見出し画像

第4回文芸実践会・小説「悔しいことがあった日の帰り道」 | 活動報告

「文芸実践会」とは :
京都芸術大学の通信・文芸コース有志メンバーで発足したグループです。さまざまな文芸に楽しく初歩から触れる機会としつつ、皆が作品を持ち寄り批評し合うことによって、文芸作品や自身の作品への見る目を養い、さらなる表現力をつけていこうという目標があります。

第4回となる今回は、京都芸術大学通信・文芸コース主任の川崎昌平先生をゲストとしてお迎えしました。

川崎昌平先生(文芸コース主任・専任講師)
 2004年、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。2006年、東京藝術大学大学院美術研究科修了。作家・編集者。芸術と社会の接合が主なテーマ。主な著書に2007年の新語・流行語大賞を受賞した『ネットカフェ難民』(幻冬舎)、出版文化の意義と可能性を伝えようとする『重版未定』(中央公論新社)シリーズ、働きながら表現をすることの重要性を説く『労働者のための漫画の描き方教室』(春秋社)などがある。

事前に提出された10作品を皆で批評し、最後に本人が作品の意図について説明をします。今回のテーマは「悔しいことがあった日の帰り道」で、小説の起承転結の「起」部分のみ800~1000文字です。
企画と司会・進行は川辺せいさん。田村さんの作品は諸事情により非公開です。


まなつのぼうれい

川辺:冒頭の「頼むから」で世界観に引き込まれた。作品を通して「悔しい」が一貫しているが、言葉選びにユーモアを感じる。少女の第一声の口調が聞き馴染みないので、読み手によっては違和感を感じるかも。
月見里:冒頭から「悔しさ」「不愉快さ」の強さが分かる。うまく「悔しさ」がでていた。相手の実力も認めていて圧倒的な実力の差も理解しているが、納得できない面もある葛藤がリアルだと思った。最後の転換で急に空気が変わっていて、次が読みたいと思った。
川崎先生:なにが悔しかったのか。負けを認めているが悔しい=全力でやって負けられなかったから悔しかったのかも。「俺」は別のメディアで活躍する可能性も。序盤のみなので判断はできないがタイトルとの乖離が少しみられるため、タイトルをもう一捻りできたかも。「ねえお兄さん」が最初の1行でもよかった。詰め込みたいものの構成を少し変えてみるだけでもよくなる。

作者:うい
浮世離れした美少女と出会う話を描きたかった。日本に八百万の神がいるならガードレールの神様がいてもよいと思ったので、少女は物語の中盤くらいまでガードレールの神様として描かれる(本当はその場所で死んだ幽霊ということが作中で判明する)。自分が悔しいときは怒りを伴うことが多く、怒る主人公にした。入れたい要素が多過ぎて詰め込み過ぎてしまった。


文月が色づく頃に

みずたま:情報の提供の仕方が上手。書き出しの1文と名前から鬼ごっこが嫌いな理由のひとつが苗字なのかなと思った。いろいろな感情が溢れている作品で、主人公と読み手の感情がリンクしている。タイトルに関連した部分が出ていないのでこれからか。「マリちゃんの纏う空気感が~」がとても素敵。
:マリちゃんのキャラクターが伝わってくる。この先の展開が自身で決まっていることが分かったので、続きを読みたい。「今でもよく覚えている」で回想シーンかと思ったが、現在形が続き、「今」がどの時点のことなのか曖昧になったように思え少し気になった。
川崎先生:鬼ごっこのシーンが丁寧で読みやすい。リアリティがあり、描写力がある。プロットを練っているからこの冒頭か。いじめを題材にしているときに読み手が読みたいのは復讐だが、謎解きなどをこの先入れることも可能。続きを早く読んでみたい。

作者:Elle
苗字がきっかけでいじめられる過去の話から始まるストーリー。苗字にコンプレックスを持つ主人公。言い返せない自分の弱さと悔しさを感じるワンシーンを書いた。子どもながらの残酷さ、親への申し訳ない気持ちの表現が難しかった。もう少し小説ならではの空気感(言葉使い、雰囲気、話の展開など)を出し、改行も意識して回想シーンであることをはっきりさせてもよかったかも。


釣り人の悪事

是酔:このまま終わっても面白いし、続きも読みたい。文字数内で頑張って説明しているため箇条書き、日記らしさを感じてしまった。「覚えている」で時制に混乱した。文字数しっかり書いてもらって全体を読みたい。
Elle:情景描写がとても分かりやすく、すらすらと読めた。映画のワンシーンを見ているかのような、軽やかなステップで展開が進んでいくのがとても良かった。主人公の心情描写や、風景の描写を加えるとさらにいい作品になるのでは。作者ならではの感情表現をぜひ読んでみたい。
川崎先生:語られていない部分に謎を忍ばせる「一人称」ゆえの信頼できない語り手の良さを感じた。釣りをモチーフにすると自分を見つめ直すプロセスになるため、独り言を語らせることが多い。釣りを失敗した男の惨めさがどう回収されるのか気になる。続きが読みたい。今後も「釣り」×「ミステリ」に挑戦してみては。

