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つんでるシネマログ♯3 ハロウィン

原題:Halloween
1978/アメリカ  上映時間91分
監督:ジョン・カーペンター
出演者:ドナルド・プレザンス ジェイミー・リー・カーティス


スラッシャー映画の金字塔


 スラッシャー映画というジャンルがあります。殺人鬼が現れて人がたくさん殺される映画のことです。人の死を時に劇的に、時にリアルに、時に派手に描く事ができるのは映画の魅力の一つですが、そんな人の死を様々な形で見せる事に特化した映画ジャンルがスラッシャー映画とも言えるでしょう。

 スラッシャー映画の起源については色々と説があります、ヒッチコックの『サイコ』がそうだ、という人もいれば、この『ハロウィン』だ、という人もいます。この『ハロウィン』自体、『サイコ』の影響を受けている作品ともいえますし、主演のジェイミー・リー・カーティスは『サイコ』の主演女優ジャネット・リーの娘なので意識した映画であることは間違いありません。ですがスラッシャー映画としてジャンルを確立したのは間違い無く、この映画と見て間違いないでしょう。

 それはこの映画観てみると一目瞭然で、後年のスラッシャー映画における「おきまり要素」として引き継がれた部分だけで構成された様な映画です、マスクの殺人鬼、記念日、セックスしたら死亡、最後に生き残る女性、などなど、まさにそれらの骨格だけで成り立っている様な印象を今見ると受けます。
 
 ストーリーも単純明快で、精神病院から抜け出した殺人鬼が、ハドンフィールドという街でハロウィンの夜に人々を殺す、という以上のものは無く、殺人鬼マイケル、狙われた女性ローリー、マイケルを追う主治医のルーミスの3人が主要な登場人物であり非常にシンプルです。

 以降のスラッシャー映画にあるような過度な殺人、人体破壊描写もなく、血も出ません。その見せ方はやはり『サイコ』などのこれ以前のスリラー映画に近いものがあります。

ブギーマンとシェイプ

 当時の事を調べると、ふしだらな行為を取ると殺人鬼に殺される様に見える内容や、それに反して真面目な性格の主人公ローリーが生き残る事から、「これは若者の乱れた性を扱った映画ではないか?」という批評が有ったようですが、監督はその意図は特に無いとの事です(けど後の作品に、この要素が受け継がれていったのはなんだかおもしろいですね)

 この映画の殺人鬼マイケル・マイヤーズはブギーマンと呼ばれます。ブギーマンとは英語圏の民間伝承で特定の姿のない怪物、幽霊といった存在です。土地や、家毎に姿形が違っていたり、何だったら子ども毎にもイメージされるものが違うという日本における妖怪めいた、恐怖の「何らかの」対象です。

 またマイケル・マイヤーズの有名な、もう一つの名を「ザ・シェイプ」と言います。クレジットにはこの名前で書かれています。「shape」は形や影を意味する言葉です。

 殺人鬼マイケルは目的も動機も不明だし、人なのに神出鬼没で何故か死なないという超常的な描写もあり、正体は全く不明。主治医のルーミスは彼を純粋な邪悪「pure evil」と呼んでいました。この正体不明の恐怖こそがマイケル・マイヤーズの本質と言えます。

 ブギーマンそしてシェイプである彼は、主人公ローリーの影、形のない恐怖そのものではないでしょうか。または主治医ルーミスの恐怖かもしれません。人に付きまとう死の恐怖や仄暗い感情という影を象徴する人物がマイケル・マイヤーズなのではないでしょうか?極めつけとしてローリーの背後の暗がりに突如浮かび上がるマイケル。という素晴らしくて、恐ろしい有名なシーンがあります。まさに影としてのマイケルを描いているシーンだと言えます。

 ローリーがマイケルに狙われる理由というのもこの映画では、はっきりとしません。けどそんな物は無いのだと思います。なぜなら彼はローリーの影だからローリーに後ろに、いつだって居るのです。

 劇中、マイケルはトレードマークたるマスクを被りますが、マスクが脱げて顔があらわになると、即座にマスクを被り直します。またシーツを被ってクラシカルな幽霊の姿をしたりしますが、それがどこか自分を形付けようとしている様であり、ことさら誰かの影であり、自分を持たぬ空っぽな存在であることを強調しているようにも観えました。

