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likelyの意味は「みたいなみたいな」?形容詞と副詞を作る接尾辞の*-ly

素朴な疑問だが、既存の形容詞[adjective]にlyをつけると、副詞[adverb]にする事ができるのはなぜ?ということを今日は考えてみたい。

毎度毎度で恐縮だが、文章が長いので、長い文章を読んで考えることが好きな方はこの先へどうぞ。

さて、その前にまず形容詞とは何か確認しておきたい。wikipediaによると、形容詞は以下の説明がされている。

形容詞(けいようし)とは、名詞や動詞と並ぶ主要な品詞の一つで、大小・長短・高低・新旧・好悪・善悪・色などの意味を表し、述語になったりコピュラの補語となったりして人や物に何らかの属性があることを述べ、または名詞を修飾して名詞句の指示対象を限定する機能を持つ。

なお「形容」の意味は以下の通り。

① 物事の姿・状態・性質などを言い表すこと。 「この美しさはとても言葉では-しきれない」
② 物のかたち・ありさま。人の姿かたち。 「巌や山や幽邃なる森林や、其色彩-/小春 独歩」

物事について言い表す、とは形容詞の役割そのもの。文法用語も英語で理解できるようになるといいと思うので、少し触れておくと形容詞は英語でadjectiveである。このラテン語起源のadjectiveの意味や語源は、ad(-に向けて)+iacere(投げる)。おそらく投げられたものを受け取る側なのが、「修飾される単語」なのだろう。形容詞は「何かに向かって投げられた」もの、そのものなのだろう。
(余談だが古典ラテン語とその古典ラテンアルファベットでは「J」が無かった。専ら「I」が使われていたが、この「I」の形を加工してJが作られ、Iの持っていた役割の一部と一緒に分離した。小文字の「i」と「j」が似ているのはそのためである)
このject(ive)という形態素(morpheme)だが、結構使われている。余談だが、ジェットエンジンのjetも同じ語源であるし、様々な接頭辞を(prefix)をつけると多様な単語が出来上がる。

前に(pro)投げる  >>  project[n]計画、企画 [vt]見積もる、投影する
超えて(trans)投げる  >>  trajectory[n]弾道、軌道、コース、軌跡、進展
中へ(in)投げる >> inject[vt] 注射・注入する     *cf   injection[n]注射
下に向かって(sub)投げる  >>  subject[n]主体、主観、主題 [vt]服従させる
対い(ob)に投げる  >> object[n]物体、対象、目的 [vt]反対する
投げ返す(re)  >>  reject[vt]拒否・拒絶する、突き返す、[n]不良品、不適合品
外に(ex)投げる  >>  eject[vt]追い出す、追放する
離して(ab)投げる  >>  abject[adj]惨めな
間に(inter)投げる  >>  interject[vt]不意に言葉を挟む
(※なおこれらの単語が同じ形で、名詞や形容詞の意味と、動詞の意味の両方を持って存在している場合は、名詞と形容詞では前側にアクセントが来て、動詞の場合は後ろ側にアクセントが来る。)

なるほど、思わず口をつくようなwow、oh、ah、well、urghなどは、interjection「間投詞」と呼ばれる。まさに「間に投げ込む言葉」である。昔の日本人は外国語を学んだり、その概念を日本語の中に持ち込む時には、本当に工夫したんだろうなぁ、と思わせる。ただ言葉尻を捉えるのではなく、単語を概念として理解しようとする、これはより高度な思考や、抽象的思考である。明治の文豪 森鴎外は「ヰタ・セクスアリス」という本の中で、「外国語を覚えたきゃ、語源を学べ」的なことを説いている。昨今はほとんどの場合、カタカナでそのまま外来語を入れてしまう。中には日本語の単語があるのにもかかわらず、英単語を使っている。これは単語を抽象的・概念的に考える機会を奪っている気がする。単語や言葉は、その物事や事象、概念の表面に貼られたラベルに過ぎず、あくまで呼び名でしかない。新しい単語に出会ったらその意味をよく考える癖をつけていきたい。だいたいの世の知識人はそう言った思考回路を持っている。概念的理解をせずにただ外来語をカタカナで使うのは私はあまりしたくはない。と言うか、本音を言うと外来語の氾濫と過剰借用にウンザリしている。クォリティは「質」で良くないか?ただし、ルー大柴はネタ(つまり「なんちゃって」であり、あれは彼の世界観である)でやってるからあれはあれで良いと思っているが・・

