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少女たちの通過儀礼(自由詩)

今日はお祭りの日。少女たちが大人になる日。男の子は自分で大人にならなくてはいけないから大変だよね、という話は誰もがしているんだろう。夏、秋、冬、春きっちり指を折って数えて、15回。私たちは生と死の隣で息を止めないだけでよかった。私たちは16回目の夏を迎えるための儀式を受ける。
儀式の場は、この島の真ん中、つまりこの島の一番高いところにある。この島ははじからはじまで歩くのに、ちょうどアイスクリームが溶けきるくらいの時間しかかからない。といっても、私はアイスクリームを食べたことがないけれど。この島のずっと先には朝からまた次の朝まで、ずうっと光を放ち続ける建物があって(蛍のような光ではなくもっと暴力的な明るさらしい)そこではアイスクリームというものがあることを知っているだけだ。儀式の場までは坂道を登らなくてはいけないから、その冷たくて魅力的なもののことを、舌の上で、(もちろん実体はないのだけれど)味わっていた。そんな坂道で、島のずっと先の人たちが、液晶に移る花火や海やスイカ、夏のモチーフたちに顔を照らされて微笑んでいた。私はそうやって笑ってみようとしたけれど、うまくできなかった。私の身を包んでいるものと同じ形の、もっと華やかな布をひらひらとさせながら。憧れと憧れのはざまに存在する空白のようなものに足をすくわれる。それらは決断を揺るがす悪意。私はすれ違った人々の顔を、何度も何度も振り返りたくなった。でも、それはだめです。それは決まりなのです。もう儀式は始まっているのです。私はどこに向かっている?もしかしたら私は振り返またかもしれない、と不安になる。洞窟につきました。お囃子やざわめきももう聞こえず、静謐な空気がひしめき合っている。儀式はとても簡単なもので、私の背丈くらいの大きさの石をなぞって、ものごととものごとの間を、星と星をつないで星座を作るような要領でかたどっていけばいいのです。私は指先で石に触れた。ひんやりとした感触が皮膚から手首、腕、肩、背中、腰、足、つま先、同時に首、という風に、一度瞬きをするうちに体中に広がった。そして、とても自然に一つの雫がまぶたからするりとこぼれ落ちた。それは、形容し難いたくさんの感情からの解放であり、不可算の広がり続ける苦しみからの救済であり、与えられるということは、何かを失うこと。喪失感、という言葉で表しきれてしまうその感情に絶望。私は大人になってしまった。
洞窟を出ると、世紀末のような夕暮れが空一面を染め上げていた。でも、私はもう大人だから、世界が終わらないことを知ってしまった。世界は簡単に形を変えられるから頑丈であるということも知ってしまったのだ。そんな夕暮れの中を私はただ歩いた。

文学部の文化祭で配布する部誌に載せる用に書いたものです。川上未映子さんの水瓶を読んでいて、どっぷりその世界に浸かっていて、そういう気分だったんだと思います…中学生のころ、私はまあそれなりにちゃんと思春期が来て、平たく言えば、つらかったですかね…そんな話とともに解説(?)的なものを書いたのでお時間ある方はぜひ!

部誌を読んでここにたどり着く人もいるのかなあ…

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