毒親?
「私のことを愛してくれてることは間違いないのよ。もちろん私も愛してるし感謝してる。でもね、いつも私が何かを目指そうとする度に阻んできたことも事実。」
「例えば。」
「大学受験の時。父が病気で母も不安だったんだと思うけどね。それで色々あって全く勉強が手に付かなかったの。でも、秋が深まった頃やっと受験勉強初めてね、模試のつもりで受けたある大学の給費生試験に受かったの。でもって、これならいけそうと思って私立の最高峰幾つか受験しようかって言ったら、母はね、受験料が勿体無いからやめてって。」
「でも結局その大学行かなかったじゃない。」
「そうなの。哀れに思ったのか、願書出してた別の一校だけ受けに行けばって言われてさ。記念になるようにって。だからもう勉強しないことにして遊んでて、受験日前日に上京して兄のアパートに泊まって翌朝受けに行ったら受かったの。そしたらそっちの大学の方がまだマシだったから行きたくなって、行きたいって勇気出したらいいよって。」
「良い人じゃん。」
「違うのよ。母は友達にどうして私が受けたいって言った私立も受験させなかったのかって責められたらしいの。受かったはずだからって。それでやばいと思ったらしい。」
「もしかして嫉妬ってこと。」
「色んな意味でね。父は病気、自分は鬱っぽくなってるのに、娘だけ自己実現させまいって思ったのかも。殆ど無意識だろうけど。」
「たしか学部も口出しされたんでしょ。」
「そう。私、霞食べて生きたかったの。」
「何その仙人みたいなの。」
「経済にも法律にも興味無くて、考古学やりたかったの。だから史学専攻しようかと思ってね。墓掘りして生きたいって言ったの。そしたらね、『墓掘りではご飯は食べられないわよ。』って。」
「まあほぼ正しいけどね。」
「大学の時はね、留学費用は出してもらえないって分かってたから。でもってね、大学出たら院に行かずにすぐ働いてって言われてたから、卒論面接で絶賛されて研究室に残って勉強続けないかって言われたけど断ったの。その先生英語の辞書作ってる人だったし、英語学に興味あったから私も本当は院生になりたかったけど諦めたの。」
「絶対向いてたわ。英語学。辞書。」
「でしょ。でもって、母に『研究室に残らないかって教授に言われたけどママが働け働けって言ってたから断ったよ。』って言ったの。そしたら何て言ったと思う?」
「何て言ったの。」
「『バカね、何でハイって言わなかったの。』だって。」
「ああ。」
「そういうこと。私の人生の岐路でいつも目を摘んできたってこと。」
「自覚あるのかな。」
「おそらく以前は私のための善意の行動だと思い込もうとしてた気がする。今はもうそうとしか思ってない。受験の時のことはね、あの時は父のことでおかしくなってたって私に謝ったことがあったの。でも今は忘れたっぽい。」
「母親は娘の自己実現を阻むのか。」
「娘にそういう感情を持つ人もいるんじゃないかな。あと、うちの母は人が病気になると自分も具合が悪くなって人の同情と関心を惹こうとする癖があるの。無意識だと思うけど振り返るといつもそうだったから。私が高三の夏休みに手術で入院した時も私のベッドで横になってたくらい。父の病気のことや更年期やなんかで鬱になってたみたい。」
「そういうのもある意味毒親なんじゃない。」
「うん。ほかにも人に言えないこともあるしね。それを聞いたら驚くわよ。ただね、私はお金の苦労はしてこなかったの。大学の費用も仕送りも。だからもちろん有難いと思っているのよ。」
「だからこそ複雑なんでしょ。結局は親子だろうと他人よね。決して分かり合えないし、同性同士だと本能でライバル視しちゃうのかもね。」
「業よね。」
「かと言って毒を以て毒を制すると家庭崩壊だしね。」
「もしかしてだから親にならなかったの。」
「まあそれもあると思う。毒気にやられたのかもね。」
「お母さんに話したことあるの。」
「一生話さない。でも時が痛みやもやもやを薄めてくれた感じ。」
「解毒剤は時間ってことね。」
「時間に勝る薬はないわ。」
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