なお、副詞は英語はadverbで、ラテン語のadverbumに由来する。ad(に向けて)+verbum言葉/動詞、という意味だ。現在の英語でも「動詞」を意味する単語はverbである。verbという単語自体は名詞[n]で、「動詞」以外の意味は持っていない。(←わかりづらい表現だがご容赦いただきたい)
しかし、verbの派生語であるverbal[adj]の主な意味は「言葉の」「言葉による」「口頭の」などで(使用例verbal violence=言葉の暴力、verbal acceptance=口頭承諾、といった使われ方)あり、こちらにはラテン語verbum「言葉」の意味が残っていて、後ろの方にこっそりと「動詞の」という意味が記載されている。

つまり副詞adverbは動詞に向けて作用するもの、といった感じの由来と思われる。

さて、形容詞の話に戻る。余談だが、せっかくの勉強なので形容詞には2つの用法があるらしいことにも触れておきたい。その二つとは叙述用法限定用法だそうな。叙述用法(predicative)は、接続動詞(主にbeだが、他にもlook、seem、sound、appear、feelなどあり。ここでは全て自動詞[vi]として使う)と一緒に使われて主語の状態・形態や様子などを表す使い方。限定用法(attributive)は、通常 名詞の直前に置かれて、その名詞を言い表す使い方である。例えば以下のcrowdedように。

◆叙述用法(predicative)
The bus stopping at this bus stop is/looks/seems/becomes so crowded.
◆限定用法(attributive)
The crowded bus has just stopped at this bus stop to let none of us in. 

predicativeという単語自体は形容詞[adj]なのだが、何から派生したかというと動詞のpredicate[vt]断定する、と思われる。これはラテン語のpraedicareがprae(前に)+dicare(言う)、つまり「きっぱりと言う」という意味であった事がその由来であると思われる。つまり、「これは、誤りである」="This is wrong!"というようなことを言う時、我々はやはり「である」「です」「だ」などと断言している。この時の上記wrongは叙述用法である。

他方、attributive[adj/n]の由来となる動詞はattributeである。ad(に対し)+tribute(与える)という語源で通常のこの単語の意味は、名詞では「属性・特性・特質」、動詞では、〇〇を(to 〇〇に)帰属すると言った意味。例えば下記の例文のように。

PM Boris Johnson attributes his recovery from COVID-19 to huge efforts of nurses who took care of him very hard.
ボリスジョンソン首相は、自身のCOVID-19からの回復は、彼を懸命に看護した看護師らの努力による(=努力に帰属する)ものだ、とした。

つまり限定用法の形容詞は、直後に来る名詞に属性や特性を与える、という役割をしていると思われる。

例えば、Our new car has 5 seats「私たちの新しい車には、5つ席がある」というときのcar車は、ただの車ではない。newは車に「新しい」という特徴を与えている。ちなみにだがこのour new carは「私たちの新しい車」ということでこの車が中古車(second-hand)でも新品(brand-new)でもどちらでもあり得る。「新しい」というのは「新たに手に入れた」ということなのであり、新車か中古車か知りたければ相手に聞くしかない。

形容詞についての考察はこの程度にして、今日の本題である、形容詞を動詞化する接尾辞「*-ly」について考えていきたい。ところでだが、この「*-ly」の接尾辞には2種類ある事をご存知だろうか。

*-ly (1):名詞を形容詞化する接尾辞。かつて古英語では"-lic"と綴って名詞の語尾につく接尾辞であった。意味的には「○○の特質/性質を持つ、○○に適した」であった。語源を遡るとゲルマン基語では*-liko**という形であった模様。
*-ly (2);形容詞を副詞化する接尾辞。slowly[adv]ゆっくりと、commonly[adv]普通に、totally[adv]完全に、などが例。古英語では"-lice"と綴って形容詞の語尾などにつく接尾辞であり、「○○に示された風の」といった意味であった模様。語源的にはゲルマン基語の語根 *-likoに遡る。

上に見たように、(1)も(2)も同じ語源にたどることが出来るということである。これらの一番元となる語根*likoは「外見・外観・形」を意味した語根*likom-と非常に関連が深い模様。これらの*liko*likomが生き残っている単語が現代英語にある。それは何かというとlike[adj/adv/prep/conj]=〇〇みたいな、である。

この「○○みたいな」を意味するlikeは、
ゲルマン基語・語根*(ga)leika-(=ga共に一緒に+lik体、形、で同じ形の、一致する体・物、の意味) 。
>>古英語 gelic(〇〇的な、〇〇に似た、の意味)
>>中英語lik (y-likの短縮、同じ特徴・性質を持つ、の意味)
という経緯を経て現代のlikeになった。

