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不法外国人就労者をカモにする凶悪犯罪と1949年の映画劇『国境事件』


1942年8月24日、戦時の緊急措置として、アメリカ連合国メヒカノス連合国が「メヒカノス農場労働協定(Mexican Farm Labor Agreement)」を結んだ。

この協定は、メヒカノスから入国する農場労働者に対して、まともな生活環境(衛生設備、適切な住居、食事)と時給30センツの最低賃金を保証すると共に、強制兵役からの保護を保証し、賃金の一部を社会保障に充てることを保証した。

この協定に基づく農業政綱は「肉体労働者政綱(Bracero Program)」と呼ばれた。

1949年1月26日~3月初め、アメリカ連合国のキャリフォーニア国の国境地帯、インペリアル郡(Imperial County)のエル・セントゥロ(El Centro)ほかで、40歳のジョン・C・ヒギンズ(John C. Higgins、1908年4月28日~1995年7月2日)脚本、42歳のアンソニー・マン(Anthony Mann、1906年6月30日~1967年4月29日)監督の映画劇『国境事件』Border Incidentが撮影された。
撮影監督は47歳のジョン・オルトゥン(John Alton、1901年10月5日~1996年6月2日)だ。

1949年10月28日、ロス・アンジェレスのエジプシャン劇場(Egyptian Theatre)を含む3つの映画館で、32歳のヴァン・ジョンソン(Van Johnson、1916年8月25日~2008年12月 12日)主演の映画劇『犯罪現場』Scene of the Crime(95分 。1949年7月28日、ニュー・ヨークで公開)の添え物として映画劇『国境事件』Border Incident(94分)が公開された。

『国境事件』あらすじ(ネタバレ)

アメリカ連合国のレタスとニンジンの農業の盛んなキャリフォーニア国とメヒカノス連合国のバーハ・カリフォルニア国の国境沿いにある全アメリカン運河(All-American Canal)では、「肉体労働者(braceros) 」として知られる何百人ものメヒカノス人の農場労働者が毎日キャリフォーニア国に入るのを待つ。
農場労働者の多くは合法的にアメリカ連合国に入国するが、不法入国する者もいる。

不法就労者の中にはアメリカで稼いで、本国に徒歩で帰る途中、「死の峡谷(Canyon of Death)」で馬に乗って待ち伏せする追いはぎ団に稼ぎを奪われ、短刀で殺され、底なし沼に捨てられる者もいる。

メヒコとアメリカの連邦政府は当局者を派遣して、キャリフォーニア国のキャレクスィコと接する、バーハ・カリフォルニア国のメヒカリの総督宮殿で会談し、解決策について話し合うことにする。

ワシントゥンDCの連邦政府からはダグラス社のDC-3(Douglas DC-3)で、移民帰化局のジョン・マクレノルズ(John McReynolds)副局長とジャック・バーンズ(Jack Bearnes)捜査官がメヒカリに向かう。

マクレノルズを64歳のハリー・アントゥリム(Harry Antrim、1884年8月27日~1967年1月18日)が演じた。

バーンズを身長180㎝の47歳のジョージ・マーフィ(Gerorge Murphy、1902年7月4日~1992年5月3日)が演じた。

メヒコ側は連邦司法警察の高官ラファル・アルバラード(Raphael Alvarado)大佐と捜査官のパブロ・ロドゥリゲス(Pablo Rodriguez)が両国の共同捜査に参加する。
ロドゥリゲスは2年前、アメリカ連合国のテクサス国でバーンズと共同捜査をしたことがある。

アルバラードを64歳のマルティ・ギャララガ(Martí Garralaga、1884年11月10日~1981年6月12日)が演じた。

ロドゥリゲスを、身長183㎝の28歳のリカルド・モンタルバン(Ricardo Montalban、1920年11月25日~2009年1月14日)が演じた。

ロドゥリゲスが肉体労働者になりすまし、メヒカリでアメリカ連合国での就労許可証が得られるまで待ちきれないふりをして、密出国の斡旋業者に接触し、潜入捜査するという作戦だ。

バーンズはロドゥリゲスを追ってメヒコ側の関係者を見つけ出し、偽の入国許可証を犯罪の証拠として押さえることになる。
緊急時の連絡先はキャレクスィコの移民帰化局(Immigration and Naturalization Service)局長のニーリー(Neley)だ。

メヒカリの市庁舎前の広場はアメリカでの就労許可証を求める肉体労働者でいっぱいだ。
そこに肉体労働者を装って潜入したロドゥリゲスは、ここに6週間通っているというミチュアカン国のサン・カルロス・コヨテペック(San Carlos Coyotepec)の農民フアン・ガルスィア(Juan Garcia)と知り合う。

