見出し画像

まるでアート作品?あなたも現代詩集「死んでしまう系のぼくらに」の虜に。

冬真っ只中、本当に冷える日が多い今日この頃。
椿が見ごろを迎える季節ですね・・・
というわけで今回は椿にちなんで、「現代詩花椿賞」を受賞した現代詩集を紹介したいと思います!

その名も「死んでしまう系のぼくらに」

感覚としては現代アートに近く、考えれば考えるほど言葉の沼に落ちて行ってしまいそうになる作品です。読書は好きでも詩集には手を出したことなかった・・・!という方は是非、2021年は今まで読んだことのなかった新ジャンルの本にも挑戦してみませんか?

まずはじめに作者である最果タヒさんと現代詩花椿賞についてご紹介。
そして私が素敵だと感じた詩を3つほど考察させていただきます。
是非皆さんも一緒に、不思議でどこか儚い現代アートを眺めてみませんか?

00:最果タヒさん・現代詩花椿賞って?

今回ご紹介する詩集「死んでしまう系のぼくらに」を生んだのは、詩人・作家の最果タヒさん。
彼女は1986年生まれで、2008年に第一詩集「グッドモーニング」で中原中也賞を受賞したのち、2015年に「死んでしまう系のぼくらに」で現代詩花椿賞を受賞しています。

2020年12月には、東京・渋谷にてインスタレーション個展が開かれていました。(コロナが無ければ本当に行きたかった・・・!涙)

インスタレーションとは、室内や屋外などにオブジェや装置を置いて作家の意向に沿って空間を創り出し、それ全体を作品として体験させる芸術のことです。
彼女の作品にすごくマッチしている表現方法だと私は感じました。

彼女の個展サイトや公式サイトを見るだけでもなんとなく世界観を掴むことが出来ますが、一番のオススメはひとつでも良いので彼女の詩を読んでもらうことです。

そしてそんな彼女が受賞した現代詩花椿賞とは・・・?
これは資生堂がメセナの一環として主催していた現代詩の詩集を対象とした文学賞で、資生堂発行の月刊誌「花椿」にて発表されていました。
しかし少し寂しいことに、この賞は全35回で終了しています。
ちなみに「メセナ」とは企業が行う文化・芸術活動に対する資金支援のことで、語源は文芸を庇護した古代ローマの政治家マエケナスからだそうですよ。

さて、作者や賞について紹介させていただきましたので・・・
いよいよ私が本書で素敵だと感じた詩を紹介させていただきたいと思います((
それでは、いってみましょう~!

01:望遠鏡の詩

死者は星になる。
だから、きみが死んだ時ほど、夜空は美しいのだろうし、
ぼくは、それを少しだけ、期待している。
きみが好きです。
死ぬこともあるのだという、その事実がとても好きです。
いつかただの白い骨に。
いつかただの白い灰に。白い星に。
ぼくのことをどうか、恨んでください。
望遠鏡の詩/本書7ページ

誰かを想うことの美しさ、儚さ、醜さが渦巻いているような詩。

「死ぬこともあるのだという、その事実がとても好きです」
私はこの一文に趣があると感じています。
人間をはじめとするいま存在している全てのものは、やがて死ぬから、無くなるから、変化するのだから愛おしいのであるという諸行無常。
それを単純に言葉に起こすのではなく、星や愛に想いをのせて詩を紡ぎ出しているのがたまらなく素敵です。

そして後半ではこの詩をただ神秘で美しいものとして終わらせずに、愛ゆえのジレンマ的ダークな感情も添えているのが人間味を滲ませています。

また、詩のタイトルを「星の詩」や「夜空の詩」とせずに「望遠鏡の詩」としている所にも彼女のセンスが光っていると思いませんか?
きっと、それらの星や夜空を眺める側視点の詩なのでしょう。

02:香水の詩

女の子の気持ちを代弁する音楽だなんて全部、死んでほしい。
いろとりどりの花が、腐って香水になっていく。
私たちが支配したいのは他人の興奮だなんて、どうしてみんな知っているの。
豊かな化粧品・洋服。私たちは誰にもばれないよう、
獣に戻りたかった。
うすぎたない匂い。火事にとびこんだらすぐに、
裸にならなきゃいけない。そう習った夜。
死ぬな、生きろ、都合のいい愛という言葉を使い果たせ。
香水の詩/本書53ページ

さて、お次は少し作者の謎めいた部分が色濃く反映されている詩ですね。
資生堂がこの詩が含まれた詩集に賞を贈ったのかと思うと、結構攻めていて好きです(笑)

「私たちが支配したいのは他人の興奮」「都合のいい愛という言葉を使い果たせ」
ただ儚いだけじゃない。
胸が苦しくなるような、寂しくなるような、大人の女性を連想させるような詩。

先ほどの詩では「愛」の愛たる所以のようなものを考えさせられたのにも関わらず、今回の詩では「都合のいい愛」・・・
愛というものが如何に難しい感情なのか、考えさせられます。

花が綺麗に咲いてそれから香水になってしまうという過程は、だれかの生き様を比喩にして表したものなのでしょうか?
その真意は作者のみぞ知る、といったところですね。

この詩は他にも「獣」や「火事」など、花や香水の可愛らしい世界観に合わない言葉がチョイスされています。
なにかこれらにも隠されたメッセージがあるのかも?

小学生の国語の授業でするような詩についての議論を、この年になってもう一度してみたいものです・・・十人十色の考察が生まれてきそうでドキドキします。

03:花束の詩

私は美しいことを言えない
美しい顔を持たない
美しい服は似合わず
あなたに美しい感情を抱かない
ただ、あなたが二十年ほど前どこかの病院で生まれたこと
家族や友人に愛されてきたこと
それを推し量ることが出来る
私の人らしさはそこにしかないのです。
花束の詩/61ページ

愛を超えたその先にある、とてつもなく落ち着いた感情の最終形態を見せられているかのような詩。

私は最初、この詩集にはあまりにも前衛的で斬新な詩が多いので、作者はとても若い方なのかと思っていたため、「こんな落ち着いた詩も創れるのか」と思っていました。
しかし作者である彼女の年齢は2021年現在で35歳。
それなら納得、ある程度年を重ねた人にしか出せない達観した雰囲気があるからです。

香水の詩を踏まえて書かせていただきますと、文字通り「愛を使い果たした」その果てにあるかのような詩・・・。
冷めているのか、疲れてしまったのか、はたまたこれが彼女にとっての愛の究極のカタチなのか。

私は個人的に少しの冷静さを感じたのですが、誰かの「生」と「受けてきた愛」を推し量ることが出来るというのは最大の敬意のようにもとることが出来るのではないかと思いました。

…みなさんはこれらの詩から、どんな世界を読み取りましたか?

この詩集では、想像力を掻き立ててくれる詩から、読めば読むほど思考を奪われるような、絶対にわかりっこない!という詩まで、様々な最果タヒワールドが繰り広げられています。

「でも最果さんの詩集って何を選べばいいのかイマイチわからない・・・」
「同じ作者の作品でも色々あって迷ってしまう・・・」
そんなお悩みには、なんと作者本人が答えてくれています!

これまで詩集には興味が無かった、なんていう人がひとりでもこれをきっかけに詩集デビューしてみてはいかがでしょうか?
意外とハマってしまうかも。

というわけで今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
他の本紹介の記事も、コチラのマガジンからお楽しみいただけますので、是非チェックしてみてくださいね。


この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

よろしければサポートよろしくお願いいたいします!