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《小説》おじいちゃんありがとう【おばあちゃんへの手紙外伝】

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朗読手書き小説としてYouTubeでもお聴きいただけます♪ 寝る前に流し聞きなどいかがでしょうzZ 【あおいろ万華鏡ch】にてお待ちしております🩵 https://youtu…
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記事一覧

おばあちゃんへの手紙 外伝

おばあちゃんへの手紙 外伝

おじいちゃんありがとう セミ編 1

僕はおじいちゃんが大好きだ。

どちらかというと無口で物静かなおじいちゃん。

おじいちゃんは玄関のとなりにある
少し奥ばった部屋の縁側にいつも座っている。

僕が小学校から帰ると、
いつもやさしい目でほほえみ
「おかえり」と言ってくれる。

その静かな「おかえり」はどこか涼しげだった。

夏の暑い日にさわやかな風がそっと吹いて、
チリリンと風鈴が鳴るように。

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おばあちゃんへの手紙 外伝2

おばあちゃんへの手紙 外伝2


おじいちゃんありがとう セミ編2

僕の家は“水元公園”という
大きな大きな公園のすぐそばにある。

埼玉県との境に位置するその公園は、
東京ドーム30個分だと
どこかのテレビ番組が言っていたような気がする。

中川から枝分かれした、
大場川の行き止まりのような形で小合溜が形成され、
その水辺に沿って存在する水元公園は、
コイやフナを狙う釣り人たちもよく訪れる。

現在では釣仙郷とも呼ばれている

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おばあちゃんへの手紙 外伝3

おばあちゃんへの手紙 外伝3

おじいちゃんありがとう セミ編 3

夏休みの真っ只中だった。

その日もいつものように、
おじいちゃんの朝の散歩について行った。

まだ6時になったばかりで、
日中の暑さに比べれば幾分か涼しかった。

雄大なポプラ並木を抜けて
メタセコイアの森に入る。

メタセコイアは高く高く生い茂った木で、
そのてっぺんを見ようとすると、
顔が青空に向かって真上に向いてしまい
首が痛いほどなのだ。

恐竜のい

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おばあちゃんへの手紙 外伝4

おばあちゃんへの手紙 外伝4

おじいちゃんありがとう
南蔵院編

水元公園に沿って小合溜という水の景観が続く。

その反対側、やはり水元公園に沿って土手が続く。

土手の上は
ジョギングや散歩コースが設けられていて、

その道沿いには桜の木がずっと立ち並んでいる。

通称“さくら土手”。

正式には“水元さくら堤”というらしい。

といっても僕は
人がそう呼ぶのを聞いたことがないけど。

みんな“さくら土手”で通じている。

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おばあちゃんへの手紙 外伝5

おばあちゃんへの手紙 外伝5

おじいちゃんありがとう

南蔵院編 2

「なくなった?願いが?」

「そう、願いを手放すことができたんだ」

「どうして願いを手放すと縄をほどくの?」

「勇くんはこのお地蔵様が
かわいそうに見えたんだろう。」

「うん、とってもね。」

「どうしてかわいそうに見えたんだい?」

「痛そうで、苦しそうで、
縄に縛られて身動きが取れないって
悲鳴を上げているように見えたんだ。

まさにみんなのお願

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おばあちゃんへの手紙 外伝6

おばあちゃんへの手紙 外伝6

おじいちゃんありがとう南蔵院編3

おじいちゃんは予想と裏腹に
とても明るくさらっと答えてくれた。

「おばあちゃんだよ。」

「おばあちゃん?」

「うん、おばあちゃんにはまた会いたいなって…。」

「あぁ。」

僕の身体には電流のようなものが走った。

実は先月、
おばあちゃんの三回忌だった。

おじいちゃんは
二年前におばあちゃんを亡くしている。

おじいちゃんが
おばあちゃんをとっても大切

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おばあちゃんへの手紙 外伝7

おばあちゃんへの手紙 外伝7

おじいちゃんありがとう南蔵院編4

振り返って見下ろせば、

青々とした芝生が太陽の光を受けて綺麗だった。

生き生きとしていた。

その向こうには
白い砂利が波模様に敷き詰められている。

良く整えられていて美しい。