ガルスィアを身長178㎝の28歳のジェイムズ・ミッチェル(James Mitchell、1920年2月29日~2010年1月22日)が演じた。

翌日、ロドゥリゲスはガルスィアに教わった斡旋業者に70ペソスを払い、目印の帽子の飾りを受け取り、夜10時にラ・フォルトゥナ(La Fortuna)理髪店の前に行けと言う。
ガルスィアも一緒に行こうとするがロドゥリゲスが止める。

斡旋業者を27歳のトニー・バー(Tony Barr、1921年3月14日~2002年12月19日)が演じた。

ロドゥリゲスはタバコの火を借りる口実で、バーンズと接触し、「今夜、ラ・フォルトゥナ理髪店の前、10時」と伝える。
ガルスィアは妻マリア(Maria)に会いに行く。

その夜、教会で不法出国を企てた後、追いはぎに襲われ片腕を失った男が祈りを捧げている。

片腕を失った男を33歳のポール・マリオン(Paul Marion、1915年9月12日~2011年9月8日)が演じた。

教会にはガルスィアと妻マリアもいる。ガルスィアは彼と一緒に村に戻りたがっているマリアに今夜、アメリカ連合国に合法的に出国すると告げ、子供たちの世話を頼む。

マリアを25歳のテリーサチェッリ(Teresa Celli、1923年6月3日~1999年10月1日)が演じた。

夜10時、ラ・フォルトゥナ理髪店の前で、ガルスィアはロドゥリゲスと会い、一緒にアメリカ連合国に合法的に密出国すると告げる。
クチーヨ(Cuchillo)が、密出国者を案内する。バーンズが尾行する。

クチーヨを44歳のアルフォンソ・ベドヤ(Alfonso Bedoya、1904年4月16日~1957年12月15日)が演じた。

ロスィータ(Rosita)が農民たちの手のひらを触って調べ、手のひらの柔らかいロドゥリゲスが農業労働者でないことを見抜き、そのことをクチーヨに教える。

ロスィータを25歳のリータ・バロン(Lita Baron、1923年8月11日~2015年12月16日)が演じた。

連れて行かれる農民の後をバーンズが尾行する。それを見たロスィータはフリッツ(Fritz)に、バーンズを尾行しろと命じる。尾行に気づいたバーンズは待ち伏せして、フリッツを殴り倒す。

フリッツを47歳のオトー・ウォルディス(Otto Waldis、1901年5月20日~1974年3月25日)が演じた。

農民たちはフーゴ・ヴォルフガン・ウルリヒ(Hugo Wolfgang Ulrich)の店「黄金の真珠(La Perla de Oro)」の並びの建物に連れていかれる。バーンズもその近くまで来る。
ロドゥリゲスだけがクチーヨポコロコ(Pocoloco)に「黄金の真珠」に連れ込まれる。

ポコロコを40歳のホセ・トルバイ(José Torvay、1909年1月28日~1973年9月26日)が演じた。

ソピロテ(Zopilote)が農民たちから70ペソスずつ徴収する。ソピロテは表のトラックの運転手クレイ・ノーデル(Clay Nordell)に農民たちの運搬を頼む。

ソピロテを39歳のアーノルドゥ・モス(Arnold Moss、1910年1月28日~1989年12月15日)が演じた。
クレイを38歳のアーサー・ハニカットゥ(Arthur Hunnicutt、1910年2月17日~1979年9月26日)が演じた。

バーンズはニーリーに電話し、地元の警察を派遣し、「黄金の真珠」にいるロドゥリゲスを助けるよう頼む。

ドイチュ人のフーゴが「黄金の真珠」で農業労働者でないロドゥリゲスを潜入捜査官の疑いで取り調べる。
ロドゥリゲスは警察に捕まった仲間ラゴピアン(Ragopian)の闇商売の経営者で、逃亡したいのだとほのめかす。

フーゴを64歳のスィグ・ルーマン(Sig Ruman、1884年10月11日~1967年2月14日)が演じた。

警察隊が来ると、ロドゥリゲスはかくまってくれとフーゴに頼む。フーゴはロドゥリゲスを、クレイとソピロテが密出国者たちを運ぶトラックの荷台に乗せて逃がす。
トラックは途中、喘息の発作で亡くなった老人の遺体を捨て、国境に向かう。

喘息もちの老人を68歳のミッチェル・ルウィス(Mitchell Lewis、1880年6月26日~1956年8月24日)が演じた。

トラックは国境を抜け、キャリフォーニア国に入る。
11人の密入国者はトラックの荷台を降り、トレーラーに移る。
クレイが迎えに来たジェフ・アンボイ(Jeff Amboy)に報酬の1人30ダラーズの11人分330ダラーズを払う。