 ちなみにマイケルを演じた俳優はこの一本で6人いるらしいのですが、それもまた形のない存在を強調するようでおもしろい逸話です。この映画の製作のデブラ・ヒルもマイケルのシルエットを演じ、犬の絞め殺すシーンではドッグトレーナーが実はマイケル役で混ざっているのだとか…

 マイケルの演技指導はとてもシンプルだったというのもおもしろいです。カーペンターの演技指導は、感情などは関係なしに「ただここで首をかしげろ」というような物だったらしいです。それも興味深いエピソードです。監督のカーペンターは徹底してからっぽな存在としてマイケルを描こうとしていたのではないでしょうか?

シンプルな怪談映画としての良さ

↓以下、映画の結末に触れています↓

 そんなマイケル・マイヤーズは、異常ではありますが怪物ではなく、ただの人間です。ですが、6歳で姉を殺したという話があったり、彼に対してルーミスがあまりに恐れ慄くので、映画を観ていると次第にただの殺人鬼を超えた怪奇性を帯びていく様でもあります。そして『ハロウィン』に出てくる子供たちは皆なブギーマンが来るぞと語り、しだいにマイケルとブギーマンが重なっていきます。

 そしてついにハロウィンの夜に殺戮が始まり、映画の終盤。マイケルに追い詰められたローリーのピンチに駆けつけた、ルーミスによって銃撃されたマイケルは、2階から庭に転落します。ですが次に庭を目をやった時にはマイケルは姿を消しています。そしてこの映画は終わるのです。

 普通の人間だったはずのマイケルが何やら幽玄の世界に行ってしまい、本当に語り継がれる怪異「ブギーマン」へと変わってしまったような怪談としての恐ろしさがあります。

 最初に『ハロウィン』はシンプルな映画と言いましたが、派手に人が殺されていくスラッシャー映画というかは『ハロウィン』にはシンプルな都市怪談のような魅力があります。

 怪談には話の締めに「次はあなたの番かもしれません」と驚かすような語り口のものがありますが、まさに『ハロウィン』はそんな終わり方をします。「次は、君の街に奴は現れるぞ」と脅かすような感じですね。想像すると体の芯がゾッとするような映画です。

 余計なことを語らないシンプルさに、怪談としてのロマンを感じます
。このシンプルさこそが『ハロウィン』の1番素晴らしいところではないでしょうか。今はいくらでも残酷で、派手で、お話的におもしろいホラー映画は観られるので、地味に感じるところが『ハロウィン』にはありますが。この怪談的ロマンや、マイケルとローリーに生じる怪奇的ムードは以降のアメリカ産スラッシャー映画にはあまり受け継がれていないように思えます。

 カーペンターのホラー映画を見ていつも思うのは『ハロウィン』にしろ同監督の『ザ・フォッグ』『遊星からの物体X』にしろ純度が高いということです、ここで言う「純度」は状況や雰囲気だけで人の感情を揺さぶってくるというような意味です。それは話して聞かせる怪談の特性だと言えます。カーペンターのホラー映画はそんなシンプルな恐怖というものに常に向き合っているように思います。(ちなみですが『ザ・フォッグ』は怪談を子どもに聞かせるシーンから始まります)

 この映画の製作当時『ハロウィン』は試写などでは酷評の嵐だったそうです、お話らしいお話もなく、さっぱり意味不明な殺人鬼が、人を殺すだけの映画は当時は映画として認めらづらかったのでしょう。けど公開されると口コミで大ヒット。自主制作の映画としては世界一売れた映画と認定されています。

これは仮説ですが『ハロウィン』はデートムービーとしてや、肝試し的に人気が出た映画なのかなと考えられます。

 怪談っていうのは日本だと、かつてはお寺に集まって行われていたのですが、怖い話を聞いて、皆で怖がって、そして「怖かったね」と子どもたちで協力して家路につく。怪談は娯楽としての側面ももちろんありますが、コミュニティの結束を高めたり、「戸締まりには気をつけろ」といった教訓を得るための一つの社交場としての役割をもった体験であったと考えられます。例えば『ハロウィン』がそうやってデートや肝試しといったコミュニケーションの為に適していたのなら、まさに「怪談」としての力を強く持った映画だったのではないでしょうか?(映画館はお寺の役割を持っているのかも…)