五段の石階段を降りて
左手に行くと藤棚があり、

その下にベンチが二つ。

そのうち一つにおじいちゃんと二人で腰掛けた。

「ふぅー」

と、おじいちゃんは大きく息を吐きながら

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おばあちゃんへの手紙 外伝8

おばあちゃんへの手紙 外伝8

おじいちゃんありがとう
雪編1

「おっ、これは積もりそうだな」

縁側から外を眺めたおじいちゃんが、
白い息を吐きながらそう呟いた。

真っ暗な夜空から白いぼた雪が、
フワフワと音もなく舞い降りてきている。

地面に次々と着地しながら、
家の前の庭をうっすらと、
白く染め始めていた。

部屋の窓からもれた明かりで
照らされたところだけ、キラキラしている。

「明日の散歩は長靴を用意しておこう。」

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おばあちゃんへの手紙 外伝9

おばあちゃんへの手紙 外伝9

おじいちゃんありがとう雪編2
「勇一、おはよう。」

その声は降り積もった雪が音を吸収するせいか、
一切の雑味がなく、ストレートに
最短距離で僕の耳に飛び込んできた。

まるで、
すぐ隣で耳元に話しかけられたみたいに。

でも、おじいちゃんはすでに
庭で長靴を履いて立っていた。

「おじいちゃん、おはよう。今行くね。」

僕は急いで着替えて長靴を履いた。

滑って転ばないよう、
上から雪を押さえつ

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おばあちゃんへの手紙 外伝10

おばあちゃんへの手紙 外伝10

おじいちゃんありがとう雪編3
「おじちゃん、
今、時間を忘れて
この雪の世界とひとつになっていたでしょ。」

「ああ、勇くんもかい。」

「うん。
おじいちゃんともひとつになってたのかな。

だってここに
僕もおじいちゃんもいなかった感じがしたよ。
ていうことは、
二人ともひとつの世界だった、
てことじゃない?」

おじいちゃんは嬉しそうに笑った。

「静寂と沈黙が、
”ひとつになる”ことのカギだ

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おばあちゃんへの手紙 外伝11

おばあちゃんへの手紙 外伝11

おじいちゃんありがとう大空襲編1

僕が四年生から五年生になろうとしていた
春休みのことだった。

おじいちゃんは季節の変わり目に体調を崩した。

もう一週間も布団で横になったままだ。

毎日枕元に行っては様子を伺う。

すやすや寝息を立てている時もあれば、
苦しそうに口で呼吸をしている時もある。

調子の良い時には
起き上がっておかゆをすすっている時もある。

反対に食事をとらないで寝たままの時

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おばあちゃんへの手紙 外伝12

おばあちゃんへの手紙 外伝12

おじいちゃんありがとう大空襲編2
 「おじいちゃんは奇跡的に助かった、
ていうのはどういうこと?」

 「根こそぎ街を焼き尽くすような空襲だったからね。」
おじいちゃんは
最初少しでも家財道具を持って逃げようと
父親は荷造りをしていて
母親に先に防空壕に逃げていなさい
と言っていたんだ。

それでそのとき
9歳だったおじいちゃんと
7歳だった弟と手を繋ぎ、
母親は当時まだ赤ん坊だった妹をおぶって

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おばあちゃんへの手紙 外伝13

おばあちゃんへの手紙 外伝13

おじいちゃんありがとう大空襲編3
そう言って僕は言葉に詰まった。

もし、その日の9歳の男の子の
小さな勇気と冷静さがなかったら。

恐ろしく強大な炎とともに一つになって
友達になり、そこに寄り添う暗闇を
味方にする賢さがなかったら。

きっと僕はここに生まれていなかった。
今の僕はいなかった。

 「ありがとう…。」

ようやくその一言が言えた時、

おじいちゃんは話し疲れてしまったのか、
既に

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おじいちゃんありがとう

おじいちゃんありがとう

あとがき

小学生の少年勇一は、

生粋のおじいちゃん子だ。

友達と流行りの遊びをしてはしゃぐことよりも、

日々を物静かに過ごし、
淡々と生活をくりかえす
おじいちゃんのそばにいることの方が、

何よりの喜びだった。

そんなおじいちゃんとの思い出を巡りながら、

勇一の心がじわじわと広がり、
成長していく様子が描かれている。

第一章では、

夏の水元公園の森の中、
セミの幼虫の羽化と出会う

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