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埃をかぶったMacを手放したら、ミシュラン三つ星に行けて、なつかしさとあたらしさが込み上げた話。

神戸に大好きな三つ星レストランがある。

イタリアン?それとも、フレンチ…?

いや、ちょっと変化球で「スペイン料理。

再訪を待ち侘びていたが、5年前に訪れたのを最後にコロナ禍やなんだを言い訳にすっかり足が遠のいてしまっていた。

それがこの度任期を終えて放置されていたMacを手放したら、ありがたくも臨時収入が手に入ったので、ついに再訪を叶えることができた。

めでたし。


任期を終えて、自宅の隅に追いやられたMacbook Pro

遡ること2年ほど前。

Macbook AirにM1チップ搭載機が発売されてそれを手にして以来、すっかり出番がなくなってしまったMacbook Pro 13インチ

ちなみに、Macbook Pro 13インチは私のフリーランスデビュー初期の頃を支えてくれた名機だ。

当時は仕事の相棒としてProの活躍には感謝しつつも、使い込みすぎて動作がもっさりしてきていた。

そんな事情もあって、

「予定よりずいぶんと早い乗り換えだな…」と自覚しつつも、

フリーランスは仕事道具が命、という言葉を都合よく利用して、M1チップ搭載のMacbook Airに乗り換えたという訳だ。

当初思っていた、

「Airで大丈夫なんか…?」

という心配は杞憂に終わるほど、このM1チップを搭載したMacbook Airというのは想像以上に優秀だった。

Webサイト制作もすれば、デザインもする。加えて、写真編集もする私の仕事の範囲内であれば、最低限のスペックで十分事足りるほど、サクサクと気持ちよく動いてくれることに感動した…。

とはいえ嬉しい反面、以後旧相棒のMacbook Proの出番はすっかりなくなってしまった。

つまりProは、以後自宅オフィスの片隅に追いやられることとなった。

ちなみに、「2台」あった。

出番がなくなって以来、手放そうと頭では思っていたものの、なかなか行動に移せないまま月日は流れていき、

「いい加減にどげんかせんといかんっ!」と

ついに、今年のお盆休みに下取りに出すことにした。

そして、ふと思った。

これ売ったら、Ca Sentoに行けるんじゃないか…?」と。

Ca Sentoとは、先述した三つ星レストランである。

まだ世の中の右も左も分からなかった二十代前半の頃に、初めて訪れたときに覚えた感動は、

食事というよりも、もはやエンターテイメント・・・?

と今よりもさらに感動表現の語彙に乏しい当時の私は甚く感動した。

それ以来、特別な機会を狙って訪れる格上レストランの中でも、頭一つ跳び抜けた別格の存在として位置付けられていた。

…っと、この時の私の心境は、箪笥預金を見つけた時と同じように浮き立った。

そうと決まれば一年発起して、ラクウルで下取り査定をしてみた。

好きな食事のために旧相棒を身売りに出すなんて…と気持ちが揺らがなかった訳ではないが、最終的には「背に腹はかえられん。」とあっさりと手放すことにした。

このまま宝を眠らせて価値を半減させてしまうより、新たな価値に生まれ変わらせて日々が潤う方がきっと回り回っていいに違いない!とさえ思った。

下取りボタンにエンターを押す指圧は、いつにも増して力がこもった。

まるで、宝くじを換金するかのように。

結果は、こうなった。

<下取り合計金額>
Macbook Pro 13インチ(2台)・・・・・・・・・・・・・・ 60,532円

ついでに、以前自らの不注意により落下させてしまい、画面がスパイダーマンの蜘蛛巣のようにひび割れた『Apple Watch 4』もこの際同封して下取りに出してみた。

しかし、こちらはさすがに値付け対象外となった。

画面のひび割れたApple Watch 4 ・・・・・・・・・・ 0円(チェっ)

ヤフオクやメルカリで売ればより高値で売れたとか、もっと早く売りに出していたら、なお良かったのでは?とか、色々と見方はあるかもしれないが、私はこの査定には概ね満足していたので、即承諾した。

そして、このお金はCa sentoを訪れるためにとっておこうと誓ったのであった。

神戸三つ星レストラン『Ca sento』とは

神戸という土地の優しさを表現するがコンセプトのスパニッシュ名店。
決して派手ではない、「良い素材あってこそ」と素材の隅々まで真摯に向き合い、
チームの総力で生み出されたもの。無機と有機が調和するモダンクラシックな空間。

