方で、10月下旬にはコーチングサービスを利用してみたりと、変化を求めており、モチベーションも下がっていたのかもしれない。

・10月ごろから独立した行動が多かったかもしれない。共有が減り、他の人に仕事が見えない状況が加速したかもしれない。

10月の途中に大きくモチベーションが下がった可能性を提示してくれたので、今後はこのあたりも含めて見ていきたいと考えています。


離脱は防げたのか

現時点で、発言量を見るだけでは判断ができません。
今回のトレンドはあくまでAさんの個人的な発言量に注目したものであり、全体のトレンドや他要素も見てみないと、誤った理解をする可能性があるためです。

一方で、
 ・ 何らかの兆候を掴める可能性がある
 ・ 次回同じ現象に遭遇した際に気を付ける価値がある
とは言えるのではないかと感じました。

また、チームでの経験によってデータの有用性は変わるのではないかと思います。

メンバーが不本意に離脱した経験のないチームの場合、この結果だけでは危機感を持つにはファクトが弱く、実際に動けるかというと難しいかもしれません。
一方で、一度経験をしている私やLiboraのメンバーであれば、この情報を元に次の危険が迫った際に気づく事ができる可能性は高いのではないかと思います。

不本意な離脱は一度経験すれば二度としないというものではないので、可視化し、振り返り・分析をすることで、より強いチーム・組織になっていけるとは思います。


最後に

本記事では、メンバーの離脱に対して解析→公開に至った経緯と、一つの観点として発言量での推移を可視化してみました。

今後もslackから取れる様々な指標を見てみたり、
Aさん側の意見を元に「10月のモチベーション低下を察知できなかったか?」「原因を特定できないか?」というテーマに取り組み、発信していきたいと思います。

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