20200115_森さん

東京のコンサルタントから、地方移住してPMに。「RENEW」仕掛け人・森一貴の、自分とまわりの活かし方


PM(プロジェクトマネージャー)とは、その名の通り、プロジェクトをマネジメントする人のことを指す。森一貴という人がいる。彼は、PMとして地方で数多くのプロジェクトと関わっている。彼が手掛けるプロジェクトは、どれも話題性に事欠かず、とても魅力的だ。
 
1年に一度開催されるオープンファクトリーイベント「RENEW」は今年、グッドデザイン賞、総務省ふるさとづくり大賞・総務大臣表彰を受賞した。地方を「人生を問い直す場」として再定義するをテーマに掲げた「ゆるい移住」は、半年間、条件なしで地方に無料滞在でき、対象は全国5市町村にまで拡張。台湾のメディアにも取り上げられるほど注目された。
 
今回の記事では、森さんに、PMという職業、地方での働き方、さらに自身が発信している価値観まで語ってもらった。

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森一貴  プロフィール
山形県生まれ、福井県鯖江市在住。「社会に自由と寛容をつくる」がテーマ。鯖江をフィールドに、誰もが変化していけるための小さな階段づくりを手がける。
半年間家賃無料でゆるく住んでみる、全国連携移住事業「ゆるい移住全国版」ディレクター。多様な生き方に出会う「生き方見本市HOKURIKU」事務局長。職人に出会い、ものづくりを知る、ものづくりの祭典「RENEW」事務局長。

ー本日はよろしくお願いします!森さんはパラレルワーカーかと思うのですが、お仕事内容を教えてください。
 
森一貴さん(以下、森):現在、福井県鯖江市の地域おこし協力隊です。鯖江では、RENEWというイベントの事務局長をしています。また、フリーランスを目指す方に向けたWeb合宿「田舎フリーランス養成講座」の鯖江開催の統括も。そのほかに、「ゆるい移住」という移住企画、イベント「生き方見本市」のディレクター、サイト制作、ライティング…とにかく色々しています。シェアハウスも運営していて、自分の住居と兼ねているんです。
 
ーすごいご活躍ですね!プロジェクト単位でのお仕事が大半かと思うのですが、ぶっちゃけ収入は…?中期的なプロジェクトもあるので、月によって変動が大きいのかな、と。
 
森:僕の場合は、地域おこし協力隊としての定期収入があります。変動はありますが、生活に必要なお金はまかなえるので問題ありません。
 
ーなるほど。ベーシックインカムのような感覚でしょうか。田舎だと、そもそもの生活コストも抑えられそうですよね。
 
森:そうですね、野菜などはいただきものばかりですし、家賃もびっくりするくらい安いです。
 
ー森さんは、山形のご出身で、大学は東京。新卒で入社した会社も東京ですが、縁もゆかりもない鯖江にどうして移住することになったのですか?
 
森:現在、僕がディレクターを務め、全国5市町村に展開している「ゆるい移住全国版」はもともと、鯖江市主催のプロジェクトだったんです。そして、その一期生として鯖江に短期移住したことが始まりです。
 
そのとき、東京のコンサルティング会社を退職して、都内での転職先も決まっていました。しかし、鯖江でいろんな人に出会って、価値観が変わり、移住することにしました。
 
もともと「まちづくり」と「教育」に将来は携わりたいと考えていたので、それを鯖江で実践しよう、と。

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自分がやりたい仕事を探す、自分が活きることをする

ー森さんのような働き方に憧れ、地方移住を試みる方もいるかと思います。ただ、ゆかりのない土地で仕事をつくるのは大変ではないかと想像できます。どういう心構えでのぞめばよいのでしょうか。
 
森:僕が鯖江で仕事をつくれたポイントは、「結果を求められない期間」があったという点です。まず最初に、鯖江のデザイン事務所にボランティアでもいいので、RENEWを手伝わせてほしい、とお願いしたんです。ボランティアで、という形もですし、貯えもあったので、すぐに数字を出さないと・稼がないといけないという状態にはありませんでした。
 
地方移住をして仕事を作るには、この期間を設定することが重要だと思います。色んな事をし、道がぐにゃぐにゃと曲がりくねってもいいんです。そのなかで、「自分には、こういう感じがあっているのかもなあ」と思える瞬間を探すことが、稼ぐことよりも大事です。
 