アンボイを身長178㎝の34歳のチャールズ・マックグロウ(Charles McGraw、1914年5月10日~1980年7月30日)が演じた。

アンボイの車がけん引するトレーラーがエル・セントゥロのパークスン農場に着くが、仲間のチャック(Chuck)によると、取引き業者のボウルディ(Baldy)のしくじりで外国人労働者の偽造入国許可証が手に入っていないので、牧場主のオウエン・パークスン(Owen Parkson)の命令で国境警備隊の検問を通って北に行けという。

チャックを29歳のジャック・ランバートゥ(Jack Lambert、1920年4月13日~2002年2月18日)が演じた。

アンボイが危険だと反論する、パークスンが現れ、密入国者を正規の農場労働者と一緒に働かせ、偽造入国許可証が入手でき次第追い出すことにしようと言う。
チャックとアンボイとパークスンのやりとりをロドゥリゲスが盗み聞きする。

パークスンを身長179㎝の39歳のハウアドゥ・ダ・スィルヴァ(Howard Da Silva、1909年5月4日~1986年2月16日)が演じた。

翌日、密入国者たちはパークスン農場で働き始める。時給は25センツだ。
諸経費のピンハネもあり、手取りは本国より低い時給だが、不法入国者は正当な権利を保護されない。

キャレクスィコの移民帰化局で、バーンズがニーリー局長国境警備隊(Border Patrol)の隊長に「黄金の真珠」でロドゥリゲスたちを見失ったことを報告する。

国境警備隊隊長を38歳のジョン・マグワイア(John McGuire、1910年10月22日~1980年9月30日)、ニーリー局長を39歳のジョン・リッジリー(John Ridgely、1909年9月6日~1968年1月18日)が演じた。

国境警備隊は偽造入国許可証を密売しているボウルディの店を見張っている。

バーンズは自分がなりすます、「外国人労働者の入国・登録記録(Record of Admission and Registration of Alien Laborer)」425枚を盗んだ指名手配犯ジャック・ブライアントゥ(Jack Bryant)の手配書と、通し番号入りの未記入の「外国人労働者の入国・登録記録」を受取る。
キャンザス・スィティの私書箱1510のロイ(Roy)に「原稿を送れ」と電報を打てば、残りの番号入りの偽造許可証が手に入る。

パークソンに「黄金の真珠」のフーゴから電話があり、パークスンはもう密入国者を送るなと告げる。
バーンズがフーゴにバーボンを注文する。
バーンズが去った直後、フーゴはカウンターにバーンズが置き忘れた未記入の「外国人労働者の入国・登録記録」を見つける。
フーゴはポコロコにバーンズの後を追わせ、ソピロテにクチーヨを呼ばせる。

夜、宿で寝ているバーンズを短刀をもったポコロコが起こす。クチーヨとソピロテもいる。入国許可証を大量にもっていると言うバーンズは連行され、前に殴り倒したフリッツ、クチーヨ、ポコロコ、ソピロテに拷問される。
バーンズは左の靴を見ろと自白する。
左の靴にジャック・ブライアントゥの手配書が入っていた。

その後、フーゴの使いでバーンズの黒い上着を着たソピロテとバーンズの派手な上着を着たクチーヨがパークスン邸を訪ねる。
ソピロテはパークスンに、400枚以上の入国許可証をフーゴの元にいるジャック・ブライアントゥがもっていると話し、ブライアントゥの手配書とバーンズがもっていた未記入の入国許可証を見せ、1枚20ダラーズで売るともちかける。

その日の仕事を終えたロドゥリゲスとガルスィアは、食事を終えたソピロテとクチーヨを見かける。
ソピロテとクチーヨは、パークスンに、アンボイと手を組んだクレイが連れて来たバーンズに引き合わされ、バーンズに上着を返し、追い出される。
パークスンはバーンズと入国許可証を1枚10ダラーズで425枚買い取る交渉をする。バーンズは残りの入国許可証はキャンザス・スィティにあるので、友人ロイに電報を打って送ってもらうと言う。

アンボイとバーンズが去った直後、パークスンは、キャンザス・スィティのドク・ブライラー(Doc Bryler)に電話する。

その夜、ロドゥリゲスはガルスィアから給水塔にバーンズが監禁されているのを見て、殴られたことを聞く。
ロドゥリゲスは宿舎を抜け出し、クレイが見張る給水塔に行く。

監禁されているバーンズは会いに来たロドゥリゲスに、キャレクスィコの移民帰化局のニーリーにバーンズの居場所を伝えてほしいと頼む。
逃げ帰ろうとしたロドゥリゲスは車を運転していたアンボイに捕まる。

パークスンは運び屋の男にバーンズの偽の運転免許書をもたせ、ハーリ・ダイヴィドゥスン(Harley-Davidson)のバイクで郵便局に入国許可証を取りに行かせる。
郵便局で男を見た国境警備隊の隊長と隊員たちはバイクの彼を車で尾行する。男は途中で鉄道橋を走り、尾行をまく。
男は許可証を持ち帰るが、パークスンはメヒカリのフーゴに電話し、その夜100人の密入国者を国境地帯に寄越すよう指示する。

