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お礼・あとがき・裏話 【葬舞師と星の声を聴く楽師】

2022年2月25日に告知、3月4日より連載を開始した長編小説『葬舞師と星の声を聴く楽師』が無事にハッピーエンド(?)で完結しました〜!!

連載期間5ヶ月弱。全4章全47話、18万字の長編を書けるとは思ってもいませんでした。

つまみ食いしてくれた方、途中で飽きてしまった方、タップしてそっと閉じた方、全ての読者に本気で感謝しております
……が、やはり最初から最後まで通してお付き合いくださった皆さまに一番感謝を伝えたいです。

重ね重ね御礼申し上げますm(_ _)m

サポート・オススメを下さった悠凛さん足袋猫さん吉田翠さん、そして各話にスキと温かいコメントをくださった皆さま、本当にありがとうございました!

というわけで恒例の裏話タイム。だらだら書きます。もちろんネタバレしかありません。

本作の世界は3つのインスピレーションから流れ出てきました。それらひとつひとつが主要登場人物の原型になっています。

まずエル・ハーヴィド。主役ではない彼が物語のすべての始まりです。そのインスピレーションは【焚き火の傍で星を眺めながら撥弦楽器を弾く男】でした。そこに、汚名を着せられ追放された宮廷楽師、呪術を用いた疑惑、といった設定が後から追加されました。
そして【この遺恨を子孫たちが解消する】というストーリーを本作のメインテーマに据え置くことに決めました。エル・ハーヴィドの日記に大きく紙面を割いたのは、ある意味で彼が〈真の主役〉だったからです。

2つ目のインスピレーションは【敵国に連行されながらも伝統を守り続ける女舞師集団】で、ここから生まれた人物がラファーニです。
東南アジア史に詳しい方はお気づきかもしれませんが、これはカンボジアの宮廷舞踊アプサラダンスをモティーフにしています。アンコール朝がアユタヤ朝に滅ぼされた際、9万人もの宮廷舞踊家・宮廷楽師が捕虜とされ、このダンスは滅亡の危機に陥りました。しかしその後、アユタヤ朝の文化と混ざり合いながら生き続け、各時代の危機も乗り越え、現代でもなお受け継がれ保護されています。

ですので、作中で消息不明となったラファーニ達は〈西の国で強かに生きていく〉という未来を想定して書きました。作者の勝手な希望ですが〈ラファーニは敵国の暴君に見そめられるが全くなびかず、君主の方が心を改めていく〉という後日談を妄想しています。実際の歴史はそんな楽観的なものではなかったでしょうが、アプサラダンスの担い手の中にラファーニのような強い女性がいたかもしれない、と歴史の見えない部分に思いを馳せたのです。

そして3つ目のインスピレーションが【隕石の上で葬送の舞を手向ける美形男舞師】です。ここでようやく主役アシュディンが登場。
これは何の脈絡もなく浮かんできた映像でした。そのまま抒情詩の一編でも書いて解放しても良かったのですが、その光景があまりに美しく儚いものだったので、手間ひまかけて大きな作品にしたくなったのです。どうせならその青年をお膳立てする最高の叙事詩を書いてやろう!と思い立ったところで本作主役に大抜擢。

アシュディンについてはストーリーはそこそこでいいので、とりあえず最後に舞っておけ!と思って書いていました。
基本姿勢として僕は〈成長物語には懐疑的〉です。何かを達成したい超克したいそのために強くなりたい、というのはドラマティックですし、重要な物語の鋳型ではありますが、そんな作品は世に溢れていますし、何より現実そのものが成長物語の要素が強い。小説の中くらいは成功や成長を忘れようというスタンスで書いています。
そんな僕が描くアシュディン。天才に凡人のような成長物語は要らない、ただ勝手気ままに舞って優勝しておけ!というのが彼の主役としての在り方かと思いました。
無垢(阿保)な彼のおかげで他のキャラクターがむちゃくちゃ立ってくれたので、今ではこうして良かったと思っています。

アシュディンのおかげで立ったキャラの筆頭が、もうひとりの主役ハーヴィドです。ロマンスを書くなら誰かが〈愛〉で変化しなきゃならない。その白羽の矢が当たったのが彼ということです。
【エル・ハーヴィドの子孫で、強面で寡黙な楽師】。そんな彼がどんどん崩れていく様を描くのは非常に楽しかったです。2章の後半あたりから♡アシュディン好き好きオーラ♡が出まくりで、4章ではたぶん彼の脳みそ溶けています。
本作の見せ場でもある、舞踏団帰還の際に吠える場面(33話)、隕石群襲来からアシュディンを守る場面(46話)。このふたつはアシュディンへの強い想いがないと成り立ちません。
エル・ハーヴィドは愛を貫いたけれど、ハーヴィドは愛によって変わっていった、ということです。

さて、超絶ワガママ・プリンス(浮気症)のアシュディンを何とかハーヴィドに振り向かせなきゃ!という意図で生まれたのが、ダルワナール・カースィム・ワーグラムの当て馬3人衆。
彼らが物語をひっちゃかめっちゃかに掻き回している間に、アシュとヴィドの愛を育てようという作戦でした。笑
アシュディンがワーグラムに復縁を押し切られそうになる場面がありましたが、プロットにはなかったもので、いわゆる〈作中で登場人物が勝手に動き出した〉パターンでした。当初の予定はBLの正攻法、ワーグラムの誘いをアシュディンが断ってヴィドとのラブシーンに突入する、だったと思います。
「え、ハーヴィドと付き合ってるのになぜ!?」と思った方もおられたかもしれませんが、アシュディンだったらあそこは絶対に押し切られそうになるよなと思い、読者の反応を想像してびくびくしながら書きました。実際にはワーグラムも〈西の国の包囲が始まる前に、最後に一発ヤッとけ〉みたいな感覚だったのでおあいこだと思います。アシュディンにはあまり強い自我を貼り付けなかったので、その場の雰囲気に流されやすい主役に仕上りました。彼が正統にならなくて本当に良かったと思います。笑

