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おばあちゃんへの手紙 外伝6

おじいちゃんありがとう

南蔵院編3


おじいちゃんは予想と裏腹に
とても明るくさらっと答えてくれた。


「おばあちゃんだよ。」

「おばあちゃん?」

「うん、おばあちゃんにはまた会いたいなって…。」

「あぁ。」



僕の身体には電流のようなものが走った。




実は先月、
おばあちゃんの三回忌だった。

おじいちゃんは
二年前におばあちゃんを亡くしている。

おじいちゃんが
おばあちゃんをとっても大切に思っていたことは、
僕のような子供の目から見てもよくわかった。

いつも二人は仲良しだった。



「おじいちゃん、悲しい?」


当時の僕は
どうしようもない質問を
してしまった事を覚えている。


何か声をかけてあげたかった、
という子供心があったとはいえ。


おじいちゃんは淡々と答えてくれた。

「大丈夫だよ。
人は必ず死ぬのだから。
春の次に夏が来て、
夏の次に秋、冬と続くようにね。」と。


だから、僕はてっきり

おじいちゃんが悲しみを
すでに乗り越えているんだ

とばかり思っていた。


でも、そんなはずはなかった。

だってそうだよね、
あんなに仲良しだったんだから…。



おばあちゃんは死ぬ間際まで
おじいちゃんの健康を気にかけていた。

そして二人は、
ありがとうって、
いつも伝え合っていた。


おじいちゃんの中で、

おばあちゃんともう一度会いたい、
もう一度話がしたい、

いや、夢の中ででもいいから
おばあちゃんとまた平凡な日常を送りたい、

そう願っていたって、
ちっとも不思議なことじゃなかった。


「あれ、でも待てよ」

不意に疑問の湧いた僕は、
おじいちゃんに尋ねてみた。

「じゃあ、おじいちゃんは
おばあちゃんともう会いたいと思わなくなったの?」




「いいや、会いたいよ。


でも願っても叶わない事だろう。

たとえ、願っても叶わない事でも、願いは願い。

願った以上、この縄で自分の心は縛られる。

このしばられ地蔵のようにね。



この願いを手放すのには
おじいちゃんも時間がかかったなぁ。

いいや、本当の意味で
この願いを手放すことなんて
出来ないのかもしれないなぁ…。

それでも一つ、コツを見つけたんだ。」

「コツ?」



「うん。

願いの縄を心に縛りつけなければいいんだよ。

つまり、

その願いが叶っても叶わなくても気にしない、
結果はどうでもいい、

そう思うんだ。

ただ、願っただけ。

結果を求めなければ、
しばられ地蔵にはならなくてすむんだ。」

「結果を求めない…。」

「そう、

お地蔵様にお参りに来て、
手を合わせて報告だけすればいいんだ。

私は今もおばあちゃんと会いたい
と思ってますよって。

また会いたいと思うほど、
おばあちゃんに感謝しているんですよって。

これは立派な報告だもん、
縄を縛る必要はないだろう。


それならきっと

お地蔵様もリラックスして
話を聞いてくれるんじゃないかな。


だから、
おじいちゃんの心の中のしばられ地蔵さんは、
とってもスマートでリラックスしていて
鼻歌を歌っているよ。」


ふと、

縄が一つもない裸のお地蔵様を想像してみた。


飛び跳ねながら
大きく深呼吸して
本当に歌でも歌っていそうな気がした。


「勇くん、あっちで座って休憩しようか。」

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