バイクの運び屋を40歳のフレッドゥ・グレアム(Fred Graham、1908年10月26日~1979年10月10日)が演じた。

パークスン農場でアンボイがメヒカリから運ばれてきた密入国者の行き先を手配する。
パークスンはキャンザス・スィティのドクからの電話で、電報を受取った男がすぐ移民帰化局へ向かったことを聞く。
パークスンはバーンズが移民帰化局の捜査官だと知る。バーンズは逃げようとするがアンボイに止められる。

ドクを39歳のエドゥウィン・マックス(Edwin Max、1909年5月4日~1980年10月17日)が演じた。

トラックの荷台で、バーンズの正体がバレたことを知ったロドゥリゲスは、走行中のトラックの荷台で仲間に借りた小刀で幌を切り裂いて幌の外に出る。
ロドゥリゲスは、運転席のチャックをひきずり出して、トラックを停めさせ、チャックを殴り倒し、荷台を降りて来たガルスィアとトラックを奪ってパークスン農場の方へ戻る。
ロドゥリゲスはガルスィアに、自分はメヒコの捜査官だと明かす。トラックのキャビンにしがみついていたチャックは途中で振り落とされる。

アンボイとクレイに銃で脅されたバーンズは開けた荒地を歩く。追いついたロドゥリゲスとガルスィアは背後で見守る。
バーンズは振り向いて、アンボイとクレイを殴り倒すが、すぐに撃たれて地面にうつ伏せに倒れ、その後、アンボイに銃尻で背中を激しく強打される。

アンボイはキャタピラー社(Caterpillar)のトラクターCaterpillar D7に乗り、恐怖におののくバーンズを無情にもひき殺す。

その直後、クレイがロドゥリゲスとガルスィアに向けて発砲する。ロドゥリゲスとガルスィアはトラックに駆け戻る。

ロドゥリゲスはアンボイ夫人ベラ(Bella)の家に押し入り、電話で、キャレクスィコの移民帰化局のニーリー局長にパークスン農場でバーンズがジェフ・アンボイとクレイ・ノーデルに殺されたと伝える。
ベラに銃で脅されたロドゥリゲスは電話を切る。
武装した国境警備隊の捜査官たちがパークスン農場に向かう。

ベラリン・ウィットゥニー(Lyn Whitney)が演じた。

ベラは電話でパークスンにロドゥリゲスが家にいると通報する。パークスンは国境警備隊に追われることを知り、逃亡の準備をしている。

パークスンとアンボイがアンボイ家に来る。

表にはクレイと肉体労働者たちを乗せ「死の峡谷」に向かうトラックが待っている。ロドゥリゲスもトラックまで連れて来られる。
パークスンは肉体労働者を「死の峡谷」でフーゴたちに殺させるつもりだ。

トラックが走り出し、ベラが運転するパークスンとアンボイの車がついて来る。

ロドゥリゲスは肉体労働者たちに武器で歯向かう準備をさせる。
国境まで来ると、クレイが肉体労働者たちを荷台から下ろす。

アンボイはパークスンを裏切り、ベラに車を出させ、ノガレスで待っていろと命じ、取り残されたパークスンを銃で脅し、クレイの銃をもたせ、「死の峡谷」に向けて行進する肉体労働者たちのあとに従わせ、自分は谷の上に登る。

国境警備隊の車が国境に着く。隊長は車に乗った部下の一人に、メヒコ側の警察に連絡し、「死の峡谷」へ応援を派遣するよう依頼させる。

ロヅゥリゲスは隙を見て、パークスンの銃を奪い、パークスンを行進の先頭に立たせる。ソピロテを見て彼に近づいたパークスンはソピロテに撃たれ、底なし沼に沈む。
アンボイが谷の上から肉体労働者に向けて発砲を始める。ロドゥリゲスはアンボイに向けて撃ち返す。
ロドゥリゲスに撃たれたアンボイは谷に転落する。

ガルスィアは短刀をもったクチーヨと素手で闘う。銃弾の尽きたロドゥリゲスはソピロテの銃を叩き落とし、彼と首を絞め合いながら底なし沼にはまる。ソピロテが先に沈む。
ガルスィアは奪い取った短刀でクチーヨを刺し殺すと、底なし沼に沈むロドゥリゲスを助けようとする。そこに国境警備隊がやって来て、ロドゥリゲスを底なし沼から引き上げる。

その後、メヒカリの総督宮殿で式典が催され、ロドゥリゲスとガルスィア夫妻も出席する。殉職したバーンズにメヒコの最高栄誉賞が与えられた。

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