なお、古英語に時代に保たれていたゲルマン語系の接頭辞geが脱落する例は、別に珍しくない。現代英語のsound[adj]健全な(音のサウンドではない)、は、かつては古英語でgesund(健康の意味)と綴られていたが、後に語頭の"ge"が落ちた。さてドイツ語を知っていたり、ドイツ語圏出身の人と交流のある方はgesundという単語を見てあることに気づくことがあるに違いない。

欧州語ではクシャミをすると嘗て猛威を振るった伝染病の恐怖の名残から、クシャミをした人に一声かけてあげるといったことが日々の営みで行われている。
英語圏では誰かをクシャミをしたら"Bless you!"と言う。これは嘗て言われていた"God bless you!"のGodを省略したものである。なるほど、西欧や西欧語ではどんどん宗教の影響が薄らいでいることも読み取れる。なおスペインではクシャミをした人に "Jesús(イエス(・キリスト))!"と言い、イスパノアメリカでは"Salud(健康)!"と言う。スペインも若年層を中心に宗教の影響が薄くなる傾向だが、言語的にはなかなか直接的な表現が残っている。イタリア語では、"Salut(健康)"らしい。これは言わずもがな、黒死病(ペスト)が猛威を振るったときにクシャミがペストと死への入り口だったこともあり、クシャミをした人を案じる間投詞interjectionを言うようになったと言うことである。

そしてドイツ語圏ではクシャミをした人には"Gesundheit"と言ってその人の体調を案じる。「何を言うにもドイツ語は単語や表現が長い」と揶揄されるドイツ語だが、英語、スペイン語、イタリア語の2音節に対し、しっかり3音節でキメてくるあたりはさすが。期待を裏切らない。フランス語は3つの単語を合わせて"À tes souhaits"で4音節だが、一つの単語ではドイツ語がやっぱり長い。このGesundheitだが、古英語gesundと同様「健康な」を意味し、語尾のheitは「状態」といった意味であろう。英語のfreedomがドイツ語ではfreiheitとなることから推察できる。

話が脱線したが接尾辞の *-lylikeの語源は、「同じ形・特徴の」を意味する*liko*leik*likomなどのゲルマン基語の語根にたどり着くことがわかった。今日はあまり深く触れないが「好き」「好む」の意味のlike(2)[vt]の語源もこの*lik-(形・体)である。同じ形・似た様な体 >> 適した >>好ましい・好む、と言った発展をしたと推察されているが、これがなぜ「好き」「好む」の意味のlikeになったかはあまり明確ではないらしい。

さて-lyとlikeは語源的にかなり近しいのであれば、個人的には、形容詞を作る*-ly(1)などはlikeの「〇〇みたいな」の意味をそのまま持ってこれる場合が多いと思ったりしている。

manlyは「男みたいな」、heavenly「天国みたいな」、homely「家庭みたいな」と言った格好であるが、全ての場合に当てはまるという事はないかもしれない(earthly[adj]は「全くもって」の意味が頻度が高く、「現世の」「地球・地上の」と言った本来の「土・地面・地球」の意味も辞書では後ろに記載されている)。

なお、日本語で言う「アットホームな」は完全に和製英語であり、英語では使えない。言うのであれば、homely(英)やhomey(米)が良いのではないか。なお余談だが求人内容に「弊社はアットホームな職場」と記載されていることが結構あるのだが、その職場にいる人たちが「自分たちはアットホームだ」と感じているのと、あなた自身がそれを本当に「居心地がいい」と感じられるかは別問題だと思うので、ぜひ注意していただきたい。

一昔前に日本でも若者言葉で「みたいな?」が流行ったことがあったと思うのだが、アメリカのTVシリーズで、若者が"He was like 'Meh, that's not funny..'=「彼ったらね、『うーん、それおもろくないね…』みたいな)感じ)?」、と言ったような話し方をするのと同じ様なもんだなと思っていたことがある。なお、上記の文章は厳密に文法に従うと、"He said (like): "Meh, that's not funny.."である。

さて、今日のお題は接尾辞の *-lyであったが、最後に面白い単語をご紹介したい。それがこの記事の題名に出てきたlikelyである。上記で見た様に*-lyはlikeと似た意味なので、このlikelyの単語の元々の意味としてはlike-like「〇〇みたいなみたいな」なのである。若干過剰な気もするが、日本語にも、「収納」「狩猟」など同じ意味の言葉を重ねていることもあるので、まぁここはご愛嬌ということで。

Photo by Amador Loureiro on Unsplash

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