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『ポピュリズムとは何か』から見える日本の危機感

水島治郎著『ポピュリズとは何か』から見える現代のポピュリズム的動向について少し考えてみたい.近年、ポピュリズムの概念が普遍的な理解として広まっている.しかしポピュリズムの認識はいずれも「悪」や「扇動」「独裁」といったデメリットの部分の認識が強いと感じる.

最近急激に支持層を増やしていった「れいわ新選組」や「NHK党」は正にポピュリズム政党に当てはまる.さらに遡っていくと元大阪市長の橋下徹氏が創設した「大阪維新の会」もポピュリズム政党である.

ポピュリズムに対する人々の視線が冷たい理由には、ポピュリズム政党による発言が炎上する問題や極端な主義主張によって他方から見ると排外主義的に見えてしまうことなどが挙げられる.

しかし、この問題は日本だけではなく、アメリカの大統領選で予想外の当選を果たしたトランプ前大統領やBREXITを進めたイギリス独立党など世界各地でポピュリズム政党による政治が進められている.

歴史を辿るとフランスの国民戦線やベルギーのVB(フラームスブロック)など歴史的に長い期間で躍進を遂げる政党も存在する.

これらに共通する主張とは何か.そして日本におけるポピュリズムの危険性などに触れてみたい.


ポピュリズムはマジョリティーを動かしマイノリティを倒す

まず、ポピュリズム政党が誕生する理由の一つとして産業の空洞化やエリート層による政治運営が挙げられる.政治エリートや高学歴層が国を運営する市場では効率的で一定の利益が見込めるが、現場で働く作業員や普通の人々は見捨てられてしまう.そういったマジョリティーサイドの人間の先頭に立ちマイノリティのエリート層を批判する.これがポピュリズム政党のできる要因の一つだと考えられている.

そのため、マニュフェストの多くは規制政党の目指す目標の逆立場をとっていることが多い.例えば1980年代から90年代にかけて活動したポピュリズム政党の多くが福祉国家への批判を行なっていた.この時代は正に世界がグローバル化に向かって突き進んでいた時代であり、国内に気を配る規制政党を批判し福祉排外的主張を行なった.

このようにエリート層を批判するのがポピュリズム政党の大きな役割と考えられる.しかしここには大きな問題があり、ポピュリズム政党は常に「エリート層→批判」の構造で成り立っているため、マニュフェストや主張が弱いことが多い.

先ほど例に出した福祉排外主義的な主張は現代に近づいていくうちに廃れて行き、今では福祉国家を目出せと規制政党を批判している.その一例がイギリス独立党の掲げるEU離脱である.

イギリス独立党の支持者の多くが中高年であり、国への帰属意識が高い人々であった.逆にBREXITに関して批判的だったのがエリート層であり大学を卒業している人々であった.一方、低学歴層の7割がEU離脱の賛成を行なっており、エリート層とその他の人々の間に大きな壁があることを理解することができる.

このEU離脱の目的としてポピュリズム政党にはイギリスの主権を取り戻す思惑があった.EU内で拡大する格差の穴埋めや難民などの移住者による犯罪件数の上昇、文化的相違による対峙などグローバル化するにつれてイギリスの培ってきた文化や思想は蔑ろにされようとしていた.

そこでイギリスは再び主権をとり戻し、イギリス人のためのイギリス国家を作ろうとした.

それに賛同するのが「社会から忘れられた人たち」だった.彼らはイギリスのグローバル化によって不幸になった人たちだった.安い労働者が流入し、関税のかからないEU内での激化競争に敗れEUに対する不満は積もっていった.しかし世界中がグローバル化する中で反グローバル思想、ナショナリズムに近い主張をする政党はいなかったのだ.こうして彼らは忘れられた人々(サイレントマジョリティー)として社会の陰に隠れていた.

このようなイギリス独立党の掲げるポピュリズムとイギリスのグローバル化によって忘れられた人々(サイレントマジョリティー)の考える敵が一致することによってポピュリズム政党は支持を拡大していくことに成功した.

宗教の弾圧

このポピュリズム政党の考える問題の一つがグローバル化による自国民の帰属意識の希薄化である.

実際にオランダのフォルタイン党の創設者であるピム・フォルタイン氏はイスラム批判を繰り返したことで有名になった.

その内容としてイスラム教の考える人権や男尊女卑への批判、同性愛などの禁止から見える文化の交信的要素からの批判を行った.決して人種差別、民族差別ではなく、西洋的価値観、啓蒙主義の理念による普遍的価値観を称賛した上での批判である.

フォルタイン氏自らが同性愛だと公表している面もあるかもしれないが、こういった文化的背景を考え批判するポピュリズムは少なくない.

しかし、宗教批判によって事件が勃発しているのも事実である.

その例としてデンマークのデンマーク国民党が挙げられる.デンマーク国民党もまた宗教批判で有名な党だが、2005年の新聞社によるイスラムの預言者ムハンマドの風刺画漫画の掲載による事件でさらに支持を広めた.この問題を加熱させるかのようにドイツも風刺画を転載した.

宗教批判が加熱する中で、ムハンマドの風刺画漫画がイスラム教徒を激怒させた.イスラム教徒の多い、パキスタンでは不買運動が起こされ、各国の大使館前でデモが起こるなどの問題が起きた.

この問題がさらに加熱していくとイスラム主義を掲げる「アルカイダ」は風刺画問題を取り上げ、デンマークへの攻撃を呼びかた.2008年にパキスタン首都イスラマバードのデンマーク大使館を標的とした自爆テロが引き起こされた.

こういった自爆テロなどによる死者は130人にも上ると言われている.宗教批判によって引き起こされた最悪の事態である.

