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オンライン授業準備どたばた顛末

兇悪な病原体はきわめて短期間に人間社会に大規模な影響を及ぼしてきた.かつての “スペイン風邪(スパニッシュ・インフルエンザ)” の大流行からちょうど一世紀,今まさにパンデミックとなった新型コロナウィルスの猛威はすでに全世界に広がりつつある.そして,この新病原ウィルスが身の回りの日常の風景を劇的に変えつつあることは誰もがすでに感じ取っている.

そう,これまで当たり前だったことが当たり前ではなくなってしまった.

大学の教員にとって,学生に面と向かって講義をする「対面授業」はあまりにも当たり前すぎる伝統的スタイルだったはずだ.ワタクシだって何十年もそのスタイルを墨守してきた.ところが,新型コロナウィルスの蔓延とともに慣れ親しんだ「対面授業」がいきなり “禁じ手” になってしまった.

1. 情報砂漠に放り出される

ワタクシの日録(dagboek)をめくると,ほんの3週間前の3月18日(水)に,非常勤出講先の東京大学が全学的に “オンライン講義化” されることを初めて知ったのだった(→日録).この日,東京大学「新型コロナウイルス感染症に関連する対応について —— 総長メッセージ」が公表され,本郷も駒場もいきなり全関係者がゴールがどこかを確認しないまま全力疾走しはじめたのだ.

非常勤講師であるワタクシには公式ルートからの連絡はまったくなく,そのときは「コンピューター実習もあるし,高座のオンライン化なんてムリムリ」と他人事のようにつぶやいていた.ところが,翌3月19日(木)になると,オンライン化の大波がつくばにも次々と押し寄せてきた(→日録).本郷からの連絡はまだないが,学事歴通り4月9日(木)からSセメスター開講は既定路線なので,とりあえずひとりで何とかするしかない.

この頃に東大の “なかのひと” たち向けにはすでにオンライン講義のための「講習会」が始まっていたことをワタクシはあとで知った.学内には〈オンライン授業・Web会議 ポータルサイト@ 東京大学〉なるポータルサイトも開設され,本郷の “そと” にいるワタクシたち非常勤講師にもさまざまな情報があふれ出てきた.うかうかしてはいられないので,まずは Zoom のフリー版をダウンロードして,最低限のツールを自分の MacBook Pro にインストールした.しかし,これではまだ “丸腰” も同然だ.

2. Do it yourself!

翌日20日(金)からは本格的な “オンライン装備” を開始した(→日録).この日,東京大学大学院理学系研究科・理学部ニュース「新型コロナウイルス感染症に関する理学系研究科・理学部の対応について [pdf]」が発表され,理学部も学事歴通りに進めることが確定した.最初の2週間はオンライン講義の “準備期間” との位置づけだそうだが,くわしいことはわからなかった(公式連絡はまだないし).情報がないからにはとにかくひとりで何とかするしかない —— と “野原” で勝手に Zoom 環境づくりに励む週末(→日録).

教える教員側はもちろんジタバタせざるを得なかったが,教わる学生側も別の意味でジタバタしていたようだ.オンライン講義を聴くからにはそれなりのインターネット環境を学生が自分で用意しなければならないからだ.ワタクシが担当する「生物統計学」はもともとPC持参・ネット接続を受講の前提条件としていたが,その条件をいきなり一般化するのはムリがあるだろう.ネット環境が十分ではない学生をどうするかという問題はその後も長引くことになる.

週明けの3月23日(月)にはさっそく MacBook Pro 用のマイク内蔵Webカメラとリングライトを自費負担で発注した(→日録).やむを得ないとはいえ “ひとりで何とかする” のはいろいろムダや遠回りがつきまとう.翌24日(火)になっても公式連絡はないまま.おそらく他の非常勤講師たちも “蚊帳の外” のままではなかっただろうか(→日録).MacBook Pro と iPhone との間で “ひとりオンライン講義” の練習を続ける日々は続く.

フリー版の Zoom は参加人数(100名以下)や会議時間(連続40分)に制約があるので,東大が全教員と学生に配布している Zoom Pro を利用した方がつごうがよいのだが(500名以下・時間無制限),ワタクシにとっての大きなハードルは,そもそも東大公式の「UTokyo Account」をもっていないという点にあった.教務システム「UTAS」はその「UTokyo Account」がないとログインできない.これまで毎年そのつどそのアカウントを発行してもらったのだが,しばらくすると使えなくなるという不具合がずっと続いていた.今回もまずは「UTokyo Account」をもらわないことにはまったく先に進めない.

