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#560 「神戸市事件」神戸地裁(再掲)

2022年4月13日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第560号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 参考条文

★ 地方公務員法

(降任、免職、休職等)
第28条
 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
 略
 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを休職することができる。
 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
(以下略)

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■ 【神戸市(以下、K市)事件・神戸地裁判決】(2021年3月11日)

▽ <主な争点>
地方公務員の分限免職処分の違法性判断など

1.事件の概要は?

Xは1991年4月からK市に事務職として任用されたところ、処分行政庁たるK市長から2016年3月31日付で地方公務員法28条1項2号および3号に基づく分限免職処分(本件処分)を受けた。

本件は、Xが「本件処分には同法28条1項2号および3号所定の事由が認められないから違法である」としてK市に対し、行政事件訴訟法3条2項に基づき、本件処分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K市およびXについて>

★ K市は、地方自治法所定の普通地方公共団体であり、処分行政庁はK市の首長である。

★ Xは、1991年4月、事務職(一般行政事務に従事ずるもの)としてK市に任用され、2013年4月以降、市税事務所市民税係に勤務していた者である。

★ 2015年8月当時の上記市税事務所の所長はA、副所長はBおよびリーダー職員はCであった。


<8月20日事案、Xの自傷行為等について>

▼ Xは2015年8月20日午前8時40分頃、朝礼開始前に市税事務所内の炊事場に置かれていた包丁のうち1本を持ち出し、Cの方に向かって近づいた。

▼ Cは近づいたXが包丁を所持していることに気づかなかったが、これに気づいたA所長が両者の間に割って入ったところ、Xは「今日は刺すために来た」と言い、自席に戻り、最終的に包丁を自席に置き、B副所長がこれを取り上げた(以下、このXの一連の言動を「8月20日事案」という)。

★ Xは8月20日事案以前にも、2011年4月20日に仕事上のストレスを理由に職場ではさみを右手首に当てるなどの自傷行為に及んだ。また、2013年4月には職場の窓から飛び降りようとするなどの行動に及んだこともあった。


<Xの診療経過等について>

▼ Xは2001年1月から2015年8月、継続的に甲クリニックを受診し、D医師から情緒不安定性パーソナリティ障害によるストレス反応として、薬物療法・支持的精神療法を受けていたところ、2015年8月21日、不安・抑うつ状態で1ヵ月間の休養を要する状態であると診断された。

▼ D医師は同年9月7日、Xについて、双極性感情障害、境界性パーソナリティ障害で躁うつ混合状態にある旨診断した。

▼ Xは同年9月18日、甲クリニックの紹介で乙心療内科を受診し、E医師から、双極性感情障害および境界性パーソナリティ障害と診断され、10月8日、K市の指定医師である丙病院のF医師から、双極性気分障害および境界性パーソナリティ障害で、自傷・他害のおそれのある危険な行為に及ぶことなく継続した業務を行うためには、向精神薬での加療と同年12月31日までの休業が必要と診断された。

▼ Xは同年10月16日には、丙病院のG医師からもF医師と同様の診断を受けた。もっとも、その後F・G両医師により同年12月時点で10月時点の診断と比較してその間の治療が奏功し、情緒面の改善が見られ、精神状態が改善していると診断され、G医師は職場における問題行動の再発の可能性について皆無ではないが、回避できる可能性は残ると診断した。


<Xの休職、本件処分に至った経緯等について>

▼ Xは2015年8月21日、産業医と面談した後、同年9月30日まで病気欠勤し、10月1日から31日まで病気休職した。その間、10月2日、K市に対して復職願いを提出したが、同市は11月1日、Xに対し、地方公務員法28条2項1号に基づき、同日から12月31日の間の休職を命じた。さらに、同市は2016年1月1日、Xに対し、同号に基づき、3月31日までの間の休職を命じた。

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