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オモテの仕事は生物統計学の研究者,ウラの仕事は進化生物学者です.

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最近の記事

ある “失踪本” を追い求めて

手元にあるはずの本が “失踪” してしまい,自宅に積み上がっている段ボール箱をあれこれ開封しまくったがいっこうに埒が明かない.いったいどこに隠れているのだろうか.職場からの全蔵書を引っ越しさせた〈プロジェクト撤収〉の “負の遺産” はときにこうして表面化する. たいていの場合,探している本の方から「ここだよー」と声がかかるのだが,今回の本は沈黙を守っている.まさか貸し倉庫じゃあるまいな.探索本のほかにも関連する本一式が見つからないので,箱ごと貸し倉庫のどこかに紛れ込んでしま

    • 〈プロジェクト撤収〉顛末記

      はじめに 定年退職や人事異動に伴う職場からの “撤収” は誰の身にも降りかかる人生イベントだ.ワタクシの経歴を振り返ると,2018年3月末をもって定年退職となり,その後は5年間の再雇用期間を経て,2023年3月末をもって農研機構を去った. 農研機構では他にそういう事例の存在をまったく知らないが,ワタクシの場合は1989年10月に旧農業環境技術研究所に着任して以来,いっさいの人事異動がなく,30年あまりにわたって同じ部屋の同じ机で仕事をし続けた. これだけ長期間に及ぶと,

      • 看板は倒れる前に付け替えよう

        『現代思想』誌の最新号2021年10月号(2021年10月1日刊行,青土社,東京, 本体価格1,500円, ISBN:978-4-7917-1420-9 → 版元ページ)について,まとまり日記(yuiami)に「『現代思想』誌「進化論の現在」は看板倒れ」(2021年10月11日)という記事が出た.「この号の中身は『進化論の現在』という題名と釣り合っていない、とくにこの題名で生物学の哲学の成果をほぼ無視するのは問題ではないか」とある.たしかにワタクシがざっと見たかぎりでも〈進化

        • オモテが出ればボクの勝ち,ウラが出ればキミの負け

          同じ研究機関に30年余りも長居していると,人生の相談事をいろいろ受ける機会がある.つい先日も「 “なろ天守閣” で御奉公せよとの打診があったのですが,断っても “ブラックリスト” に載らないでしょうか?」との悩みの相談があった.昔から “参勤交代” の風習があるなろ城下町ではこういう人事異動の話はよく耳にすることだ.農水省直下の研究組織としては,行政とのインターフェイスの “面積” は大学や企業に比べればはるかに広いだろうし,それに関連する業務もとても多いからである. しか

        ある “失踪本” を追い求めて

          大学非常勤講師の給料をめぐるある顛末

          今年度の諸事もそろそろ終りが見えてきたので, “某案件” に関して事後報告をしておいた方がいいかもしれない. 1. 非常勤講師契約書の「解釈」をめぐって 関東のとある大手私立大学で非常勤講義を引き受ける機会があった.ワタクシは現在の本務先では「再雇用」の身分であり,日給計算による給料をもらっている.大学への非常勤出講は出勤簿上の「欠勤」として扱われるので,日給は支給されない.したがって,欠勤分の日給と同等以上の非常勤講義俸給が支払われなければ,ストレートに “赤字” に陥り

          大学非常勤講師の給料をめぐるある顛末

          藤沢でのプレゼンテーション高座を終えて

          はじめに — 〈プレゼンテーション入門〉の楽屋口 2020年10月から2021年1月までの秋学期に,藤沢市にある日本大学生物資源科学部で〈プレゼンテーション入門〉なる講義を担当した.対象となる受講生は食品ビジネス学科の学部1年生で,受講者名簿には120名あまりの人数がリストアップされていた.学部の1年生ということはついこの間まで高校生だったわけだ. 緊急事態宣言が出るようなご時世なので,開講直前まで対面なのかオンラインなのかが確定しなかったが,けっきょく対面/オンラインの

          藤沢でのプレゼンテーション高座を終えて

          読売新聞読書委員の任期を終えて

          読売新聞読書委員会の納会(2020年12月15日)から一夜が明けて,ワタクシは晴れて “自由の身” となった.二年前に読書委員になったときから,居室の書棚の一角に「読売新聞書評担当本の棚」をわざわざ用意した.そして任期を終えてみると,その棚には前後二段計60冊あまりの書評本がぎっしり詰め込まれている.ワタクシの任期中の掲載書評数をカウントしてみたところ,今月の掲載予定分も含め,計59本(大評40本/小評14本/ヴィジュアル評5本)だった(→書評本リスト).それ以外に「夏の1冊

          読売新聞読書委員の任期を終えて

          オンライン授業あの声やこの声が

          はじめに ワタクシが担当したきた東京大学大学院理学系研究科「生物統計学」(修士課程大学院生対象)では,毎年レポート提出によって成績評価をする.初のオンライン授業となった今年度も先日レポート課題を出題したので,受講生からメールでレポートがぽつぽつと届き始めた. 課題レポートの最後に講義に関する感想や要望を記入する欄を設けた.提出締切の7月22日(木)までに集まった感想を,個人情報が特定されないよう適宜編集した上で下記に転載する.初のオンライン授業に対するさまざまな “声” に