3. 本郷からやっと連絡あり

3月28日(土)になってやっと本郷から公式連絡メールが届いた(→日録).おそるべきことに「当専攻ではオンライン授業には Zoom ではなく WebEx を使うことになりました」と書かれていて目の前が真っ暗になってしまった.フリダシに戻ってしまったも同然で,ワタクシの時間を返せ〜.しかし,月末の3月31日(火)にふたたび専攻から事務連絡があり,「Zoom でも WebEX でもOKです」と態度がやや軟化した(→日録).専攻内でもさぞやジタバタの真っ最中なんだろうな.

東大、全部局の授業オンライン化を発表」—— 新年度の4月に入りいろいろ切迫してきた.全学部全専攻が全力疾走しているのを横目に,ワタクシは新規発行された UTokyo Account の入り口でまたしてもジタバタとあがき,やっとログインに成功した(→日録).その後はジタバタ劇が “倍速モード” になる.

4. 倍速モードの日々

4月3日(金)は,教務システム UTAS と学務管理システム ITC-LMS との間を行ったり来たりを繰り返し,シラバス内容の修正と講義関連情報のアップデートに勤しむ.その作業と並行して,Zoom Pro のインストールと利用法のお勉強(→日録).ECCSクラウドメール なる東大の Gmail システムも初使用.すべてが初物ぞろい.すべてがドロナワ.

東京大学大学院理学研究科・理学部からは「【重要】理学系研究科・理学部の授業等について」なるアナウンスが流され,よりくわしい開講情報が開示.その中には「一人でもオンライン授業を受講できる環境が整っていない場合には、開講しません」などと書かれているが,いったい誰がそれが “確認” するの? そんなこんなでジタバタあがいているうちに,一週間後にはオンライン講義がもう始まってしまう.

4月6日(月)になった.かれこれ1週間ほど本郷からの事務連絡が途絶えたままだが,とにかくひとりで何とかするしかない.UTAS がアクセス集中で激重になっているとのことで,急遽 ITC-LMS に足場を移すことになった.講義と実習に関する情報をいくつか掲示した(→日録).Zoom の安全性が問われる事態にもなったが,そんなこと今さら言われてもどうしようもないので,東京大学大学院理学研究科・理学部「【重要】Zoomを用いたオンライン講義を安全に進めるために [pdf] 」を頼りに “強行突破” するしかないだろう(→日録).初回講義前日の4月8日(水)にはオンライン講義のための “スタジオ” をセットアップした(→日録).とりあえず居室のリアル背景のまま初日に突入することになった.

5. そして初回オンライン講義試行日

初回講義日の4月9日(木)4限.ひたすらじーーっと受講生の来室を待っているのに,定刻を過ぎても誰も入ってこない.そんなバカなと思ったら,「会議室URLが間違っています」との連絡がメールやらツイッター経由で次々に届き,あわてて訂正するというお粗末なスタート.けっきょく最初の30分ほどはムダにつぶれてしまい,あわわわな初講義となってしまった(→日録).きっちり準備をしたつもりでもうっかりミスがいろいろあるものだ.

初回オンライン講義の報告を本郷に連絡したところ,オンライン化担当の先生から専攻内で配布されたというオンライン講義説明資料がいくつも送られてきた(どうせだったらもっと早くしてよねぇ).

次回以降オンライン講義はまだまだ続くが,きっと走りながらもジタバタしているにちがいない.

—— 以上,ここ3週間のできごとをワタクシの日録をふまえて経時的に整理してみた.ワタクシ自身 Zoom の利用法については初心者ユーザーのひとりに過ぎないし,オンライン講義もまだ一回しか体験していないので,ノウハウはないも同然だ.しかし,おそらくほとんどの大学のセンセイたちもまた,オンラインの授業に関しては “超ビギナー” なのではないだろうか.いま全国の方々の大学でオンライン講義をやるよう上の方から迫られている教員諸氏にとって何かの参考になれば望外の喜びである.

[2020年4月10日(金)]

※「後日談」はきっとあるにちがいない.

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