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「昨夜のカレー、明日のパン」〜繊細な文体 ・ 斬新な読み方〜

私は読書が好きです。
しかし今まで小説はあまり読んでこなかったんです。

そんな私ですが、いま「#読書の秋2020」で課題図書となっている「昨夜のカレー、明日のパン」という本を本屋で偶然見つけ、なんとなく手に取ってみました。
これが中々運が良かったみたいで…とても素敵な作品だったので、今回こうして記事にしています。

先に言ってしまうと、私はこういったじんわり感動するタイプの小説は苦手だったのですが、この作品は全くそんなことなく、なんなら泣けるほどのものでした。
そして小説で涙が出たのは夏目漱石の「こころ」を読んで以来はじめてです。
何気ない日常ストーリーなので、大どんでん返しなどはもちろん無いのですが、それでもページをめくりたくなる、一文一文に魅力がある素敵な本でした。

そして今回の記事では、私の心に残ったシーンと、作品の意外な楽しみ方について想いを綴らせていただきます・・・!

00:それって、どんな本?

あらすじ
7年前、25歳で死んでしまった一樹。遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染みなど、周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。
引用:「BOOK」データベース

本作は、第11回本屋大賞第二位を受賞した作品で、2014年から実写テレビドラマ化もされている作品です。
読んでみるとなるほど、多くの人に認められている作品である理由がとてもよくわかります。

物語の内容的には、何気ない日常の一コマ一コマなのですが、文や言葉のひとつひとつが繊細で魅力的。
素朴なのに、芯がある。私がこの本から受けたのはそんな印象です。

中でも、

タカラは、今、私はファスナーの先端だと思った。しっかりと閉じられているこの道は、私が開けてくれるのを待っている。/本書73ページ

という一文は本作の代表的な比喩表現で、読者の中でも人気な言葉のようです。
私にもお気に入りのシーンがあるので、後々紹介させてもらいますね!

01:パワースポットをつくる話。

まず本作は、ほっこりするストーリーなのに、出てくる人物の設定が結構突飛なんです。
しかしそこに違和感はなく、ごく自然。読者にそう思わせる文才が恐ろしいです。

本を開いて初っ端、死んでしまった旦那の父親(義父)と2人きりで生活している主人公、テツコが登場します。
・・・「どういう展開を見せてくれるんだ…」と興味がそそられませんか?(笑)
読者を物語の世界に引き込むのが本当に上手だなあと思わずにはいられませんでした。

なかでも私がお気に入りのシーンは、暗い状況にある3人が、明るい未来に向かって歩んでいこうとするシーンです。

その3人とは・・・

・深刻な病状の患者の前でも笑ってしまう産婦人科医
・笑い方を忘れた客室乗務員
・正座できない寺の坊主

…なかなか面白くないですか?
産婦人科医と客室乗務員がこうなってしまったのは神経の病気が原因で、坊主が正座できなくなってしまったのはバイク事故が原因です。

みんな人生に何かしらの波乱を抱えているのかもしれない。
この3人はかつての同級生であり、久々に再開したかと思えば散々なお互いの人生が面白く、みんなで一緒にパワースポットにでも行こうか、という流れになります。
しかしこの3人は後に、パワースポットをつくってしまうことになるのです。

パワースポットをつくってしまうってどういうこと・・・?って思いませんか?
…この3人はのちにあるお店を開こうと計画するのです。

「ああ、店の名前『パワースポット』にしようかって、坊主の考えることは違うよな」

パワースポットにすがろうとしていた三人だったはずなのに、パワースポットをつくってしまえという発想になってしまっていることがおかしかった。/本書72ページ

ということなんですね。なんとも言えない良さがあって、意外性があって。
私はココが個人的に気に入っているシーンです。

また、この坊主さんがなかなかハイカラで、正座ができなくなって「脱サラ」ならぬ「脱テラ」だ、いいねえ、なんて笑っているような人なんです。

何気ない会話、何気ない生活の切り抜きに、あたたかさと愉快さがあって。
実はこの作品は物語全体を通して、「死」が絡んでいるのですが、まったく重くなく、なぜか心が温まる。本当に不思議な魅力を持った物語です。

02:ぜひ、斬新な楽しみ方を!

さてこの作品は、短編が連続してひとつの物語となっている作品なのですが、私はこれを知らず、短編どうしが独立している作品だと勘違いしていました。

なのでこの本を手に取った私は、まず本を開き、目次を眺め・・・
なんとあろうことか、最終章から読んでしまったんです。
俗に言うネタバレ、ですね。(笑)

最初は「ああ、やってしまった…最後はこうなるのか…」と思ったのですが、せっかく久しぶりの小説だったので、そのまま読み進めることに。
しかし私は、これが結構吉と出たかな、と思うんです。

はじめに結末を知って、そこに行きつくまでに、主人公の感情がどう変化していくのか、その周りの環境や時間がどう流れていくのか・・・そんなことを考えながら読み進めていくのが、案外楽しかったです。

そして私は、実はネタバレというのは私たちが想像しているより悪いものではないのでは、と思います。
このことに関して、より物語に没頭できる、考察がはかどる、流れが掴みやすくなるという意見も多くあるようです。
普段の読書とはまた一味違う楽しみ方をしたい、という方は是非試してみてください。
本作は、ネタバレ読書にも向いている作品なのではないかと、私は密かに思っています(笑)
是非皆さんの読書ライフのスパイスにしてみてください!


・・・ということで今回は「#読書の秋2020」の課題図書である「昨夜のカレー、明日のパン」で心に残ったシーンと、意外な楽しみ方について執筆してみました!

個人的に、ゆったり時間が流れる系の小説で、退屈にならなかった作品がはじめてで驚いています…
せっかくの読書の秋なので、こういったいつもと違うジャンルの本に挑戦してみるのも新鮮で良いですね。記事も書いていて楽しかったです。

最後に、これからこの作品を読む人へ、本の最後にある「解説」もしっかり読むことをオススメします!!
有名な作家である重松清さんの、なんとも深イイ解説なんです…
きっと物語をまた別の角度で、最後の最後まで楽しむことができますよ。

…それでは今回はこの辺で。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

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