壊れながら進化する 自律分散型組織の可能性
壊れながら成長するシステム
福岡伸一氏の著書に登場する「生命」や「宇宙の大原則」において、エントロピーの概念が示されていました。ここでは、このエントロピーの視点を踏まえ、自律分散型組織が未来の成長にどのように貢献できるかを考察します。
エントロピーと生命の動的平衡
エントロピーとは「乱雑さ」を指し、あらゆる物事が時間とともにエントロピーの増大に向かう性質を持っています。
福岡氏は、生命体とは破壊と再生を繰り返しながら機能する存在であり、体内のシステムもまた、各器官や細胞が自律的に壊れた部分を補完することで成り立っていると述べています。つまり、生命は全体を一元的に制御するのではなく、各部分が独自に機能し、相互に関わりながらバランスを保つ仕組みです。
このような「自律分散型」の原理は、組織にもそのまま適用できると考えられます。人間が自律的に行動し、他者との相互補完によって課題を解決するように、組織もまた内部や外部の力を活かしながら困難を乗り越えることができます。それは、むしろ自然な組織の在り方といえるでしょう。
自律分散型組織の意義
従来のヒエラルキー型組織では、管理者がトップダウンで組織全体を制御することを前提としていますが、複雑な現代社会ではその限界が見え始めています。環境変化が激しい中、全員が一斉に上からの指示を待つ余裕はなく、一人ひとりの自律的な判断と行動が求められています。
自律分散型組織とは、各部門や個人が独自に判断しながら連携し、共通の目標を達成するために行動する組織体です。
自律分散型組織がもたらす成果(一例)
• 迅速な意思決定:現場で即座に対応でき、全体の合意を待つ必要がない。
• 柔軟な対応力:各部門が環境の変化に合わせて役割を再調整できる。
• 組織の耐性:問題発生時も他部門がサポートし、全体が崩れない。
• メンバーの自己実現:一人ひとりが自分らしく働け、幸福感を得られる。
• 持続的な成長:主体性を促し、組織全体の創造力を高める。
相互補完の力を活かした組織づくり
自律分散型組織では、各部門が全てを完璧にこなす必要はなく、互いの強みを活かして不足を補い合うことが重要です。課題が発生した際は、特定の責任者に依存するのではなく、各自が主体的に関与し、必要に応じて他者と協力しながら解決する文化を育む必要があります。
また、外部パートナーや他組織との連携も不可欠です。内外の境界を超えた協力は、複雑な問題に対する対応力を高め、持続的な成長につながります。
本当に自律分散型組織は必要か
しかし、すべての組織が自律分散型へと移行する必要があるわけではありません。組織の価値観が調和し、目的に沿った運営が実現できているのであれば、無理に自律分散型へと転換する必要はないのです。兆しのない無理な移行は組織に違和感や不和を生み出すことになります。
自律分散型組織への変容が必要な場合
もしも変革が必要であれば、経営者や管理職は従来の「管理」重視の姿勢を見直す必要があります。すべてを統制するのではなく、まずは、各メンバーが自らの役割を果たし、自主的に問題に向き合える環境を整えることが重要です。そのためには、組織内の価値観の状態はもちろん、組織風土、文化の整備が欠かせません。何をどう育むのか、何が必要で、何が欠けているのか等を見極めることが求められます。
最後に
組織もまた生命のように「破壊と再生」を繰り返しながら進化する存在との視点を持つことで、うまく機能しない部分があっても、他の要素がそれを補完することで、持続的な発展が可能となります。このように「自然の働き」に基づく組織運営こそが、宇宙の大原則に沿った在り方といえるでしょう。
このような視点を通じて、皆さまの組織が持続的な発展を遂げるためのヒントや自律分散型のアプローチが必要かどうか、組織の未来を再考するきっかけとなれば幸いです。