Ca sento(カセント)』は、2008年開業された神戸のミシュラン三つ星レストラン。オーナーシェフは、イタリアとスペインで修行を重ねた福本伸也さん。

スペイン、と聞くと「パエリア」が浮かぶ日本人はほぼ100%じゃないだろうか。

私もかつてはその一人であった。

しかし、ここCa sentoの料理は普通のスペイン料理とはちょっと違う。いや、だいぶ違う。

もちろんいい意味で、変化球が効きすぎている。まさにイノベーティブ料理そのものだった。

料理の詳細を言葉で説明するのが難しすぎるので、とりあえず写真を見てほしい(丸投げ…)

スペイン料理でありながら、どこにもカテゴライズされない料理であることをファインダー越しに伝えたい。という私の想いが読者様に伝わると嬉しい。

2023年11月某日 18:00

Ca sento 外観
まるでグランドピアノが置いてあるかのような美しいしつらい
初めて訪れた際に圧倒された建築美。 あたたかく包み込まれるような空間に、引き込まれるように入店したのが昨日のよう。 ひとたび足を踏み入れれば、そこは現実世界と一線を画している空間のように感じる。

この日が来ることをどれほど楽しみにしていたことだろう。

予約が無事完了した2ヶ月前から、当日のことを何度もシミュレーションした。

まだしばらく先だと思っていた予定は段々と日が近づくにつれ、ふと目覚めたその日には当日を迎えていた、という幸運な現象に見舞われた。

その時の嬉しさといったら、私はこれからもきっと忘れないと思う。

夕方、この日のために旧相棒を売って手にしたお金を大事に握りしめるような気持ちでお洒落をして京都から神戸三宮へ向かった。

実際にはお金は口座に振り込まれている訳で現金を手にしている訳ではないのだが、その時の気持ちを喩えるなら、小学生の時にもらったお年玉を大事そうに抱えて、欲しいおもちゃを買いに行くような心持ちだった。

「逃げないでほしい」

予約しているのだから逃げるはずもないのに、欲しいものを手にしたいときの私のはやる気持ちといったら、子どもの頃からちっとも変わっていないように思う。

お店のあった場所の記憶を辿るように、Googleマップに時折助けられながら神戸三宮から山手の方に向かって30分ほど歩いていく。

黄昏時とはいえ、日暮れが早くなった11月というのは、たとえ17時台であったとしてもあっという間に真っ暗に近いほど暗い。

「本当にここにあるの?」と思えた瞬間、目の前になつかしいような新しいような一口には説明し難い感情とともに、見覚えのある建物があらわれた。

「ここだった…」

つい口をついた。

大きな窓から顔を出すスタイリッシュな内装とあたたかみのあるライトに照らされた店内の無駄のない装飾は、訪れた人にここがまるでギャラリーであるかのような気品さを抱かせる。

少し早く到着してしまい、入店するかどうか逡巡しているとお店の中から「どうぞ」と笑顔で目配せしてくださったので、お言葉に甘えて席につくことにした。

前菜

手前から時計回りで、
梨と銀杏、ウニのタルト、食用ホウズキの上にキャビアをあしらった一口サイズの前菜。

乾杯には、自家製のジンジャーエールをいただいた。

すっきりとした甘みと生姜の風味が爽快感がはやる気持ちをひとまず落ち着かせてくれた。

緊張の面持ちでお料理を待っていると、

前菜には全て手掴みで食べられる可愛らしいサイズのフィンガーフードが提供された。

手前から時計回りで、

和梨、クリームチーズ、薄切り銀杏のスライス載せ

たっぷりのウニと卵黄がのった、焼き立ての自家製タルト

食用鬼灯(ホウズキ)、山羊チーズ、サブレ、キャビア載せ

に加えて、

胡瓜とトマトのガスパチョ

も添えられた。

これはストレートにスペイン料理らしい。

前菜のどれもが、どんな味かを一言では表現できない「奥行き」と食べた人に想像させる「余白」を感じた。

料理の説明を丁重にしてくれながらも、どのように感じるのかはお客一人ひとりに委ねられているとしたら、それがイノベーティブ料理の本当の楽しみ方なのかもしれない、とこの時思った。

