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ショートショート「ずっと知りたくてたまらないことがある」

知りたくてたまらないことがある。
子どもの時からずっと試しているのに
どうしても知ることができない。

それは

眠りに落ちる瞬間、だ。

その瞬間を今夜こそ見届けよう!と
通算40年以上、頑張ってきたけれど、

いつもあっさりと朝が来る。

一番意気込んでいたのは、10歳くらいの頃だ。
目をしっかりと開けて、

今夜こそ!と思っている次の瞬間に

朝が来る。

奈央子は知っていた。
ひとりっ子の自分には空想癖があり
眠る前にいろいろな物語の主人公になった。
いつもその途中で記憶が途切れた。

大人になった今でも、それは変わらない。
けれど年を重ねていくうちに何度か、
かなりいい線まで行ったことがある。

うとうと、うとうと

あ!もうすぐだ!
くるっ!と意気込んでいたのに、

あっさりと朝になった。

目覚める瞬間ははっきりわかるのに
どうして眠りに落ちる瞬間を
見つけることができないんだろう。

これだけは誰の助けも借りたくなくて、
一人で奮闘し続けてきたけれど、
こんなに便利な世の中になったのだし

ごくっ

聞いてみようかな、Google先生に。
これはズルなのか、セーフなのか、
長年試行錯誤を繰り返してきたのに、
ここで負けを認めていいのか。

高鳴る心臓を押さえながら、
検索画面に打ち込んでみる。

眠りに落ちる瞬間

すると検索候補が並んだ。

眠りに落ちる瞬間 苦しい
眠りに落ちる瞬間 動悸

えっ

驚いたことに眠りに落ちる瞬間に、
苦しい人がいるようだ。
あっさりと朝になるのは、
もしかしたらとてつもなく幸運なのかも。

さらにもう一つ候補にある。

眠りに落ちる瞬間 怖い

もっと驚いた。
その瞬間が分からなくて、怖い人もいることに。

もしかしなくても、
こんな疑問を30年以上持ち続けていることは
すばらしくありがたいことだと知った。

Google先生は検索する前から
いろんなことを教えてくれるってことか

そう呟きながら、奈央子は検索画面を閉じた。

ことりっと眠りに落ちていく瞬間は
決して認識できないとしても
ずっと幸せな瞬間だった。

辛いことがあって、泣きながらでも、
明日のことが心配で、どきどきしながらでも、

眠りに落ちてしまえば
すべてが夜にぷかぷかと浮かんで
誰のものでもないようなそんな時間が訪れる。

そして、

朝がくる。

勿論真夜中に目が覚めることもある。
それでもその数時間
心と体は解きほぐされていく。

この世界と
夜の向こう側にある世界と

境目にあるのはきっと
通り抜けたことにすら気づかない
透明な空気のドアなんだろう。

1000文字

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2作目。こちらのほうが自然に生まれてきました♡


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