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LDB出版部#2 コンセプター 谷口正和が語る①「ライフデザイン」

「ライフデザイン」という言葉は今では一般的に聞かれるようになりましたが、40年前に「生命、生活、人生の在り方を問うライフデザイン」を標榜し社名にもした、マーケティング・プロデューサー谷口正和氏に、地球と個人の時代を見据えてコンセプトを生み続けてきた、この40年と未来を語っていただきました。

■ これまでの40年間を振り返って

これまでの40年間を振り返ると、企業も個人も「考える」ことが圧倒的に不足していたといえます。大量生産・大量消費による成功体験をいつまでも引きずり、それによって変化に対する柔軟性や対応力が失われたことが、現在の様々な社会課題の要因になっていると考えています。

近年、ビジネスシーンをはじめ様々なところで「シンキング」という言葉が使われていますが、これも裏を返せば「自分で考える」という当たり前のことが抜け落ち、慣例に従うことが体質化してしまっているといえます。

そもそも、企業の存在意義は生活者の課題を解決することです。自分たちが何のために存在しているのか、どんな問題を解決するための事業・サービスなのかをしっかりと自問自答し、そのことを発信する。そしてそれを受け取る生活者も、企業の本質的な部分を理解・共感し、応援の意味を込めて商品やサービスを購入するというのが本来のあるべき姿です。

しかし、実際は最も重要であるはずの本質やコンセプトを伝えようとはせず、割引やクーポンによって顧客を獲得するという仕組みが定着してしまっています。

課題解決にもつながる「生き方への問いかけ」を

かつては多くの人が物を持つことで幸福になれると考え、物に豊かさを求めていた時代でした。そのため、そうした販促が企業の利益につながっていました。しかし、今なおその成功体験から抜け出せず、闇雲に同じことを繰り返していることが、現在の企業活動における大きな問題点といえます。

さらに、そうした過剰な物への欲求が、結果として多くの物が使われもせずに廃棄されるといった問題も生んでしまっています。

しばしばメディアなどで、不要な物をたくさん溜め込んだ「ゴミ屋敷」が紹介されますが、使われていない物=ゴミとするならば、一見きれいに片付けられた家であっても、実は使われない物に溢れた「ゴミ屋敷」と見ることができるかもしれません。

物を手に入れる際、本来であれば、まず「自分がどう生きたいか」が問いかけられ、そのためには何が必要か、どんな道具があったらいいかという流れになるはずです。しかし、肝心の「どう生きたいか」を考えることもなく、道具への欲求が先行してしまったのが現状です。

あなたはどのように暮らし、どのように生きたいのか。そうした人生に対する問い直しこそが、これからの社会においては欠かすことのできない要素になると考えています。


■ 私たち「ジャパンライフデザインシステムズ」の40年の取り組み

私たちは、起業した40年前から現在に至まで、一貫して生活者の要望軸がどのように変化しているかを掴み、それを整理・分析することを活動の柱としてきました。

商品やサービスに対してリアリティのあるコメントができるかは、自らのお金や時間を使ってくれている顧客だけです。だからこそ、企業や提供者の勝手な都合や思い込みを捨て去り、顧客や社会からヒントを受信するための仕組みづくりにアイデアや創造力を発揮することが大切と考えてきました。

そうした中、私たちが行ってきた特徴的な事業活動の一つが、多種多様なメディアの中から新しい事実や情報をピックアップし、それをコンセプトキーワードにまで整理・集約して発信するというもの。

ただ情報を眺めているだけでは、変化を見つけることはできません。業種や業態などの垣根を超えた様々な情報から核となる共通項を見つけ出し、そこから生まれた新たな仮説を提案・提言していく。こうした取り組みを、時代と並走するためのトレーニングの一環として、長年積み重ねてきました。

生活者研究によって導き出す次なる価値観

そうした研究や分析を繰り返してきたことで、現在直面している様々な課題に対しても早い段階から気づくことができ、それを書籍という形で発信してきました。

例えば、今から35年前に出版した『地球人』(1987年 講談社)では、「地球化を拒否するものは、人も企業も国も全て滅びる」とし、その当時から社会が「地球化」へと向かっていく流れを指摘しています。あらゆる国や地域の人たちが同じ「地球人」として存在するようになり、エコロジーの観点からも全ての人が「地球のために」という視座を持つことの重要性を強く訴えました。

また『ホームクリエーションの時代』(1994年 プレジデント社)では、家での暮らしや近所での楽しみが生活の中心となり、それらを足場として新しい生活創造を楽しむ時代がおとずれると述べています。こうした流れは、コロナ禍によってDXが急速に進む中で、ますます顕在化してきているといえます。

経営理念にも掲げているように、私たちが目指しているのは「生活者を主人公とした社会の実現」です。そのために、販促を中心としたマーケティング手法ではなく、生活者に寄り添い声を聞くということを常に念頭に置きながら、次の価値要望をすくい上げることを使命として活動を行ってきたのです。

谷口正和著『コンセプトウォーク』(ライフデザインブックス発行)

◆小さな変化を感性で拾い上げる情報分析誌『IMAGINAS(イマジナス)』

私たちは、長年にわたって情報の分析・整理・発信を続けてきました。その中で、情報社会における生活者研究室としての機能を果たしながら、新しい価値を発信するための仕組み・方法として構築してきたのが、マーケティング情報誌『IMAGINAS(イマジナス)』です。

これは、世の中にあふれる情報をフラットに見わたし、「常に社会課題を見つける姿勢」をもって次なるソーシャルトレンドをすくい上げることを目的としたもの。様々なメディアの中から、その週に発信された情報を集積・集約し、直感分析を行い、コンセプトキーワードとして配信しています。
これこそ、私たちが長年にわたり継続して行ってきた、時代と並走するためのトレーニングです。


※ 次号は、谷口正和が語る② コロナ後の社会で重要なこと、近著『コンセプトウォーク』に込めた思いをお伝えします。どうぞお楽しみに。
●後編:コンセプター谷口正和が語る②「コロナ後の社会で重要なこと」