※という訳で、この辺りから本格的にお酒を頼んでしまったので、ただでさえ難解なお料理と私の曖昧な記憶とが格闘しながら執筆を進めていきます。正しい記録が全てではないことで自らを肯定しつつ、各々に目で見て感じていただけると嬉しいです。

自家製パン

チャバタとバケットの間をとったような素朴でモチモチした生地のパン。

バターやオリーブオイルなどは提供されず、お料理のソースをお供に食べ進めてほしい、との説明がありました。

お魚の前菜

自家製アンチョビとスライスした山芋、金時草添え

あしらいがとても繊細で美しい逸品。

以前にも出していただいたことがあったので、なつかしさが蘇りました。

それぞれ異なる食材を組み合わせて食感の違いを楽しめました。

自家製オイルサーディン、下には小さなバケットが

大ぶりのイワシをオイルサーディンに仕上げた食べ応えのある一品。

臭みなどは全くなく、店内のライトに照らされてなおもツヤツヤと輝く見た目が印象的でした。

白ワインが欲しい。

スープ

雉(キジ)の出汁のコンソメスープ(鶏油添え)
中には、ムール貝と三輪素麺

普段の食卓には決して上ることのないキジの出汁なるものをいただこうとしたら、お店の方から熱さをもろとも感じさせないにこやかでスマートなサーブの後、

器が大変熱いので、お気をつけくださいませ」と忠告を受けた。

それを聞いたにもかかわらず、御多分に洩れず、熱さの許容量が限界値に達して唇を含む、皮膚という皮膚の全てを火傷しかけた。

お味は、塩気に頼らない素材そのものの旨みと滋味を凝縮したスープだった。自身の普段の料理においても、何事も入れすぎは禁物と暗に教え諭されたようにも感じた。

お魚の前菜②

左:すだち釜、カワハギのホモソース和え(イタリアンパセリ、コリアンダー、アーモンド)
右:すだちジュレ 、カワハギ、カワハギの肝

日本人の感覚からすると、お刺身はお醤油で食べるのが王道だと思うが、スペイン料理でよく用いられるホモソース(イタリアンパセリ、コリアンダー、アーモンド)と合わさればすっかり異国情緒漂う味わいになる。

一方、すだちジュレと肝を合わせた方は、濃厚なのにサッパリしていてカワハギの新鮮さが際立った。

お好みで付け合わせのわさびをつけてどうぞ。

と言われて、食べてみたおろしたてのわさびが香り高くほんのり甘くて本当に美味しかった。

わさびはおろして時間が経つほどツンと辛くなってしまうんだとか。

まるで、お蕎麦屋さんでいただくようなわさびでこれだけでお酒を飲んでいたい、という一言は飲み込んだ。

お魚の前菜③

戻り鰹

和歌山から届いたという新鮮な戻り鰹をこれまたお醤油をではなく、スペインらしく赤パプリカとアーモンドで作られたソースでいただく。

肉厚で食べ応え抜群の戻り鰹は脂もしっかりのっていて大満足だった。

フレッシュハーブのサラダ

兵庫県産のフレッシュハーブ、クスクス、ブッラータチーズ、
六甲の牛乳から作ったあたたかいホエーソースをかけたサラダ

フレッシュハーブの中には、可愛らしい小花もいくつか入っていて野山を愛でるような気持ちで(ホンマか…)モリモリいただいた。

クスクスやチーズもアクセントとなって、サラダというよりかはしっかりとボリューミーな逸品だった。

あたたかいホエーのソースは好きずきが分かれる結果となったが、個人的にはアリだった。

お魚のお料理

炭火焼き赤座海老

炭火で表面のみ炙られた丸々と太った大きな静岡県産の赤座海老。

中はほんのりミディアムレアに仕上げられていて、甘い酸っぱい辛いが三位一体となった複雑なソースと泡のフォームにたっぷりくぐらせていただいた。

炭火焼き赤座海老

お魚のお料理②

炭火焼きクエ、水晶文旦のペースト

長崎五島列島のクエを炭焼きにして皮までパリパリに仕上げたお料理。

虹色に光るお魚の表面が美しかったこと…。

お肉料理(メインディッシュ)