メディアを使うポピュリズム政党

今までに存在したポピュリズム政党の多くがメディを上手に使うことによって支持層を厚くしてきた.特にポピュリズム政党の悲劇に考えられる「国民社会主義ドイツ労働者党」の総統であったヒトラーの最初は小さな町の議会から始まっている.

他にも多くの党の総統は本当に小さな機会からスタートをしている.中にはグリストロップ(デンマーク進歩党の創設者)のような元税務専門弁護士から政界に進出しているポピュリストも多い.アメリカのトランプ元大統領もホテル王としての名前を持ちながら専門外の政治家を目指した.

日本でも大阪維新の会の創設者である橋本徹氏は弁護士から政界進出を果たしている.

こういった元々は普通の一般市民が政界に進出するのは簡単なことではない.そこで使われるのがメディアである.先ほどイスラム批判で紹介したフォルタインはタブー発言により度々メディアから取り上げられ、橋本元市長も度重なるタブー発言で議論されていた.

中には犯罪行為を行うことで支持を集めた政治家もいる.それがアメリカ元大統領のトランプ氏なのだが、同氏はSNSにおけるユーザーデータを不正に買収し支持を集めたプライバシー事件も引き起こされ、ポピュリズム政党の行う一線を超えた行動が問題視される.

現代のポピュリズム

ここまでポピュリズムに関する問題点と概要を見てきた.その点を踏まえて現代のポピュリズム政党を考えてみたいと思う.

先ほど例に出したトランプ氏はポピュリズム政党の象徴だ.トランプ氏の主張はアメリカの人々の心を掴み、大統領選で敗退すると思われていた予測を覆しサイレントマジョリティを自分の票に変えた.

トランプ氏の演説に「アメリカを再び偉大に」という言葉を何度か起用することがある.この再び偉大にというのはアメリカの20世紀を支えてきた「ラストベルト」と呼ばれる旧工業地帯の人々に向けて言っている.

現在のラストベルトは21世紀の産業の空洞化によって治安が悪化し錆び(rust)ついてしまった.この土地を再び偉大な工業地帯にし、アメリカ国内の産業を活発化させようというのが狙いだった.実際にラストベルトの人々はトランプ氏を支持し見事、第45代目アメリカ合衆国大統領に当選した.

この事態に対し、人類学者のエマニュエル・トッド氏は「虐待されたプロレタリアの復讐」と述べた.プロレタリアというのは資本主義社会の賃金労働者を指す言葉で雇用者に搾取される存在(無産階級)を指している.プロレタリアというドイツ語を用いたのはトランプ氏がドイツ系アメリカ人だという揶揄的意味もあるかもしれない.

アメリカのポピュリズムは20世紀を象徴した産業が21世紀に入りグローバル化によって空洞化された問題を再び埋め直し20世紀の構造を取り戻そうという印象を受ける.ノスタルジーへの回帰を求めているのかもしれない.

では日本ではどうだろうか.近年急激にポピュリズム政党が増えた印象を受ける人は少なくないはずだ.

大阪維新の会が21世紀に出現し、創設者が辞任してもなお近畿地方で大きな力を持っている.他にも「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党(現みんなでつくる党)」など若者や中高年層を中心に支持を伸ばしている政党がある.

これらの政党が行うパフォーマンスには有権者の心を惹きつける演説や思いがあり、票に変わっていく.構造は20世紀のヨーロッパ社会のポピュリズムとはほとんど変わらない.

唯一違うのは21世紀にインターネット社会が確立されたことだ.1982年のマッキンゼーの予測に2000年代の携帯電話の市場規模というものがあった.当初は90万台と算出されていたが、実際には軽く1億台を超え2006年のiPhoneの登場により市場はさらに加熱していった.

この予測できなかった社会が政治にも影響を与え、多くの政党が行なっているのはSNSマーケティングをはじめとするインターネット社会にいる人間に向けたパフォーマンスである.演説が狭い空間の完結だったのに対し、SNSによる多方向発信は半永久的なデータ保存と拡散によって支持層を厚くすることに成功した.

そしてポピュリズム政党は創設者が存在しなくても強い力を持ち続けるのが特徴でもある.先ほどの例に大阪維新の会を出したが創設者である橋本徹氏は大阪都市構想における投票に敗北し責任をとって辞任をしているが、未だ大阪を中心とする近畿では厚い支持層を作っている.

創設者の弁舌巧みな演説と強いリーダーシップ力を支持した有権者が徐々に創設者の主張に対する意識を持ち、辞任してもなお後任の力によって力を伸ばしていると考えられる.

この例は大阪維新の会だけではなく、フランス国民戦線の「ジャン・マリー・ル・ぺン」デンマーク進歩党の「グリストロップ」やオーストリア自由党の「ハイダー」も同じである.

これらの政治家の目指す“福祉排外主義”“イスラム批判”のノスタルジーへの回帰運動が人々の心を動かし政治家に対する支持ではなくマニュフェストへの支持に変化していく.

ポピュリズムの批判とは(最後に)

近年SNSを中心に支持層を厚くしているポピュリズム政党だが、人々の批判の面が表立っていると感じる.

それによりポピュリズムに対する人々の意識も悪い方向に向いていると思う.しかしポピュリズムというのは本来は人々(サイレントマジョリティ)の声を代弁するために作られている事を理解してほしい.

そして少なからずポピュリズム政党は既存の政党による政治に影響を与えられる可能性もある.イギリスのブレグジットが示したようにポピュリズムによって今後の国の形が大きく変わることもある.

そんなポピュリズム政党は「可能性の政党」と呼べるかもしれない.ここまでをポピュリズムの可能性ということで締めさせてもらう.

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