ー有名な大学を出て、コンサルティング会社に就職して…順風満帆なステップを踏んでいるように思えるのですが、どうして仕事を辞めたのでしょうか。
 
森:僕は、小学校四年生の時に、「人間は生きる意味なんてないんだ」って思って泣いたことがあったんです。二年生のときには、同性を好きになって、どうして性別が区切られているのか疑問に思ったこともありました。そんなふうに、社会や人間や幸福について悩むことが多かったんですよね。
 
それが、コンサルティング会社に就職して、「論理的に考える」という手段を身につけました。考え方の体系があることが分かると、いままで「悩む」だったことが、「考える」に変わっていったんです。そこから、論理的思考を使って、半年くらいとことん自分について考えました。
 
そこで、自分の幸せのキーになるのは、自由・可能性・複雑性の解消・余裕・好奇心であることに行き着いて、これにそって生きようと思って会社を辞めました。

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ー森さんは現在、プロジェクトマネージャーという側面をもっていると思いますが、この職種にたどり着いたのはどういう経緯だったのでしょうか。
 
森:もともと、スケジュールを決めたり、資料を整頓させることが得意でした。得意というか、そうしないと気が済まない、勝手にそうしたくなる、という感じで。それらに、たまたまプロジェクトマネージャーという名前がついたという感覚をもっています。
 
鯖江のデザイン事務所には、「なんでもやります!」というスタンスでボランティアからはいったので、本当にいろいろなことを経験させてもらって…様々な職種の作業工程を知れたことは役立っているなと思います。
 
ー自分が得意なことが、この仕事だった…とても自然な形でプロジェクトマネージャーになったんですね。
 
森:誰しも、「これをやらないと気が済まない!」というものが日常の中にあるじゃないですか。それが仕事としてフィットするのが一番だと思います。

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プロジェクトマネージャーとしての姿勢

ー森さんは、PMを務めるプロジェクトの仕事を、友人に任せることが多いと聞いています。
 
森:仕事をとにかく気持ちよく、楽しくやりたい。友人にお金を渡せた方がこちらも嬉しいじゃないですか。ビジネス的な関係の人と、「〇〇様、いつもお世話になっております」みたいなあいさつからはじまるコミュニケーションは、もったいないなとも思っていて。
 
仕事から入って知り合った人とも、友人として仲良くしたいですね。せっかく出会えたのなら、友人になりたい。
 
ー友人間でちいさな経済がまわるのは素晴らしいなと思う反面、仕事をお願いしてみると、思った成果が得られないときもあるのではないでしょうか。
 
森:もちろんあります。そのときは、正直「しょうがないことだよな」と思うしかありませんね。PMって、上に立って先導するようなイメージをもたれますが、僕は上に立ちたくはありません。プロジェクトメンバーとは対等でいたいと思っています。
 
最近、よく聞くようになったティール組織が理想に近いかと思います。マネジメントせずメンバー個々人がそれぞれに意思決定して動くのがティール組織ですよね。僕は仕事を任せたり、プロジェクトの進行を分かりやすくしたり、そういうことはしますが、個々人を管理することはしません。

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ー森さんの発信を見ていると、「寛容」というキーワードが印象的です。「弱くたっていい」と受け入れてくれるようなメッセージを感じます。しかし、実際に仕事となると、この弱さがプロジェクトの進行に影響を与えてしまう懸念があるのではないでしょうか。
 
森:僕が掲げるテーマは、「社会に自由と寛容をつくる」で、それは仕事という場面に限られなくていいと考えています。確かに、弱い人は、仕事で成果が出せず、任せる側もどう振舞うべきか分からなくなることもあるかと思います。
 
ただ、誰しも、活きる部分や、やりがいを感じる部分があると思っていて。それをしていけばいい。仕事である必要はなく、日常生活の中の必要な行いでもいい。それが仕事になっていく、というか、みんなができることをやって生活できるような社会の仕組みに変えていきたいです。
 
地方はコストが低く、そもそも稼ぐ必要の額がちいさくなるので、仕事と生きることを分けて考えやすいという側面があります。そういう意味で、地方は、僕が理想とする社会を実現しやすい土壌ではありますね。
 
ー森さんがPMとして心がけていることはありますか?
 
