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闘症旅日記「キーマカレーへの果てしなき道のり」

普段はあまり書かないテーマで
(これはエッセイです)

僕の大好きな食べ物に「キーマカレー」がある。店で食べるのも好きだし、自宅でも作る。自分で作る場合は、カボチャを皮ごとドロドロになるまで煮て、リンゴジャムを加える。
そのキーマカレーをアイスコーヒーと共に食べるのが至福の時間なんだ。

しかし、、、

僕は10歳くらいから過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)に悩まされてきた。日本での有病率は10-15%程度と推定されているありふれた症候群だが、軽症から重症までさまざあって一括りにはできない。旅行に行ったときだけ便秘する、試験前にだけ下痢をする、といった人たちは申し訳ないが軽症に分類されるだろうし、そもそも診断基準を満たさないかもしれない。自分語りは控えめにするとしても、僕は重症だったと思う。

診断基準は今回の趣旨とは大きく外れるのだが、いちおう記載しておく。

RomeⅢ基準
反復する腹痛、腹部不快感が最近の3か月のうち少なくとも1か月のうち3日以上存在し、しかもそれらの症状が以下の3つのうち2つは存在すること。
(1)症状が排便によって軽快する
(2)症状の発現が排便頻度の変化を伴う
(3)症状の発言が便性状の変化を伴う。
*症状は診断前より少なくとも6か月以前に発現し、少なくとも最近の3か月において診断基準を満たすこと。

簡単に言うと、慢性的(数か月から半年以上)に、ときどきお腹が痛くなったり、便秘や下痢を繰り返し、便の回数・硬さなどが安定しない。という症候群だ。

で、10歳からそんな症状を抱えていると、それが当たり前だと思って生活をしていて(笑)。僕がこの症候群が何らかの「医学的介入」を望んでも良い症状だと知ったのは大学生になってからだった。しかし病院に行ってみても、あまり一生懸命に診てもらえたことはなく、薬も一時的には効果があっても、また効かなくなってしまったり別の問題が出てきてしまう。

その頃にはインターネットも普及していたので、効果がありそうなサプリメントや漢方薬を検索して試してみた。でもどれも一時的な効果でしかなかった。

で、この症状が良くなってきたのはおそらく2年ほど前から。発症から20数年。ここで僕は「自分はこうして良くなりました」経験を書くのだけど「効果には個人差があります」。化粧品会社のCMにある「個人の感想です」を連想させるものだが、効果がなかった人に対する逃げの文句としてではなく、真理として言いたい。治療はやはり「個人差がある」。その理由も含めて書く。

ここからしばらく自分語りと医学的な情報になって読みにくいと思うけれど、ぜひ、もう少し我慢してお付き合い頂きたい。

僕の症状悪化に関する因子を並べてみる
・大食いをすると2〜3日腹部膨満が酷くなる
・小食にすると便が出にくくなる
・香辛料の多い食べ物を取ると3日以上便が出なくなる
・カフェインを一度に70mg以上摂取すると便が出なくなる(缶コーヒーによって違う)
・小麦製品を食べると1日半くらい腹部膨満感と倦怠感
・脂肪の多いものを食べると1〜2日腹部膨満感と放屁
・3杯以上の飲酒をすると翌日下痢をして、その後しばらく便がでなくなる
・強度の高い筋トレや長時間のジョギングをすると腹部膨満感がひどくなり数日続く
・寝不足は腹部症状を全体的に悪化させる
・ストレス状態が長く続くと、寝込まなくてはならないほどの腹痛に襲われる
・気圧や気温の変動が激しいときは何をやってもダメ

20年以上お付き合いしているとこれくらいは。もっと書けるけどこの辺で。笑
で、これらは一般的な過敏性腸症候群に関する書籍やサイトではこういう風に書かれる。

悪化因子:過食、香辛料、カフェイン、グルテン、FODMAP、飲酒、喫煙、過度の運動、ストレス、睡眠不足

そう、これらはたった2〜3行で済むことなのだ。実際にこれらとのお付き合いを少なくすることで軽快してきた部分は大きい。でもここで僕は「患者として」覚える違和感を書いておきたい。

僕の「20数年の症状」はたったの「2行」ですか?と。いやいや、そんなわけないでしょう。だって20年なんですよ?そんな一言で終わらせられたらひとたまりもない。と言うか、悪化因子なんてちゃんと知ってますよ。でもこれらを無くせ減らせって、人間としてフツウの生活をするなってことですか???