          オンライン授業あの声やこの声が

          オンライン授業千秋楽を迎えた日

          この4月以来3ヶ月におよんだ東大理学部の「生物統計学」オンライン高座が昨日7月9日(木)に終わったので,忘れないうちに下記に備忘メモを残しておく. 講義内容は例年の “80%” ほど例年通り全12回の高座だったが,4月9日(木)と4月16日(木)は「試行回」という位置づけだったので,実質的な講義は4月23日(木)から開始された.スタートが遅かったので,その後も順繰りに講義項目を後にずらしていったが,後半の多変量統計学やベイズ統計学については内容をかなり端折ることになり,リサ

          オンライン授業千秋楽を迎えた日

          オンライン授業開幕おそるおそる

          東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の「生物統計学」講義は,4月9日(木)と同16日(木)の試行回を経て,いよいよ4月23日(木)から正式スタートとあいなった.先月からの短期決戦準備とたった2週間の試行ではたいへん心もとないのだが,誰も予想しなかった緊急事態なんだから,まあしかたないでしょう.それよりも,これからの十数回のお座敷をちゃんと務めあげられるかが大問題.そのためにも初っ端はとても大事だ. 1. TA配置と作業分担 とてもありがたいことに,専攻の手配により,受講生

          オンライン授業開幕おそるおそる

          オンライン授業発信じたばた試行

          いろいろ “初物づくし” で日々戸惑いとつまづきの連続だ.はい,エンドレスなどたばたとじたばたが先月からずーーーっと続いている.4月9日(木)に初回の「生物統計学」オンライン講義(試行回)があり,とにもかくにもネットの向こうの受講生たちと Zoom で “つながる” ことだけを念頭に置いたのだが,前記事にも書いたように,Zoom 会議室の URL をそもそもまちがうというスタート前の派手なミスのせいで,早くも暗雲がもくもくたちこめている.はたしてこのまま十数回もオンラインで授

          オンライン授業発信じたばた試行

          オンライン授業準備どたばた顛末

          兇悪な病原体はきわめて短期間に人間社会に大規模な影響を及ぼしてきた.かつての “スペイン風邪(スパニッシュ・インフルエンザ)” の大流行からちょうど一世紀,今まさにパンデミックとなった新型コロナウィルスの猛威はすでに全世界に広がりつつある.そして,この新病原ウィルスが身の回りの日常の風景を劇的に変えつつあることは誰もがすでに感じ取っている. そう,これまで当たり前だったことが当たり前ではなくなってしまった. 大学の教員にとって,学生に面と向かって講義をする「対面授業」はあ

          オンライン授業準備どたばた顛末

          鵜飼保雄さんの訃報に接し,かつての記憶をたどる

          私が農林水産省の選考採用に合格して,4年半に及ぶ無給の “オーバードクター” 生活に終止符を打ち,つくば市観音台にある農業環境技術研究所(農環研)に赴任したのは,1989年10月のことだった.似合わないスーツで農環研に初出勤し,所長室で辞令を手にしたのち,5階の555号室に向かった.私の配属先は環境管理部計測情報科調査計画研究室で,今日からの仕事場になることが決まっていた. やや緊張しながら研究室のドアを開けたところ……誰もいない.マジですか…….部屋を間違えたか,といささ

          鵜飼保雄さんの訃報に接し,かつての記憶をたどる

          大学非常勤講師の給料をめぐるあれこれ

          いま話題になっているはてな匿名ダイアリー「残念ながら大学の非常勤講師の報酬額が安いのは「侮辱」ではない」(2019年11月17日)の記事中に「ある大学の専任教員が別の大学の非常勤講師をやるというケースはいまだに少なくない。ポスドクと違ってどういう動機で引き受けているのかわからない」と書かれているので一言. なろ城下町に本務地があるワタクシがずっと複数の大学で非常勤講師を兼業で続けてきたきっかけはもっぱら「知人から頼まれたから」ね.「〜大学へ出講してくれない?」という依頼は職

          大学非常勤講師の給料をめぐるあれこれ

          高座心得 —— 噺と紙芝居について

          ワタクシはこれまで数々の “お座敷” で “噺” をする機会を得てきた.参集したお客さんたちに「わざわざ来てよかった」と感じてもらえることが “噺家” としての研究者の責任だろう.この点については,1997年の「実践プレゼンテーションテクニック-講演はショータイム!-」から2016年の「国際会議学会発表ウラ心得」にいたるまで,一貫して変わらないワタクシの基本ポリシーだ. 大きな学会大会はもちろん,各種の講演会やシンポジウム,あるいはもっと小さなセミナーやサイエンスカフェまで

          高座心得 —— 噺と紙芝居について

          観音台の静かな日々 — 再雇用稼業備忘録

          昨年3月に農研機構を退職して,4月に再雇用(「専門員」)の身分となり,はや一年余りが過ぎた.退職前後のことどもについては,備忘メモ書きしておかないときっとそのうち忘れてしまうだろう.以下,思いつくままに: 収入が大幅に減る —— 退職前は月給計算,退職後は日給計算になるが,月額で言えばおよそ半額弱(4割〜5割)に減る.しかし,同時に,天引きされる控除額は約1/3になるので,実質的に毎月振り込まれる収入額はそれほど変わらないのが意外だった.なお,退職前は天引きされていた住民税

          観音台の静かな日々 — 再雇用稼業備忘録