森:人によって、コミュニケーションの取り方をアレンジしています。僕は論理型のタイプなんです。人間は、5タイプくらいに分けられると感じていて、それぞれ仕事がすすめやすいコミュニケーションの仕方が異なります。
 
なので、まずは、その人がどのタイプかを知ることから初めて、それぞれに合ったコミュニケーションをとるように心がけています。

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選択肢をひろげていく

ーさきほど、社会を変えていく、というお話がでましたが、そういった意味で森さんは教育に関心があるのでしょうか。
 
森:鯖江に来るまで、「教育がやりたい!」と思っていて、実際にここでそれが実現できました。ただ、やってみて気付いたんです。「あ、僕、教育やりたくないな」って。
 
教育って、時に、学びたいと思っていないことを教えなくてはいけない場合がありますよね。それはもちろん、義務教育など、必要なことではあります。先生は素晴らしい職業です。ただ、僕自身は、望んでいない人に対して介入をして教える、ということにとても違和感を感じたんです。
 
やりたい!学びたい!変わりたい!あるいは、もやもやして、何をしたらいいか分からない、そう思った人に、ひろく選択肢を提示しておくことがしたい。もしかしたら、これは教育と地続きな考えなのかもしれません。
  
社会を変えようと思ったら、もっと根本的に、日本社会の制度などを変えていく必要があるので、政治にも興味があります。
 
ーなるほど。森さんのような働き方・生き方は、多くの人にとって新しい選択肢のひとつとして映りそうですね。
 
森:僕がやっているプロジェクトは、すべて軸にこの想いがあります。生き方見本市ではいろんな生き方の選択肢を、田舎フリーランス養成講座では働き方の選択肢を、ゆるい移住では暮らしの選択肢を。これからも、自ら行動しようとする人に選択肢を提示しつづけたいですね。
 
ー実際に、選択肢として、森さんのように生きたいと思った方いたとき、「なにから始めたらいいよ」とアドバイスをされますか。
 
森:まずは自分を知ることですね。僕は論理的な人間で、それにたいしてとても意識的なんです。だからこそ、感情的な人間を見て、素敵だなと思う部分は真似するようになりました。弱さは誰にでもあります。それをカバーするには、人に頼るか、インストールするかをすればいいのです。
 
よく、「森は器用でいいよね」と言われるのですが、それは僕が自分ととことん向き合い、足りない部分・必要なものを身につけようとしてきたからだと思います。

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また、これは何歳から始めてもいい、ということも伝えたいですね。僕、小学校の頃にゲームにめちゃくちゃハマっていて、「リセットして、またスタートできる」という世界がとても魅力的に映りました。現代社会もそうであってほしいと思っています。「人は、何度でもやり直すことができる」。だから、いつでも、いまからでも、新しいことに挑戦してもらいたいです。

ー本日はありがとうございました!

編集後記:
PMという職業は、ひろい視野が必要なものだと思っている。森さんにはそれがある。とてもひろい視野で、関わっているメンバーはもちろん、その人たちを取り囲む関係性までも見ているようなところがある。
 
SNSを通じて知る森一貴は、とてもきちんとしている。優しく、賢く、芯がある。一方で、実際の森さんの印象はどうかというと、ちょっと違う。結構だらしない。ノリが軽い。仕事の投げ方が雑。でも、だからこそ、この人の周りには余白があって、それを自然と埋めるように働く理由が生まれる。なんだかずるい人だな、と思う。彼の周りで、活き活きと楽しそうに働く人たちを見ると、敵わないな、とも思う。
 
才能だと言ってしまえば、簡単かもしれないが、たぶんそうじゃない。取材からも分かるように、彼は誰よりも考えて実践してきた。だからこそ、強くて深みがある。あまりに魅力的だから、「森さんはいいよね」と言ってしまいたくなるが、彼がこうも人を人を惹きつけるのは、才能ではなく努力だ。匙を投げず、まずはその匙に映った自分を見つめることからはじめようと思う。人は何度でもやり直せるよ、と、言ってくれる人がいるから。


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取材・執筆・編集:野里のどか(@robotenglish
撮影:北村渉(@wataru51
アイキャッチデザイン:ラカニメタあきら(@AKIRa_akitooon



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