熊本牛の熟成牛の赤身とカタバミ
無花果、百合根、なめこのピクルス添え

これまではメインディッシュにジビエが登場することも多かったが、ご一緒した方があまりジビエが得意ではないこともあって、事前にジビエ以外でお願いできないかとリクエストしておいたところ、快く対応してくださった。

代わりに登場したのは、熟成した熊本牛。

赤身は柔らかいお肉でありながらしっかり食べ応えもある国産ならではの良さが際立っていた。カタバミは個人的には脂がのりすぎていて少し敬遠してしまった。申し訳ない。

〆のご飯もの

日本の「おじや」の語源となった、スペインの“オジャ”

「えっ、さっきパンもしっかり食べてたよね?」と思われたあなたの記憶は正しい。

そうなんです、〆は別腹と言わんばかりにお米料理であるオジャを提供してくれるんです。

オジャは、日本の「おじや」の語源となったコース料理の締めにピッタリなブイヤベース仕立ての熱々でやさしいお米料理。

お腹いっぱい食べた後も、これなら胃もたれしないとばかりについおかわりしてしまうほど。

この時、ちょうど風邪の病み上がりだったが、海鮮の出汁が効いたオジャが五臓六腑に沁み渡った。

ひと組ずつお鍋で煮込んで調理してくれるので、当然一度では食べきれないほどの量で提供される。

以前から、個人的にはコースのどのお料理を差し置いても主役級の存在感をはれるのがこのオジャだと思っていたので、「なんとしてもたくさん食べたい!」と今回も必要以上の食い意地を貼ったが、それにしても限界が…

なんと食べきれなかった分は、お持ち帰りに包んでくださいました。神対応すぎる…

デザート①

栗のムース、栗渋皮ジュレ載せ

先ほどまで目の前のオジャに夢中ですっかりデザートの存在を忘れていた。

もうどこにも入る余地など残っておらず、「無理、ギブ、アカン。」と言ったネガティブな言葉ばかりが脳裏をよぎったが、結局食べてしまうのが人間の性ということもあらためて悟った。

木の器に詰められたムースをスプーンで掬うのにも力がいるほど、濃厚な仕上がりだった。

デザート②

弓削牧場のミルクアイスクリーム

これまで食べたどの濃厚アイスにも勝る、超濃厚で高密度なミルクアイスクリーム。

サラッとしたジェラートのようなものを想像していただけに

「さすがに、濃厚すぎるのでは…」

と目を疑いましたが、バターのような深いコクがありました。

・・・

お店を後にする時には、シェフ自らお店の外まで出てきて待っていてくださり、他のスタッフの方とともに私たちの姿が見えなくなるまで深々とおじぎをして見送ってくださった。

とてもあたたかな気持ちになれて嬉しかったし、感激した。

来た道を引き返すように、神戸の山手エリアから三宮駅の方まで帰る30分ほどの足取りもとても軽かった。

これにて、数千キロカロリーが容易に消費されていることを願いたい(そんな訳ないだろう)

栄養が体に満ち足りたのか、数週間に亘ってしつこく長引いた風邪も翌日にはすっかり姿を消していた。

これぞ、美食の本来の効果だったのか、と思えたほどだった。

Ca sento 再訪期まとめ

今回の記事で私が伝えたいのは、自宅に眠っているものが意外な宝に化けるという体験について、です。

世の中には、高級コースにお金を払うことはたやすく、いくら支払ってもお財布が痛くも痒くもない人たちが一定数いると思います。

そのような富裕層の人にとってみたら、たくさんある機会の一回かもしれません。

しかし一方で食への飽くなき探究心を持ちながらも、泥臭くお金を工面して、食べた一晩の記憶は、その過程も含めてエピソードも味も忘れ難いものとなっていると思います。

今回のような手をこの先何度も打つほどわけにはいきませんが、どうしても叶えたい夢があるなら、工夫次第で叶えてあげることができるとひとつの自信になりました。

この日は、ビジネスパートナーの創業10周年の記念日であったこと、翌日には自身がまたひとつ年を重ねる節目の前日であったということが決断の背中を押したことは間違いありません。

普段から豪勢な食事ばかりを楽しんでいる美食家という訳ではもちろんなく、特別な日であったことを最後に付け加えたいです。

今後も、些細な日常のありがたさに感謝しつつ、メリハリのある人生を楽しみたいと思います。

かほ|旅とエッセイ。
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