作者:月見里のぞむ
先に結末までのプロットを書いてしまい、文字数をかなり超えてしまった。苦肉の策で冒頭を省いて出したので分かりにくかったか。「悔しい」の感情が薄く、先生に過去に「釣りについて書いてほしい」と言われたので書いてみた。釣り人にとって悔しいことは魚を釣れなかったことではなく買ったこと。これは実は裏で事件が起きていて、その説明はこの中では出てこない。

↓プロットはこちら


恋文の呪い

うい:最初に読んだときに手紙を書いた人の気持ちが伝わり、泣きそうになった。手紙の主は幸せだったんだろうか。燃やしてしまうところで終わってしまうので、続きが気になる。「すこし渋い」で手紙を受け取った側の別れに納得していなさを感じた。
じぇーん:手紙の部分のキャラ作りがすごい。大学4年生でこれを書くという幼さが面白く引き込まれた。「あなたはどうかな」の小悪魔性、「お土産をくれたり」の発想の面白さ。最後「目を伏せて~」や手紙が黒く染まっていく部分と呪いがどうかかっているのか。どちらが呪われているのかいい意味でモヤモヤした。
川崎先生:未来の話を語りたがるのは未来がない人。病人かと思ったが、煙草は吸わなそう。手紙をもらった人の挙動、わざわざ川に行った理由は。文章の不確定性に読者を引き込んでいる。いろんな読み方をしてもらえるということは、不確定さで引き込めているということ。書かれていない部分を読みたい、と思わせるパワーのある作品。

作者:秋
女性同士の恋愛の終わりを書いた。手紙は相手を慮っているように見せかけて粘着質なドロドロとした感情を忍ばせられるよう意識した。煙草の銘柄は詳しくないので、もう少し検討したい。

↓結末までの作品はこちら


BLOOM WHERE お前の場所で咲いてやる

月見里:この中でも異色の作品。分からない言葉が多く、オリジナルの言葉も混ざっているように思う。冒頭の部分で世界観を伝えるのが上手い。タイトル、どこで咲くのか気になった。続きを読みたい。
田村:SF、ポストアポカリプスか。カタカナの多用により、字面に強い圧があって個性的。ごちゃごちゃとした騒がしさが、描きたい世界観に合っている。セリフが少ないのに騒がしさを表現できているのもすごい。語り手の「俺」はクレバーな感じが出ていてキャラづけができている。「落ちれた」が言葉として気になった(この語り手ならもう少し丁寧に言いそう)。確固たる世界観が短い文章でも伝わり、続きが読みたくなった。
川崎先生:1番異色だった。生きるか死ぬかの生臭い世界観をつくる志を強く感じた。場面を抑制してフォーカスしてもよかったか。お互い同じ方向を向いて競争原理が働いている場面を書くだけでも伝わる。プロットがしっかりあると次へ次へと書こうとしてしまいがちだが、ぐっと抑えて描写における文体をじっくりと、長い構想を圧縮せず丁寧に書いてほしい。

作者:是酔芙蓉
「悔しい」まで辿り着けなかったが、地球の状況が伝わったらと。プロットは決まっており、「銀色のカプセル」は実は棺で中にいろいろ入っているのでそれを奪い合う。主人公は得たものを奪われて悔しい帰り道を辿る。最終的に革命を起こすという設定がある。


清算

Elle:今回の作品の中で一番好き。不穏な空気感がじわじわと広まって、最後まで胸が締め付けられるような感覚になった。今後の展開でさらにこのタイトルの重さが強くなるのでは。情景と心理の描写のバランスが良い。難しいテーマだが、続きがとても読みたい。
:完成度の高い作品。重いテーマでも途中から地の文が主人公の口語調になり、軽やかに読める。「死の淵」が最後に出てきて、読み手も主人公とともにぐっと死への感覚を強くする。
川崎先生:「悔しさ」テーマ回収が上手で完成度が高い。結までの時間軸、勢いが見える。最後の1行でそれまでずっと死を意識していなかったことが分かる。切羽詰まっている描写が続き、時間単位で動きを描写しないと主人公が報われないという迫力が練り込まれている。この後はどれくらい主人公の視点をブラさずに書いていくか、変わっていくなら分刻みで変わっていく流れでも。

作者:じぇーん
課題外で初めて小説を書いた。以前身近に経験したことが題材。「私はまだまだ徳の清算ができていない、悔しい」と大きな声で言っていたことから。残された時間は、やりたいことをやると決めていたが叶わなかったことも多かった。これから、小説の中でやり残したこと、やりたかったことをさせてあげたい。


