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映画『ビューティフル・デイ』 時間は起承転結ではない

昨年のカンヌの話題作。元軍人でイリーガルな仕事を請け負う主人公が、マフィアに囚われた少女を助ける依頼を果たしにいく話。
という話だと今までも色んな作品がありそうだが、本作がなぜ話題になったかというと、話の焦点が救出というよりは、主人公の内面の世界に置かれていること。
過去に父からの虐待に合い、父から母を守れなかったトラウマがこの男の心に深い傷跡を残している。その光景が現実世界と何度もシンクロし、その境目がときにわからなくなる。

これはある海外の映画批評家が言ってたことだけど、私たちは普段の生活において、映画のように起承転結の時間軸でものを見たり考えたりしているわけでは、必ずしもない。ときに強い思い出やトラウマに支配されたり、そのバイアスでものを判断する場合もある。
そのような認知の実際をこの作品ではガッツリ捉えており、特殊な物語の背景もあって、作品の個性を際立たせている。
原作の小説では、なぜ少女が囚われたかについての諸々の背景が描かれているそうだ。少女の祖父が偉大な政治家として知られていたが、実はマフィアと結託していた過去があり、祖父の死後、そのことを知った少女の父もマフィアと手を握ろうとするが、条件が娘(少女)を差し出すことだった。さすがに冗談だろと思い応じたところ、本当に拐われたという悍ましい経緯がある。しかし監督はその経緯をほぼバッサリ省いている。

映画はせいぜい2時間という尺の制限があるので、小説のようにすべてを描くわけにはいかない。どこかで端折るか、因数分解のように話を丸めていかなければならない。しかし、(原作を知って)ここまで原作を大胆に削るのも珍しいなと思いつつ、残したものが非常に説得力があり、切ない。

主人公の見えている世界は、少女の内面とシンクロしていく。観ている側も傍観できない作品だ。

最後は「??!!」となるが、そこは原題でもある「You were never really here」という言葉がキーワードになる。

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