誰も知っている通り、生活習慣、食事、嗜好といったものは、一語で表せるものではない。

タバコ ⇒ タバコを吸う ⇒ タバコを10本吸う ⇒ 日曜日はタバコを10本吸う ⇒ 日曜日はタバコを10本吸い平日は5本に抑えている ⇒ 日曜日はタバコを10本吸い平日は5本に抑えている生活を3年続けている

これらが「タバコ」という単語と生活との関係だ。ただ情報は時にこれらをいっしょくたに「タバコ」と表す。

僕の症状が軽快したのは、自分の体との対話を続けたからだ(20数年)。その結論は確かに、一般的な知識(2行)といくぶんも違いのないものかもしれないけれど、その時間をかけずにはおそらく得られなかった。それは自分の生活と2行の情報との間に地図を描くのに、20年以上かかったということだ。そして人によっては、ここで2行の知識との相互関係(確約)が必要ない場合もある。自分の体との対話だけで、健やかに生活できる場合も十分ありうるのだ。

書籍やネットコラムにある医療の言葉には体温がない。それは当然だ。体温のような不確定なものを排除することと科学的妥当性を追求することはパラレルなのだから。情報だって似たようなものだ。その記事は僕だけのために書かれているものではない。北海道の会社員にも、沖縄の主婦にも、東京に住む外国人にも通じるように書かれているのだ。そのような場所に、個々に応じた体温を持ち込むわけにはいかない。

ここで僕が言いたいことは科学批判でも医療批判でもない。「自分の体温を自分で守ろう」ということ。不特定多数に撒き散らされた情報の限界をしっかりと認識して、その冷たさに振り回されないようにするということ。救済や智慧というものは文字やその奥に存在するものではなく、きっと文字と自分の間に自分で生み出すものだ。自分の体と日常と絶えず対話をする先に、はじめて情報や知識が役に立つのだろう。

先ほど「効果には個人差がある」と書いたのはこういうわけだ。僕らは知識や情報の世界を生きているのではなく、体温の世界で生きている。そして、言語化して科学的妥当性を担保することと、それぞれの体温の世界を生きることは、決して交わらない領域を抱えている。それこそが「個人差」なのだ。


再度言う。
大っっ好きな食べ物は「キーマカレー」! お店で食べるお洒落で凝ったものも好きだけど、自宅でも作るんだ。自分で作るときは、カボチャを皮ごとドロッドロになるまで煮て、リンゴジャムを加える。いそいそと。
そのキーマカレーを食べながら、アイスコーヒーの氷が鳴らす音を聞く。至福の時間だ。

でも、香辛料、小麦、脂肪分、カフェイン、、、自分のお腹に悪いものばかりだ。一食それをやったら、最低でも2日は苦しむ。下痢か便秘か、腹部膨満感か放屁か、、、
これはハンディキャップだ。健やかに生活するために、人より手間や労力や我慢を強いられる。好きなものを生活に常備できるひとのことを心から羨ましく思う。

でもどうだろう。「キーマカレーへの旅路」そんなこと考える人はいるだろうか?
キーマカレー島にバカンスに行くために、日々支出を減らし(悪化因子を控える)、コツコツの貯金(腹の調子)を蓄えている。
そうした経緯があって、久々に降り立った島は格別だ。涙が出るほど幸せな時間。たとえその先に数日間の体調不良が待ち構えていたとしても、僕はそういった体温のある時間を捨て去ることはできない。
そして誰の言葉(情報)も、僕にその旅をやめさせることはできない。


*補遺*

東洋医学でも過敏性症候群と対応するような証(体質と症状を総合的に判断するもの)がある。それはおそらく、肝脾不和、気逆、気虚、裏寒などの概念に跨がる。理論の違いによって区分が変わってくることがよく分かる。
だったら、症候群への捉え方は自分の理論で良いのだと思う。その理論は「自分の生活」に基盤を置いたものであってほしい。

あと参考までに、僕が過敏性腸症候群に対してやって良かったこと
・リンゴとモモ
・梅干しを毎食1粒
・筋トレのラットプルダウン
(なんでこれらが効いたのかはよく分からないw)

ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います!