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【La Cabra】 デンマークから黒船バイキング現る。 ニューヨーク、 コーヒー戦国時代の幕開けか。


突然ですが、ちょっと想像してみて下さい。
あなたがこんな場所に足を踏み入れることを。

ドアを開くと、そこに広がるのは北欧のミニマリスティックな空間。
コーヒーと焼きたてパンの芳しい匂いがふわっと鼻腔をくすぐってきて、
揃いのベージュのユニフォームを纏ったスタッフとバリスタが出迎える。
左手にはバリスタが、正面には焼き立てのパンがぞろっと並び、
その奥手に見えるガラス張りの空間では、職人がパンを成形している。
デンマーク製の器に注がれたコーヒーは、透き通った明るいキャラメル色。
しっとり、もっちり食感の、丁寧に作られた北欧スタイルのパン。


コペンハーゲンのカフェの話・・・と思わせて、実はこれニューヨークの話なのです。

ウッドを基調とした無駄のないインテリアに、アクセントのドライフラワーが美しい空間


私は以前、ニューヨークで1番のコーヒー店「SEY」についての記事を書きました。あくまで私の勝手な主観なのであしからずご容赦頂きたいのですが、星の数ほどあるカフェがしのぎを削るこの街でも、トップクラスの豆・空間・サービスを誇るお店はごく僅かだと思っています。

2021年の10月、その土俵の上にデンマークから堂々と斬り込んで来たのが「La Cabra(ラカブラ・西語でヤギの意味)」。デンマークのオーフスに本拠を構えるラカブラは、満を持してアメリカ進出1号店をイーストビレッジにオープンしました。

私は開店3日目に初めて店を訪れましたが、開店と同時に既に数席しかない店内は満席。オープン直後で押し合いへし合い、持ち帰り用の豆は既に完売という大盛況ぶり。この日はドリップを2種類、クロワッサン、ミニパンを頂きましたが、詳細は動画としてYouTubeにあげていますので、こちらもぜひご覧いただけると幸いです。


というわけで、開店以来、瞬く間に人気店になったLa Cabra。ただでさえ高いニューヨーク価格の更に上を行く価格設定でも客足が絶えない人気の理由はズバリ、これまでニューヨークでは割と希少だった本格的な北欧スタイルのコーヒーと、ありそうでなかったカフェベーカリーという形態の店を確立したところにあると私は考えています。

バリスタ「お立ち台」にそびえるエスプレッソマシン
造形的で近未来的なビジュアルが目を引きます
アルネ・ヤコブセンがデザインしたらこんな形になっても不思議ではないかも?!


ニューヨークでは、年がら年中ラテを頼む人の率がやたらと多いような気がします。夏は氷たっぷりのアイスで(というかほぼ氷)、冬はホットで(でもアイスも多いんだな)。もちろんラテも美味しいのですが、コーヒー豆の質によほどこだわりがある人でない限り、ハンドドリップにはあまり需要がないのかもしれません。それ故、前述のSEYなど豆の味をハンドドリップで楽しませてくれる所は限られていました。

そこに待ったをかけてきたのがLa Cabra。ウリは「bright coffees(明るい酸味のコーヒー)」で、ハンドドリップ、エスプレッソ、バッチブリューが主流です(夏はコールドブリューあり)。ハンド&バッチはそれぞれ2〜3種類の豆から好みのものを選べるのもお楽しみ。明るい風味・酸味のあるジューシーなコーヒーが苦手な人には向かないかもしれませんが、とにかくうちの豆を味わってくれ!と言わんばかりのメニューです。

豆の種類にもよりますが、ハンドドリップは一杯約1,000円、1,500円以上のものも。二人でシェアして飲めるサイズ感(400mlくらい)とはいえ、さすがにちょっと天文学的数字。