〈エル・ハーヴィドの旅〜ディ・シュアンの占断〜隕石群襲来〉が本作のメインテーマで、〈西の国の侵略〜ワーグラムの裏切り〜ラファーニの抵抗〉がサブテーマ。
そう考えると本来主役であるはずのヴィド×アシュの要素は意外と少なく、BLと銘打つのも少し憚られました。でもそこは後からの挿話でいくらでも埋めようがあると思い、いくつか用意した恋愛シーンはだいぶカットしました。noteという媒体に相応しくないかもしれないので、公開するかどうかは未定です。笑
そして結局自分は群像劇を書きたいんだなと再認識しました。

描いててもっとも楽しかったのは、やはりハーヴィドの変化、冷酷なふりをするラファーニ、カースィムのダメダメっぷり辺りですかね。青年アシュディンの懊悩なんかはジャンル問わずどの小説にもあるので、特に思い入れもなくサラッと書いた次第です。
お気に入りの場面は、皇帝陛下が降伏前にお忍びでやってくるところ(43話)と、詐欺を知ったカースィムが酔ってアシュディンに絡むところ(21話)。いい年の男が打ちひしがれているところっていいですよね。笑
逆に女性の弱いところを一切描かなかったのは不自然だった気もします。ダルワナールもラファーニも強すぎました。それもBLあるあるな気もしますが、今後の課題にしたいと思います。

一番苦労したのは〈西の国〉の描写です。武器や軍機の知識は皆無で、戦争史にもほとんど興味を持ってこなかったので、調査も一苦労でした。しかもなけなしの調査も全然作品に生かされずペラッペラな侵略になりましたm(_ _)m 
西の国が〈特定の名を名乗らない〉のは〈名前の要らない普遍的原理〉のメタファーで、普遍的法則の人間存在に対する暴力性を示したかった。その流れで、被侵略国の信奉する精霊の名を語って絵踏みさせるというのも〈名前などという不確かな後付けなんて捨てて、早くこちらにいらっしゃい〉という暗喩です。
読者に勘違いしてほしくない点がひとつだけあります。隕石群の襲来は西の国への〈天誅〉ではありません。168年前から決まっていたのですから、たまたまのことです。

次に苦労したのは舞踊のシーン。この作品での舞踊は〈水戸黄門の印籠〉〈アンパンマンのアンパンチ〉的なところがあります。それはもう大変でした。たくさんの舞踊動画を参考にしながら書きましたが、叙述だけでなく詩的表現も必要になってきますし、どうしたら効果的に読者に映像と詩情の両方を喚起できるか、執筆期間中ずっと四苦八苦していました。

その中でまあまあうまく描けたのは、1話の葬舞と24,25話の《不帰の輪を統べる舞》だと思います。逆にほとほと困り果てたのは《星天陣の舞》です。執筆を最後の最後まで残していましたし、最後の最後まで推敲しました。2時間の舞をダラダラと描いても仕方ないし、そんな伝説の〈紅天女〉みたいな舞台を描き切れる自信もない。そこで逃げの一手ではないですが、市街での勤労感謝祭のダンスと交互にすることで、時間経過と余白を作ることにしました。いや、これはやっぱり逃げの一手でしたね←

老師団は物語後半のナビの役割。無機質なキャラにするのは可哀想かな思い、ジールカイン老師長にはちょっとした〈かわいらしさ〉を与えてみました。歴史好きとか、「〜かの」という口癖とかですね。
実はナドゥア老師を殺すつもりはありませんでした。当初の予定では、離散宣告の後、モブの老師が生き倒れて山中の葬儀に突入するという流れだったのです。ただ、名前のある人物の死の方が絶望感が大きいと思い、彼を利用しない手はない!と僕の頭の中で悪魔が囁きました。ナドゥア老師、本当にごめんなさいm(_ _)m

そして最後に、大問題のハーヴィドが義足になった最終場面。これは執筆を終える最後の最後まで迷いました。生き残ることは決まってたのですが、その後のことは色んなパターンで考えました。〈怪我なく生還しラウダナに帰る〉〈離散メンバーを探す旅に出る〉〈腿の付け根からなくなって完全に松葉杖歩行になる〉〈腕がなくなって楽器を弾けなくなる〉etc.  

最終判断の決め手となったのは、ヴィド×アシュの愛も旅も、新しい舞楽の伝統もまだ始まったばかりだということ。そして、アシュは左脚に、ヴィドは右脚に傷を負ったことで災禍の痛みを分け合ったふたりの絆を仄めかしてみました。「唐突に義足を探す旅!?」と思われた方もいたかと思いますが、機会があれば続編も書けたらいいなと考えた上での采配です。期待しないでお待ちください。

というわけで本当にラストです。

皆さま、5ヶ月もの長い期間のお付き合い
まことにありがとうございましたm(_ _)m
また次回作で会いましょう!

2022731
矢口れんと 拝

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