敗北エンカウンター

うい:さわやかな青春学園もので楽しく読んだ。主人公のキャラクター性や状況が書いてあったが、分かりやすく面白かった。内容的には盛りだくさんだが駆け足ではなく構成が上手い。続きが気になる。
是酔:感情がふんだんに使われていて、自分は苦手なので見習いたい。読者に声かけする部分が敬語になったのでドキッとした。全体的にかなり怒っているが「君」づけして呼んでいるのが優等生っぽい。このまま王道で恋愛にしてもいいし、タイムリープして荒谷くんを救っても面白そう。
川崎先生:分かりやすい青春劇。文章としてこなれている印象。水森さんのキャラクター性が分かり、外見に対する評価軸を持っておらず勉強という数字で測ることができる評価軸にすがっている。ここからの展開によってどう物語として回収していくのか。今後、どのような方向を目指しているのかを考えてアプローチしていくのも手段としてあり。タイトルで荒谷君のキャラクターが分かるようにすると本にしやすい。

作者:川辺せい
WEB小説を長く書いてきたので、1番得意なジャンルで出した。10代ならではのリアルな悔しさを自分の経験も入れて書いている。校則を守るか守らないかで頭の良し悪しを判断してしまいがちなので、そこを回収しようと思っている。荒谷くんがどのような人か気になってほしかったので、金髪やピアスの描写を入れた。

↓結末までの作品はこちら


雀の帷子

田村:「AB部で手配一筋」でディテールを感じた。「会議室の防音壁の穴が〜」が情景描写に心情が入っていて巧み。冒頭、歩き始めた直後のはずなのに足の痛みが描写されるところは少し違和感。最後の「匂い」はそれだけなら温かいものだが自分の家ではない部分など細部が丁寧。
じぇーん:「自分にできることなど、何もないのだ」で、「悔しい」とはこういうことかと思わされた。心の声が丁寧語であることで本当にイライラしているのだなと思った。メリハリが上手。お風呂の湯気の匂いは1人暮らしをしている限り自宅からは匂わないものなので、ごはんより湯気の匂いの方が家庭を感じさせる。最後にことわざがきたのでグッときた。
川崎先生:歩くことで無力感を再実感して怒りや悔しさを消化しており、面白い導入。細部はブラッシュアップする余地があるが、主人公の感情を表すところに感情そのままではなく情景描写で表現しているところがよい。主人公の職種の細部はあまり分からなかったので、労働に関する無力感を出したかったらもっとその部分を入れてもよかったかも。

作者:みずたま
「悔しさ」はすぐに思い浮かばなかったが、仕事をぞんざいに扱われて悔しかった実話を思い出して書いた。「雀の帷子」の花言葉は「私を踏まないで」、ことわざは思うようにならないことの例え。主人公の感情を花言葉やことわざにあてはめた。エッセイにならないように気をつけ、説明文章を削ぎ落としていった。(「主人公は帰っても1人なのでは」に対して)「一本だけ残った命綱を手繰る」で家にいる家族のことを表現した。今の気持ちを家に持ち込んで家族に心配をかけたくないというのが、主人公が歩き続けている理由のひとつ。


来世チャレンジ

:声を出して笑ってしまった。このテーマでほかにない発想。1文が短く、テンポのよい文章で軽やかに読める。状況説明が主人公の吐露やざっくりした情景で十分に伝わっている。「~は~だし、~は~だ」が前半と後半で出てくるので効果としては巧みだが、もし手癖なら少し抑えても。
川辺:「悔しい」くらい笑えた。じわじわ迫ってくる悔しさ、登場人物のキャラクター性の軸を感じた。悔しさはグラデーションだが、それの表現が上手。共感できた。人を笑わせる小説を書くのがとても難しいので、今後も面白い小説を書いてほしい。
川崎先生:「ヒト科ヒト属を目指して~」が1番面白かった。人になりたいとは言っているが、人になりたい理由がない。そこが「人が人たる所以」だと感じた。人でも嫌なことはあるのに、主人公は人になりたいという人間のエゴを感じる。人間としての価値観を死してなお崩さない主人公、よいスタートラインを切れている。このテンポ感を今後の展開でどう緩急つけていくか、メリハリの付け方の勉強をぜひ。

作者:藤
「悔しい」を調べたとき「諦めがつかない腹立たしいきもち」とあり、それは「やり直せないこと」かなと思ってこの作品を書いた。「~は~だし、~は~だ」は癖なので気をつけていきたい。「帰り道」はテーマとして入れないといけないと思って入れたので少し蛇足だったかも。プロットは結末まであり、主人公はヒエラルキーの下にいたため虐げる側にいきたいと思っている設定。


感想

・同じお題で全員違うテーマの作品が出たのは面白かった
・さまざまなジャンルが集まっており、個性や経験が詰まっていた
・考えているときも書いているときも苦しかったが、読まれて評をもらって楽しくなった
・とても苦しかったが、大人になって新たなチャレンジをすることはなかなかないのでいい経験だった

ゲストの川崎先生より一言

今後の文芸コースのありかたについて考えさせられました。遠隔でもこうして言葉を交わせるものなのだなと、個別で熱く言葉を交わし合う場面の良さを感じました。今後も続けていってください。いろんな先生にもぜひ参加依頼を。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?