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ある “失踪本” を追い求めて

手元にあるはずの本が “失踪” してしまい,自宅に積み上がっている段ボール箱をあれこれ開封しまくったがいっこうに埒が明かない.いったいどこに隠れているのだろうか.職場からの全蔵書を引っ越しさせた〈プロジェクト撤収〉の “負の遺産” はときにこうして表面化する.

たいていの場合,探している本の方から「ここだよー」と声がかかるのだが,今回の本は沈黙を守っている.まさか貸し倉庫じゃあるまいな.探索本のほかにも関連する本一式が見つからないので,箱ごと貸し倉庫のどこかに紛れ込んでしまった可能性が高い.最密充填された倉庫の箱の中身を “展開” すればきっといつかは見つかると思うが,それに費やされる時間とエネルギーを考えると…….

しかし,やむを得ない事態なので,ある日をつぶして貸倉庫の段ボール箱の山を掘り返す肉体労働にいそしんだ.この倉庫には約300箱がみっしり詰め込まれている.それを一つ一つ引っ張り出しては開封して中を確認するという単純作業の繰り返し.にもかかわらず,やはり行方不明のまま姿を表さない.

ひょっとしたら倉庫の最下層にうずもれているかもしれないが,そこまで徹底的に探すのは時間と体力の浪費になるかもしれない.ここにいたって,「時間 versus 金」の二者択一が迫ってきた.たとえどれほど時間がかかっても網羅的に探索して標的本を見つけ出すか,あるいは “時間を金で買う” ことにしてその本をあらためて買い直すかという二択だ.緊急自分会議を開催し,ある程度のところでケリをつけて買い直すことを決議した.幸いにして,失踪した本は昨年出たばかりの新刊なので,2冊セットで3〜4万円出せばまた新品を買える.これなら傷は浅い(と思いたい).失踪したのが入手困難な古書だったらそうはいかないだろうから.

この日の貸倉庫探索は失敗に終わった.けっして網羅的ではなかったが,独力で進めるにはもう限界だったので,途中で段ボール箱を “埋め戻して” 原状回復した.貸し倉庫の場合,いったん掘り返したら最後に埋め戻すという作業までが仕事だ.

これをもって “失踪本” の捜索はいさぎよく打ち切り,買い直しのオンライン発注をすませた.来月中に届くとのこと.これにて一件落着.安くすんでよかった.

【教訓】段ボール箱に本を格納するときは,収納された本のタイトルとカテゴリーだけでなく,箱の収納本が移送前の本棚の “どこ” に所蔵されていたか,さらにその箱を倉庫の “どこ” に置いたかの記録(記憶)が重要 —— “場所” に覚えさせることは中世記憶術の基本中の基本.今回はそれをうっかり怠ったので本が “失踪” してしまった.


[後日譚(2023年9月3日)]後日,ふたたび貸し倉庫の天井まで隆起している段ボール箱の山を切り崩したところ,その最下層から捜索していたターゲット本が入った箱が発見された.拍手また拍手.そして,泣く泣くオンラインで買い直し発注した本をすぐにキャンセルし,ほどなく手続きはつつがなく完了したと書店から連絡あり.善哉善哉.

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