 もちろん、そんな事を考えなくてもハロウィンはおもしろい映画です。ホラー体験としてグロさなどに全く頼っていない一作目の『ハロウィン』はホラー映画が苦手な人にもぜひ観てもらいたい様な映画です。怖くて、怪しくて、そして耽美的でもあるような、純粋なホラー映画の楽しみが、この映画にはあるような気がします。

 白昼でも、深夜でも静かに、ずっとつきまとってくるブギーマンはいつ観ても不気味。いつだって彼は側に居ます。なぜなら彼は私達の影だからです。


ハロウィンシリーズについて

ハロウィンは続編やリブート含め現在、全12作品!多すぎ!
しかも最新作『ハロウィンKILLS』の続編もおそらく作られるので13作?『13日の金曜日』が『フレディVSジェイソン』入れても11作なのに(いやそれも多いんだけど)

ハロウィン(1978)
ハロウィンⅡ(1981)
ハロウィンⅢ(1982)※番外編
ハロウィン4/ブギーマン復活(1988)
ハロウィン5/ブギーマン逆襲(1989)
ハロウィン6/最後の戦い(1995)

ハロウィンⅡからの続編シリーズ
ハロウィンH20(1998)
ハロウィン レザレクション(2002)

ロブ・ゾンビ監督リメイク版2作
ハロウィン(2007)
ハロウィンⅡ(2009)

一作目からの続編、最新3作
ハロウィン(2018)
ハロウィンKILLS(2021)
Halloween Ends(公開予定)

 『ハロウィンⅢ』はブギーマンが出てこないです。ハロウィンの日に起こる別の恐怖を描くアンソロジー的作品で、シリーズはハロウィンの日を舞台にしたホラーとして展開を図ろうとしたみたいですね。ブギーマンが出てこなかった『ハロウィンⅢ』は評判が悪かったようで、その話は消えてしまったようです。『ハロウィンⅢ』ふつうに80年代ホラー映画として楽しいですよ!


『ハロウィン』から連想した映画達

13日の金曜日
ハロウィンと並ぶスラッシャー2大巨頭。ハロウィンみたいな映画つくろうと始まったという話です。

スクリーム
メタ的にホラー映画を扱ったこれも傑作ホラー。明らかに『ハロウィン』のオマージュがたくさんあり、マスクと包丁という見た目もまさに。わかりやすく劇中でハロウィン観てます。

イット・フォローズ
話はかなり違いますが、カーペンター的と言われたこの映画。「何か」がひたすら歩いて近づいてくるという映画で、画面の向こうの方から誰かが近づいてくるという雰囲気は『ハロウィン』を強く感じさせます。


メモ

監督 脚本:ジョン・カーペンター
アメリカ出身の映画監督。音楽なども手掛ける。ホラー映画の帝王と呼ばれ根強い人気が有る。自身が強く影響を受けたハワード・ホークス監督『遊星よりの物体X』(『ハロウィン』の劇中でもテレビに映っていました)をリメイクした『遊星からの物体X』や『ゼイリブ』などの代表作の他、多種多様で良質なエンターテイメント作品の作り手

脚本 製作:デブラ・ヒル
アメリカ出身の映画プロデューサー。ジョン・カーペンターと多くタッグを組み、様々な作品を手掛けた。『ハロウィン』には脚本でも参加。ジョン・カーペンターとは当時のパートナー。

出演:ジェイミー・リー・カーティス
アメリカ出身の俳優。父親は俳優のトニー・カーティス、母親は俳優のジェイミー・リー・カーティス。カーペンター監督の『ハロウィン』『ザ・フォッグ』二作続き『プロムナイト』というホラー映画に連続出演しスクリームクイーンと有名。
以降、シリーズに出たり出なかったりしながらも2021年の『ハロウィンKILLS』まで出演していてローリーは彼女を代表する映画のキャラクター。

出演:ドナルド・プレザンス
イギリス出身の俳優。多くの出演作のある名優。
ハロウィンシリーズには6作目まで出演し、ブギーマンと戦う因縁の相手としてシリーズには欠かせない人物。その他、『007は二度死ぬ』の有名悪役ブロフェルドの俳優としても有名。

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