使用されている器はデンマークのKH Würtzのもの
コペンハーゲンのNOMAでも使用されているブランドです


ニューヨークに北欧スタイルのコーヒーを謳っているお店は他にもありますが、エチオピア、ケニア、コロンビアやエルサルバドルといった産地から仕入れたシングルオリジンの豆がもつそれぞれの特徴を、繊細かつ複雑なアロマと風味をしっかり引き出すローストには脱帽です。コーヒーの美味しさはロースターにかかっている、と言っても過言ではないでしょう。

シングルオリジンのコーヒーはもはや珍しくないですが、産地、収穫・焙煎日があるのは当然として、最近のトレンドでは栽培している農家の名前も情報として出しています。ますますワインのテロワールのような認知のスタイルに近づいてきましたが、これからは産地、生産者、そしてロースターも気にしながら選んでいこうと思います。

品評会で3度受賞歴のあるエルサルバドルのRiveraさんによるナチュラルプロセルの豆
驚愕の一袋250gで3,200円でしたが、衝撃的な美味しさでした


もう一つ、La Cabraがもたらしたのはありそうでなかったカフェ・ベーカリーというスタイル。普通のカフェではクッキーやマフィン、クロワッサンはあるとしても、だいたいは他のベーカリーから卸しているので、店内のキッチンで焼いているところは少ないです。La Cabraでは、質の高いペストリーからずしっと重い本場の北欧パン(ローフ)といった豊富な品揃えを提供するだけのベーカリーを備えているので、完全にカフェの域を超えています。

クロワッサンやカルダモンバンは600円ほど
完成度が高い、無駄のないビジュアル


La Cabraのパンは全て北欧流のサワードウ。以前私がアイスランドやデンマークで食べたパンを思い起こさせるものでした。基本のサワードウは、お餅のようなペッタリモチモチのどしっとしたクラムに、歯切れの良いカリッとしたクラストがたまりません。かなりシャープな酸味がありながらもフルーティーな風味があり、バターがなくてもそのまま食べられる美味しさです。今のところ私の中ではニューヨークで暫定一番のサワードウかもしれません。他にも、グリーンオリーブやナッツの入ったバージョンも頂きましたが、どれも美味しかったです。

もう何度も訪れており、その都度撮った写真が多過ぎるのでまとめました


ペストリー類は、アメリカでは滅多にお目にかかれない、洗練されたデザインと味です。そして季節によって若干メニューが変わるのも嬉しい。削ぎ落とされたデザインはシンプルかつグラフィカルで美しいです。食感も単一的なものはあまりなく、カリッと、もちっと、異なる要素が組み合わさったものが多い印象です。

こちらはペストリー類


コーヒーとパンで生きている私にとって、La Cabraの到来は朗報でした。
ニューヨークになかったものを埋めるかのようなニッチな存在でありながらも、その大き過ぎる反響はお店側にとってもちょっと予想外だったように見受けられます。

他のコーヒー店が陰ってしまいそうなくらいコーヒーもパンも両方完璧すぎるクオリティですが、ひとつ言うとすれば、お店・スタッフの雰囲気が良くも悪くもニュートラル。比較的大規模なオペレーションだし、個人店ではない部分にお店との距離感を感じてしまうところがあるのかと思います。
また、店内が狭い・席数が少ない、お手洗いがないため長居ができないのが玉に瑕ですが、今年の夏頃ソーホーにもっと大きな規模の二店舗目をオープンするという噂があるので、この点はそちらの店舗で改善されるかもしれません。

今後ニューヨークでもニッチなハイクオリティのカフェ需要は高まり、競争は激しさを増す一方でしょう。あまりにも本気で攻めてきた黒船 La Cabraを制すものは、現れるのか・・・でもご心配なく。クオリティの高いカフェはもちろん他にもあります。今後の記事もぜひ楽しみにしていてくださいね。

ちなみに、昨年リスボンとパリに行った際、La Cabraのコーヒー豆が置いてあるお店がどちらの都市にもありました。うちの豆を使ってみてください!と人気のコーヒー店には積極的にアプローチをかけているようです。既にタイのバンコクにも出店しているので、東京進出するのは時間の問題でしょう。

それでは、本日ははこの辺でおいとまいたします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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