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おばあちゃんへの手紙 外伝10

おじいちゃんありがとう

雪編3


「おじちゃん、
今、時間を忘れて
この雪の世界とひとつになっていたでしょ。」


「ああ、勇くんもかい。」

「うん。
おじいちゃんともひとつになってたのかな。

だってここに
僕もおじいちゃんもいなかった感じがしたよ。
ていうことは、
二人ともひとつの世界だった、
てことじゃない?」


おじいちゃんは嬉しそうに笑った。

「静寂と沈黙が、
”ひとつになる”ことのカギだよ。」


「ひとつのことに夢中になっている時って、
なんかとっても幸せだね。

身体の力が抜けていくっていうか、
身体を感じないでいられるから
軽い感じっていうか。心がホワッとしてくる。」


「勇くんもだいぶ
時間のない世界に入るのが
上手になってきたね。」


「うん、
なんかひとつになる世界って大好きだなぁ。
そこにある今しかなくなるから、

僕の中にある
嫌な事とか辛い事がみんな消えてて、
ずっとその世界にいられればいいのに、
て思う。」


「うん、そうだね。
でも、もしずっと夢中の世界にいたら、
それが幸せな事だと気付けたかな。」

「えっ。」

僕は少し想像してみた。

そう言われてみれば、
嫌な事が忘れられている事も、
フワッとして気持ちの良い感じも

みんな時間の世界に戻ってから、

今そう感じたなと確かめて
わかったことばかりだった。


「勇くんいいかい。
ひとつになることが正しくて、
別々に感じていることが
悪いというのではないんだよ。

そもそも良いとか悪いとかは
人間が勝手に作った基準で、

仏様の世界にはそんなものさしはないんだ。

ひとつに感じることができるから、
別々であることが愛しくて大切に思えるし、
別々に感じることができるから、
ひとつになることが嬉しいんだよ。

時間のない世界をしっかりと持っているから、
時間の限られた世界を
大切にしようと思えるんだ。」


なるほど、そうか。

この雪の世界とおじいちゃんと僕は
別々でいいんだ。そのまんまでいいんだ。

だからひとつになる喜びを感じることができる。

お互いを認め合うことができる。

みんな違ってそれでいいと思うことができる。

違うからこそ、ひとつになる喜びがあるんだ。


思えば、
僕は何でもかんでも
好きとか嫌いに分けているような気がする。

そして、好きな事や物が
いつもそばにあることを願っている。


でも、もし本当に
好きなものだけの世界にずっといられたら、
それが好きだって事に、
幸せだって事に、
気づけるのだろうか。

嫌いなものを経験するから、
好きがもっと好きになる。


僕はもう一度雪景色を眺め、
大きく深呼吸をした。

フワッと開いた心のスペースが、
この白銀の世界を受け入れている。

僕は今、この雪たちが好きだ。


でも、昨日の夜、
お父さんとお母さんは、
雪が降ると困ると二人で悩んでいた。

通勤や買い物が大変なのだそうだ。


同じ雪なのに、
好きと思う人もいれば、嫌だと思う人もいる。

ということは、
どうやら雪自身に良いも悪いもないようだ。


それぞれ、
みんなの心が決めていて、
心にそれを受け入れられるスペースがあれば
きっと、そのことがあってもいいと思える。

どうやら心の余白は
人生を豊かに生きるのに、
必要かつ大切みたいだ。

そしてその余白は
常に自分で広げていかないと、
すぐパンパンになってしまう。

「肩の力を抜いて、深呼吸をして、
そうすれば心の力も抜けて、
何でも受け入れられるようになる。
心と身体も、別々だけどひとつなんだ。」


おじいちゃんのくれた
ヒントのおかげでわかってきた。


別々なものが協力しあってひとつになる。
そんな喜びがこの世界にはある、そう確信した。

そのあと、
おじいちゃんと一心不乱に雪だるまを作った。

完成した雪だるまは不格好だったけど、
良く出来たところもたくさんあって、

好きと嫌いが
いっぱい散りばめられたその作品は、

誰がなんと言おうと、

僕とおじいちゃんの
心のスペースにすっぽり受け入れられた

最高傑作だった。

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